日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

大地の芸術祭 2回目

1回目はこちら
http://d.hatena.ne.jp/zaikabou/20060730
宿泊先の『松栄館』で6時半起床。ここの旅館、まるで田舎の大きな家の一室に泊めてもらっているような旅館である。居心地良し。部屋広いし。で、朝飯。オーソドックスなおかずで、またしても自家製コシヒカリのご飯。あああ、美味いなあ。一緒に泊まっていた人も皆さんご飯をおかわり。朝飯つきで4500円だった。
まずはまつだい駅に出て、またしても、自転車を借りる。いやさ、車の運転できないし、ツアーバスもいいけれど、ひたすら見て廻るだけになるのもなんか疲れるしなあ。きつい上り下りが無い所なら、なにしろ道路の舗装はちゃんとしているし、快適なのである。…それにしても、数戸〜十数戸しか無い集落まで立派な舗装道路が通っている、というのは、なんというか、いろいろと、ね。
今日は、『脱皮する家』がある峠集落方面へ。最初に現れるのが、室野という集落の『天竺(287)』

古い民家の中が、草間彌生もびっくりな過剰装飾に仕上がっていて、言うなれば荒涼とした大地に突如として現れる信仰の依代的な存在感。豊かな里山にはまったく似合わぬ異化装置になっていた。
ちょっと先には『影(ei)/来し方行く方(286)』

これも空き家。まだ9時過ぎだったのだが、ちゃんと管理しているこへび隊の人がいた。すべての窓に、この家に住んでいた人、集落の人々の写真が埋め込まれていて、住んでいたころの映像が流されている。集落の人の古い写真、農業用機械や除雪機と写っている写真が多くて、機械が導入された喜びが伝わってくるようで面白い。
さらに進んで、ちょっとキツイ坂を上り、『風のスクリーン(288)』

よくもまあ、こんなところまで開墾して、というような田んぼの中に積み上げられた陶器のスクリーン。壮大な作品。

炎天下、わずかな影を探して木陰に入ると、それまで感じられなかった風が、突如とても涼しく感じられる時がありますが、そんな風の流れを感じさせてくれるような作品。
ここから峠の集落に出る道からは、素晴らしい棚田が眺められる。


特に、朝霧が流れ込むくらいの時間が一番美しいらしい。
集落に入り、『脱皮する家(289)』



日芸の彫刻の学生が2年がかりですべての壁から柱から彫り尽くした家。ずっとこの中にいたら、なんだかオカシクなりそう。大迫力。お客さんの感想が「よく彫ったねえ」しかでてこないんだけれど、とにかく、見たことの無いものを見る体験と言うのはやはり代え難い。テレビで紹介されたこともあってか、とても混雑していた。
そのほか、スーパーの袋で作られた花で、廃校になった学校が埋め尽くされた『無音花畑(291)』

などを眺めて、駅のほうへ戻る…途中に、自転車がパンク。針金のようなものを踏んだらしい。電話しようにも携帯も通じない。しょうがないので、暑いなかを自転車を牽きながら歩く。暑い。30分以上歩き、室野の集落でようやっと携帯のアンテナが立ち、電話。自転車屋さんが軽トラックに代わりの自転車を積んで来てくれた。後でパンクの修理代3000円は取られたけれど、有難いことでした。修理代3000円はちと高いような気もするが、レンタル料が300円と安いし、山奥までの出張サービス料コミなので、ま、しょうがないですね。
自転車で、まつだい駅前の農舞台に戻り、昼飯。野良仕事定食と自家製ジンジャーエール。美味しい。お土産屋に行ったら北川フラムさんがいた。まだ足の怪我は治りきっていないようで、大変だなあ。お土産屋で手拭や空き家改修の本、ふきのとう入りの羊羹など購入。人参ジュースが非常に濃厚で、大変に美味しかった。

まつだい発の14:54の電車で十日町へ。荷物を預けよう、と思ったのだが、駅にはコインロッカーがないそうな。仕方が無いので、出張の重い荷物を持ったまま、飯山線に乗って下条へ。無人駅でタクシーを呼ぶ。

待つ間、駅に貼ってあった、地元の人向けのイラストマップを眺めていた。地元の人用の安いパスポートなどがあるようだ。ところで、ここに限らず地域の人用のコミュニティバスはあるようで、特に地域外の人は乗れない、ということも無いらしい。あんまりおおっぴらにして混雑して、肝心の地元の人が乗れないと困るだろうけれど。
タクシーで願入の集落に向かう。タクシーの運転手さん、いろいろと話をしてくれたが、今年は随分案内看板も増えて分かりやすくなったけれど、最初のころは作品にたどり着けず、で結構苦情などもあったらしい。1710円。これなら、十日町から3000円払って願入まで行って貰ってもよかったかも。まずは『うぶすなの家(13〜21)』で陶芸を



