日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

島に渡るまで

またまた、直島に行こうと思う。あそこは何度でも行きたくなる場所だし、なにしろ5月は気候が素晴らしいし、今回は犬島にも行こうと思う。思うったら思う。だから万全を期して、直島のベネッセハウスは去年の11月に予約したし、他の諸々も予約開始日にばっちり予約して、今回は抜かりがないはずだ。
横浜からバスで羽田空港へ。YCATからのルートが変わり、すぐに高速に乗るようになったために時間短縮されて、窓から見える京浜工業地帯に萌え萌えする暇も無く20分で羽田着。チェックインはwebから済ませているので、コーヒー飲んで一服し、さて8時05分発の高松行きに乗り込んだけれど、連休の初めでこの時間帯、検査場は混んでいるわ滑走路は渋滞だわで相当遅れて離陸したけれど到着してみればあんまり遅れていないあら不思議、さぬきは高松空港です

空港からの連絡バスに乗り、途中の官庁街にあるバス停で下車、下りて歩くこと暫し。特徴のある建物の香川県庁舎が見えてきて、ああこれは丹下健三ですね、とまるで建築科の学生のようにふんふんふんと横目で観察したけれど、とにかく目的はうどんであります

はいここ、『さか枝』。タケルンバ卿もオススメしていたお店。とにかく安い早い美味い、な、セルフの讃岐うどんの優等生という感じのお店。ぶっかけ180円に80円の天ぷらを2つ。店のおばちゃんも観光客慣れしていて親切で、うどん、大変おいしゅうございました。雰囲気もいかにも讃岐うどん、って感じでよろしい。県庁に近いから、平日の昼時も混むんだろうけれど、回転が良いからそんなに並ばずに済むんだろうなあ。高松の人たちは、こんなに安ウマな昼飯が食えて羨ましいです。
この日この時間は、自転車でうどん屋めぐりする人などでそれなりに混雑していたけれど、でもまだまだなんでしょうね。後日地元の新聞を見たら、田舎のうどん屋に大行列する人たちの写真が掲載されていた。うどん巡りも修行の様相なり。
さてさてバスに乗って駅に向かい、昼飯もう一軒、サンポート内にある『いただきさんの海鮮食堂』へ。以前にも何回か訪れているけれど、セルフ形式の食堂で、刺身その他、魚が大変に美味い。以前に比べるとちょっと値段が上がったかな、という気はしたけれど、それにしても美味い。堪能し、しかし食いすぎて、港で根っ子が生えそうになったころに船がまいります

瀬戸内の島を眺めながら50分、まだこの日はゴールデンウィークとは言え、まだ平日ですからね、それほど混んでいないフェリーから目印の赤いかぼちゃが見えたら

いよいよ直島に上陸であります

直島 家プロジェクト

宮之浦の港から、ベネッセハウスの宿泊者用バスに乗車。数分揺られるて『農協前』で下車すると、そこはいかのも島らしい、細かい路地が縦横に走り、家々が密集する、“本村”の集落。

町役場のあるこの集落だけれど、ご他聞に漏れず、利用されなくなった家屋がいくつもある。その家屋を改修し、アーティストが家そのものを作品化したのが『家プロジェクト』で、同じような試みはその後、越後妻有でも展開されているわけであります。
10年まえから始まったこのプロジェクト、2006年の直島スタンダードの際には3件が追加されて、現在は7軒体制に。うち6軒1000円の共通チケットと、『きんざ』のチケット500円を、『農協前』バス停目の前の本村ラウンジ&アーカイブで購入してでかけます。

最初に『碁会所』へ。通路を挟んだ2つの和室に、須田悦弘の木彫りの椿、片方の部屋にはひとつだけ、もうひとつの部屋には沢山。相対する庭には椿の木が植えられている。椿の花が咲く頃にくるとより風情があるのだろうな。ただ、須田さんの作品は、さりげないところにさりげなく飾られた時のほうが、味があると思うんだよね…
次に『きんざ』へ。きんざは予約制で、1人15分ずつの作品体験をするようになっている。一人ずつしか入館できず、週末しか開いていないため、事前にwebからの予約が必須。後で行く、地中美術館のナイトプログラムとか、翌日に行く犬島とか、この周辺を廻ろうと思うと、島の間の足の便もあいまって、事前に綿密な計画と予約が欠かせないんですね。いやまあ、空いている時期に1週間単位で滞在するような余裕があれば、そんなのいらないんだろうけどさ…そういうご身分になりたいわー

