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日毎に敵と懶惰に戦う

はてなダイアリーから引っ越しました。酒と食い物と美術と旅と横浜と建築と演芸と…

あてどなく、静岡の旅

ひょんなことで、牧之原サービスエリアに行くことになった。なったのですよ。用事は13時から13時半まで。で、ご存じのとおり、私は車は持っていないし免許も持っていない。ご招待状を読むと、東名高速バスの停留所がありますよ、というのだけれど、丁度良い時間に現地に到着できるようなバスが無い。サービスエリアもいろいろエンタテイメントではあるけれど、何時間もいるのは馬鹿馬鹿しい。
そもそも、牧之原って掛川の手前くらいだったんだね…。漠然と、御殿場のちょっと先みたいなイメージだったので、いっそ自転車で行って…なんて思っていたんだけれど、間抜けもいいところでありますな。いろいろ調べたところ、サービスエリアの近所を通る路線バスがある。これも1日何本というレベルだけれど、東名高速バスで行くよりは良さそうだ。とりあえず連絡するバスの路線図とか時刻表を適当にピックアップして、あとは現地合わせて適当に…ということになった。
いただけるもので往復の足代くらいにはなるのだけれど、新幹線で行くほどは出ない。だから、久しぶりに鈍行で東海道を上る(下る?)ことにした。目当ては東京発5時20分の静岡行き。根岸線が架線故障の影響でなかなか動かず、やきもきしたけれど、なんとか横浜で乗り換えに間に合った。これです

おそらく、ムーンライトながらと特急東海の車両運用の名残だと思うのだけれど、この静岡行きは特急用の373系で運転されるのです。もちろん普通列車なので、普通運賃のみで乗車できます。それにしても、東京から静岡まで直通する普通列車はこの朝の1本だけになってしまったんだね、寂しい限り。時間のわりに混雑している車両に乗り込んで座席を確保、あとはぼんやり、鈍行の旅がはじまる。途中の熱海で駅弁を買い、富士駅周辺の工場に萌え萌えし、居眠りしたり本を読んだり、久々の鈍行の旅を堪能すると、8時44分に静岡に到着する。

さて…のんびり鈍行に乗りつつも、考えていたのは、牧之原サービスエリアにどう辿りつくか、ということであり。iPhoneでいろいろ調べた結果、金谷駅から11時10分の路線バスに乗る、藤枝駅から10時57分の路線バスに乗って『相良営業所』で別のバスに乗り換える、静岡駅から御前崎方面に向かう11時のバスに乗って『相良営業所』で乗り換える、島田駅にあるらしいレンタサイクルを借りて富士山静岡空港に寄り道しながら自転車で到達する…以上の4択。プラン4に気持ちは傾いていたんだけれど、どうも雨の降り出しが早そうだったので、早々に却下。だから先を急いでも仕方が無い、実はまともに下りて歩いたことも無かった、静岡を散策してみよう。
駅にあった観光地図を眺めていると、目に飛び込んできたのが『芹沢?介美術館』の文字。静岡にそんなものがあったのか!芹沢?介大好きなんですよ、これは行かねば。調べてみると路線バスで10分ほどということだったので、9時5分の登呂遺跡行きのバスに乗車、終点で下りると登呂遺跡

そして芹沢?介美術館

芹沢?介は民藝運動における重要人物、素晴らしいデザインの型絵染で高名であるけれど、静岡の呉服商で産まれたとは知らなんだ。この美術館は写真撮影可能なのがうれしい



大胆で、柔らかくて、やさしいそのデザインは、本当に好きだなあ…



特集陳列のうちわ、展示空間の構成もすごく良い。手にとって実際に扇げるようにしているのもよい演出


器なんかをさりげなくあしらったデザインもいいんだなあ。色遣いがまた素敵で

この美術館、空間構成もゆったりしていて、いい感じ。白井晟一なんだね

すっかり満足して、最後に、おお、犯罪的に充実しているショップが。図録、絵はがき、風呂敷は大きいのから小さいのまで、ハンカチ、巾着…大原美術館でもちょっとカッとなって買いこんでしまったけれど、大原美術館の品揃えなんか目じゃないぜ!って感じ。お店の人も、ここに無ければどこにも無いです、と胸をはる。結局、カッとなっていろいろ買ってしまいましたが、まだ不完全燃焼だ…恐るべし、芹沢?介美術館。また来るぞ
静岡市立芹沢�_介美術館
また同じバス、10時19分のバスに乗って静岡へ。この時点でプラン1とプラン2は不可能になったので、プラン3、11時の静岡発バスに乗ることになる。で、時間が30分ちかくあったので、さらに寄り道