元々の家自体が大変贅沢に作られた家で、所狭しと陶芸作品が並べられていた。
少し坂道を登って、炭化して今にも崩れ落ちそうな『フロギストン(11)』など

じつはここ、学校なのだが、物凄く小さい。冬の間、町まで下りられない時のための「冬季分校」であるらしい。
『脱衣 みしゃぐち(12)』

も見てからうぶすなの家に戻り、お茶にする。地元の人がみんなでやっている食堂。この日は800人も入場者がいたそうで、デザートなどはほとんど売り切れていたが、黒みつがけのゼリーと自家製のハーブティが美味しかった。近所の人が、今夜宴会に使える?というような相談に来ていて、「あんまりジャンジャンってわけにも…」「日本中から人が来るからね、そっちの奥のほうで…」なんて相談してて、微笑ましかった。
次に『山中堤 スパイラル・ワーク(9)』

まるでモネの睡蓮のように、水の上に壷の花が咲く。静かでじっと眺めていたくなるような作品。壷の置かれたパネルは風で動いていた。

山を歩いて下る。この辺りは中越地震震源から近く、山肌には地震の傷跡が沢山残っている。


それはそれはきれいに舗装された山坂を登り下り、途中、『ねこつぐら(7)』

なども見て歩く。夕暮れが迫り、ヒグラシが鳴き、涼しくなった山道を歩くのはとても気持ちい。これで、8kgくらいある出張荷物さえなければどんなにか良いのだが…。手作りのコテージを10年間かけて作っている大阪のおっちゃんの作品なども見て(大阪的センスが横溢していた)、そしてドミニク・ペローの『バタフライパビリオン(2)』

遠くから見るとそれほど特徴的でもないのだが、近づいて、あるいは屋根の下に入ると、鏡面の屋根に四方の景色が写りこみ、とても面白い

池越しに眺めると水面に写りこむ様子が見られたり、ぐるぐる廻りながら見ると楽しい。

さらに集落まで下り、願入から6kmくらいで下条の駅に戻る。燃えるような夕焼けが美しい。

十日町に戻ると、ちょうど夏祭りの最中で、露天が沢山ならび、家々の軒先には提灯が下がる。キナーレに出て明石の湯に浸かって汗を流していると、ドン、ドン、と大きな音。花火の打ち上げも始まったようだ。風呂から出て、キナーレからも花火を眺めることが出来た。

写真には写っていないけれど、きれいな花火が見えたのです。
さらに人出の増えた商店街のなかの店に入り、生ビールに天ざる。お通しに巻貝と枝豆。生ビールが美味しく、一息に飲み干してしまい、また枝豆もさすがに新潟の美味しい枝豆。もう一杯生ビール、それからもずく。
カウンターに座ったのだが、隣の人、さらに隣の人、いずれも一人客で、いずれももたいまさこな雰囲気の人。お二人とも大地の芸術祭に来て、別々のツアーバスに乗ったらしい。今回見た作品の話、それからいろいろと話を聞くうち、二人とも直島に行ったことがあるとのこと。さらに青森県立美術館だの金沢21世紀美術館だの、タレルがどーした、クリムトがどーしたと盛り上がる。
お店の人からも話を聞いたが、2000年は地元は割合冷ややかだったが、2003年のときは街の中心部にも作品が沢山できて、みんなで廻ったりして盛り上がったとの事。しかし今回は、作品が遠い集落に点在しているため、街の中心部にはあまり人がこなくて寂しい、とのことだった。それでもお客さんは随分増えているようで、宿泊施設は大いに賑わっているようだった。(特にこの土曜日などは、泊まるところを探すのに苦労したらしい)それから、あんまり関係無い話だけど、地方の人って集落のことを『部落』って言うよね。いや、知識では知ってるんだけど、さらっと言われると、ちょっとどきっとする。

予定の電車から一本遅らせ、まだ賑わう十日町から21時27分の電車で六日町へ。普通に乗り換えて越後湯沢。22時22分の最終で東京まで戻り、帰宅した。十日町を9時半に出て家まで帰れるってのはすごいね。

建築評論家の五十嵐太郎氏も越後妻有アートトリエンナーレについて書いているので紹介
http://www.cybermetric.org/import/from_twistedcolumn.cgi?key=1069+越後妻有の初日
http://www.cybermetric.org/import/from_twistedcolumn.cgi?key=1070+越後妻有の二日目
http://www.cybermetric.org/import/from_twistedcolumn.cgi?key=1071+越後妻有の三日目