庭にてしばらく待たされ。渡される作品案内には、静かに待つ時間も体験の一部です、と書かれてあり、軽くジャブをかまされます。

重い引き戸を引いて、中へ。中の空間、最初は外の明るさに目が対応しているため、パッと見えるのは長方形に空間の真ん中を占拠する、なんだか丸くて明るいものと、家屋の地表付近の四方、外から漏れてくる光のみ。家屋の中はとても静かで、聞こえてくるのは風の音や、外から風にのったかのように、囁くように聞こえてくる人の声、バイクや車の小さな音。少し拍子抜けしながら、しかしそのまま、じっと座ってそのまま眺めてくると、目が慣れているのか、いろいろな小さなもの、が見えてくる。
普段は視覚からの情報の氾濫に翻弄されて、見ても見えていないものたち。情報の少ない空間に入れられることで、少ない情報の中から、注意していろいろなものを見出そうとする。そして少ない情報から意味を見出そうとして、やがて、意味を見出そうとしていることに意味があるのだろうか?そこにそれがあることに人間にとって都合の良い意味などあるのだろうか?そんなことを考えて、また暫くぼんやりしていると、ふっと、今まで見ていたはずなのに見えていなかった小さきものが目に留まる。外から聞こえてくる断片的な音や、風。
そんなこんなで15分近くは長いようであっとゆう間で、またしても内藤礼に煙に巻かれたような気もしつつ、外に出るのだった。直島での非日常体験の入り口。
さて、目の前にある民宿兼喫茶店でコーヒーを一杯

以前に比べて、いろいろな店が増えているような気がするけれど、変に雰囲気を壊すような店があるわけでも無し。集落としてポテンシャルが非常に高い感じがする。民家の軒先にかかっている暖簾の大変素敵なのだよね。
さて、次に『はいしゃ』へ


さきほどとはうって変わって、視覚情報の洪水。まさに大竹伸朗な建物。建物の中にどーんとおさまった自由の女神像はシュールと言うほか無く、猿の惑星を思い出しますわね。この『はいしゃ』の建物、本村の集落の外れにあるのだよね。つまり、川はないけれど、意味としての“川向こう”なのだろうか。本村にとって『きんざ』はムラであり、『はいしゃ』は川向こうなのだろうか。いやまあ、それほどの意味はないかもしれませんが
そして次は、『南寺』

この作品も入替えになっており、16人ずつ、15分間の作品体験になる。混雑する時期は、先に行って整理券を貰っておいたほうがいいでしょう。安藤忠雄設計の建物と、ジェームズ・タレルの作品。係員に手を引かれて中に入ると、中は真っ暗で、何も見えない。そのまま、前方を向いて5分〜8分座っていると、ぼんやりと…。これもまた、体験してもらわないとわからない、非日常
杉本博司の『護王神社』は丘の上の神社(ちゃんと、ホンモノの神社)

それから、宮島達男の『角屋』

には、例の発光LEDが家屋の中の池の中で揺らめいていた。あともう一つ、千住博の『石橋』もあります。
そんなこんなで、家プロジェクトを堪能して、そろそろ地中美術館に向かいましょう

地中美術館とナイトプログラム

農協前から、再びベネッセハウスの送迎バスに。一旦、ベネッセハウスで荷物を預けて、さらに送迎バスで地中美術館に向かいます。このあたり、移動距離は短いんだけれど、歩くにはちょっと…な距離なんだよね

地中美術館は、相変わらず写真撮影は大変厳しく管理されているので、これ以降の写真は無し。5月1日の16時30分に到着した時点で、かなり空いている時間帯だった。翌日は非常に混雑していたようなので、この時間に鑑賞しておいて良かった。チケットセンターでレクチャーを受けて、チケットを購入して中へ。入場料2000円、ナイトプログラム体験500円、合計2500円はちょっと高いけどね…
地中美術館は、安藤忠雄設計のコンクリートの建築に、恒久設置される3人のアーティストの作品が展示された空間。環境に配慮されて、ほとんんど地下に潜っているため、地上からは見えない

上空から見ると、光を取る為の穴が沢山あいているように見えることでしょう。パンフレットの表紙写真は、上空からの空撮写真になっている。チケットセンターから敷地入り口までにある『モネの庭』、敷地入り口から建物入り口までのアプローチ、そして、入り口から、四角い、空にぽっかりと明いた“庭”を螺旋状に登っていき…いやが上にも期待が高まる。特殊な空間、安藤忠雄のコンクリートに囲まれて。まあ、空間作りそのものは谷口吉生なんかのほうが上手だと思うんだけどね、環境の勝利だよね…
売店を過ぎて、通路の両側、斜めに傾いた安藤忠雄のコンクリートの壁、またまた開いた空、鳥の鳴き声。そんな空間を過ぎるて地下深くに下りると、最初にウォルター・デ・マリアの作品。まるで神殿の礼拝所のような空間に、階段、大きな黒光りする球体、天井からの自然光。階段を上り下りすると、どこから見ても球体に、天井の四角い窓が写り込む。ただ、正直、まあ…あんまり評価しない作品であるけれど…。日の出から日没まで、作品の表情が徐々に変化しますというのだけれど、変化したからどれほどのものなのかなあ、という気がします
次に、ジェームズ・タレルの作品。「オープン・スカイ」は後程、ナイトプログラムを体験するのでさらっと眺めて、やはりここの目玉は、「オープン・フィールド」。石段を登ったところに、単に何も写っていないスクリーンがあるのかしら?と思うと、スクリーンの中に入れる。淡い光の空間の中を進んでいく不思議。で、これね。以前来た時は奥のほうに柵があって、そこまでしか進めない、というのが目でわかるようになってしまっていたのです。多分、奥のほうに落ちてしまう人がいたせいだと思う。興ざめだ、ということになったせいか、その柵は取り払われていたのだけれど。係員の人が横に付いて、限界点のかなり手前で『ここで止まって下さい』と言うようになったのね。これはこれで、さらにだいぶ先がありそうなのに…と興ざめなのだなあ…。しかも、経年したために、人が歩き回る部分の床がかなり汚れていて、作品の視覚的効果が減衰しているように思う。驚きのままに奥へ奥へとそろそろ進んで行って、ピンポロンとチャイムで、ハッと気が付いて立ち止まる…みたいなのが、本来の作品意図だと思うのだけれど…
そして、最後にモネの睡蓮。やはりここは素晴らしい。地下なのに自然光を取り入れた空間、大理石キューブを敷き詰めた床、白い壁。そして、静かに配置された、モネの睡蓮の大作。明るい、というよりも、沈んだような色使いのモネを自然光の中で見る美しさよ。ああ…
十分に堪能して、地中カフェを貸切のようにして、窓の外に大きく広がる瀬戸内海の風景を見ながらしばし休憩。うん、いい旅だ。
一旦、ベネッセハウスに戻り、部屋に行ってから、再度、送迎バスに乗って、ナイトプログラムに参加するために地中美術館に戻ってくる。ジェームズ・タレルの『ナイトプログラム』は、天井にぽっかり四角い穴の開いた空間『オープン・スカイ』に座り、空の光の色の変化と、間接光の変化とともに味わうためのプログラム。日没の時間を利用するので、季節によって体験できる時間が変わる。この日は18時35分〜19時40分で、すでに美術館は閉館した後なので、チケットセンターに集合して、全員でぞろぞろと移動することになる。参加者は30〜40人くらいいただろうか
なお、以前、やはりジェームズ・タレルが作った、越後妻有の『光の館』で、似たような体験をしたことがある。これは『光の館』の宿泊者しか体験することができないようになっていて、日没と日の出、両方体験できるようになっている
光の館に泊まる - 日毎に敵と懶惰に戦う
光の館、続き - 日毎に敵と懶惰に戦う
さて、『オープン・スカイ』の四方の石のベンチに座り、係員のご案内が終わると、あとはみな、惚けた顔で、静かに天井を眺めることになる。最初に見えるものは、明るい、雲ひとつ無い空にぽっかりと三日月。なにしろ天井に穴が開いているだけなので、雲も月も作品の一部だ。
最初のうちはあまり変化に気が付かない。しばらく眺めていて、あれっ?と、少し色が変わっていることに気が付く。空の色の変化を連続的に捉えることは難しい。はっと気が付いて、色が変わっているな、と思うのだ。そして空の色はだんだん濃くなっていき、天井に埋め込まれた間接照明の灯りも、静かに静かに変化する
相当の時間が経ち、そろそろ空の色も、これ以上変化しないのではないか、と黒くなったころに、間接照明の劇的なショーがはじまる。劇的なショーと言っても、ミラーボールがきらきらしたりするわけではない。赤い光、暗くなり、緑の光、暗くなり…とゆっくり変移するだけだ。しかし、その変移が、さきほどまでのゆるりとした変化になれた目には劇的だ。そして、照明が暗くなると空の明るさに気が付き、照明が明るくなると、空は漆黒の闇へと変わる。照明の変化の途中で、空と天井の境界が消失する、することもあれば、気が付かないうちに闇と光が入れ替わる。空の色はもう変わっていないのに
思わず声を上げそうになるほどの驚きを体験して、ナイトプログラムは静かに終わるのだった。これはいっぺん、体験したほうがいい。ほんとに素晴らしい…
また、ぞろぞろと並んでチケットセンターへ戻るのだけれど、安藤忠雄の空間も、空が暗くなって、まったく別の空間に生まれ変わっていた。

ベネッセハウスのオーバルで

ちょっと時間を戻して…地中美術館の作品を見た後、ナイトプログラムまで少し時間があったので、とりあえず宿泊する部屋に入ることにした。ベネッセハウスは

1992年にオープンした。瀬戸内海が一望できる高台にある『ミュージアム』は、美術館とホテルが融合した安藤忠雄設計の建築。そしてさらに山の上に、1995年にオープンしたオーバルはわずか6部屋の宿泊専用棟、やはり安藤忠雄設計。専用のゴンドラに乗って

登った先には、ほんとうに非日常的な空間がある




これらの建物も、地中美術館のように、自然に溶け込むようになっていてあまり目立たない。真ん中へん、中腹にあるのが『ミュージアム』で、右側、山の上が『オーバル

これ以外に、2006年に海岸に『ビーチ』『パーク』がオープンして


これもやっぱり安藤忠雄の建築なんだけれど、非日常性ではやはり、『ミュージアム』とか『オーバル』に宿泊したほうがいいかもしれません。

さてオーバル、今回宿泊したのは406号室。部屋ごとに作品が飾られており、406号室は工場萌えの教祖、ベッヒャー夫妻の写真が飾られております

この部屋はすぐに予約が埋まっちゃうので、みんな、ベッヒャー好きだなあ、と。勿論部屋からも見える瀬戸内海

やがて夕暮れの時間となり

地中美術館でナイトプログラムに感動した後は、ミュージアムにあるレストラン『一扇』で、杉本博司の海景の写真に囲まれながら夕食。野菜だけのコース、おいしゅうございました

ミュージアムの美術館部分は通常は9時までの入場なのだけれど、宿泊していれば、11時くらいまでの灯りのついている間、自由に鑑賞できる。広い静かな空間で、作品をほぼ独り占めにできる幸せよ。そしてオーバルにも夜が訪れて



部屋には夜食のおにぎりまで用意されていて

大変幸せな気分で眠るのだった…。翌朝、随分早い時間に目が覚めて、朝焼けも眺める




それはそれは静かな空間を独り占めして、徐々に変わっていく空の色を眺めている幸せ。ちょっともやっているけれど、今日もいい天気だ

朝ごはんは、テラスレストランまで歩いて食べた

いよかん100%のジュースも、蒜山高原の牛乳も、そして食事もとても美味い。ここからミュージアムにかけては数多くの屋外作品が展示されていて






海は綺麗で

ああ…直島のベネッセハウスは、本当に離れたくないなあ、と思うところなのだった。…あー、そういえば、ベネッセハウスの作品について何も書いて無いなあ…。いや、作品自体も非常にいいんだけれど、別にモダンアート好きじゃなくてもまたっくもってぜんぜんたのしめるんです、ここ