5月1日にオープンした静岡市美術館が、駅前の再開発ビルの3階にある。ただし、正式オープンは10月で、現在はワークショップなどを細々と行っている状態みたい。



ロビーの空間の白さが、とても印象的



グラフィックデザインは、柿木原政広が手掛けておるのですね
10web
コレクションの無い美術館なので、企画勝負になるんだろうなー。開館記念展はポーラ美術館と印象派かー、そうかー。機会があったらまた来ましょう。
さて、バスの時間だ。駅北口から11時の『相良営業所』行きのバスに乗る。途中まで東名高速を通るバス。これ、バスの中の表示なんだけどね

手荷物の例えとして、『石油缶』は非常に不適切だと思うのだが…どんなもんだろうか。吉田インターで降りて御前崎に向かって南下し、海岸線に出ると、太平洋岸自転車道が並走するのを見ながら

牧之原市の相良営業所に到着。相良町が2005年に合併して牧之原になったのね。

ここで、金谷駅行きのローカルバスに乗り換える。乗客は老婆が2人と私。すぐに私1人になる。途中にあったバス停が『さがら子生まれ温泉』なんというか、子供の出来ない夫婦の執念、村落共同体の怨念のようなものがずっしり降りかかってきそうな名前で、ちょっと遠慮したい名前の温泉だわあ…。しばらく走って12時37分に辿りついた『牧之原サービスエリア入口』バス停は、茶畑の中に

ここからサービスエリアに入ってさるイベントがあるわけですが、その件は別項に譲ります。いろんな意味でしょっぱ…いやいやいやいや。うん。はい。サービスエリアで昼飯も食べて、お土産を買って、また同じバスで

14時38分発、金谷行き。居眠りしている間に金谷駅に15時到着。あめがぼそぼそ降っている。金谷には旧東海道の石畳があるらしいので、ちょっと歩いて行ってみた


雨にしっとりぬれた石畳は風情があっていいものだったけれど、ほとんどは平成3年に復元された石畳です、と書いてあって、なーんだ、という…。全長430mの石畳の坂道を登ると、芭蕉の句碑

観光名所としての句碑のリスペクトされ具合というか、過剰に価値が認められている現状というか、そこんところが相変わらず謎のままだ。50くらいになったら、価値がわかるようになるんだろうか。そして、一面に広がる大茶畑


再び戻る石畳。いちおう推奨散策コースになっているんだけれど、こんな雨の日の急な石畳、誰も歩いてませんよ…

蒸し暑い中、石畳の急坂を行ったり来たりしたので、すっかり汗をかいてしまった。途中にある茶店の座敷に上がり、白玉ぜんざいとお茶を

縁側には茶畑を通り抜けてくる風が吹き込んで、静かで、そしてお茶は美味い。ほっとひといき……だいぶんだらだらと時を過ごしてから腰を上げて、金谷駅へ。大井川を挟んだ島田宿と金谷宿は、かつてはさぞかし賑わったことだろうけれど、今の金谷駅の周囲は静かな住宅地、という感じだった。駅前には自転車を預かる店が2軒ほど。レンタサイクルではなく、自転車を預かる、という商売が成り立つものなのだろうか。
16時31分の電車に乗って、静岡駅へ。17時4分着。このまま帰るのも勿体ないので、『静岡おでん』でも食べて帰ろうかな。占いだの路上ライブだの、なぜかボクシングジムまである、ややカオスな雰囲気の地下街を通り抜け、歓楽街に向かう

三河屋

食べログ三河屋


やってきたのは、赤ちょうちんが並ぶ中にある『三河屋』という店。ごく狭いんだけれど雰囲気が良い店で、大変にフレンドリー。ほかのお客さんと自然に会話が弾むようになっている。創業62年、静岡おでんの老舗だそうな。ブームになってから便乗してはじめたような店をだいぶん批判しておられました(笑)。普段は5時の開店と同時に満員になってしまうらしいのだけれど、雨のせいだろうか、この日は空いていて、おかげですっと入ることが出来た
瓶ビールを頼んで、黒はんぺん、牛すじ、こんにゃくは静岡おでんの三種の神器。ほかにもいろいろ、アジフライが美味かったなあ。『静岡割り』というのがあるので何ですか?と聞いたら、緑茶割りであるとのこと。なるほど、じゃあそれを。パックだけれどその場で入れたお茶で、二階堂を割る、うん、こりゃ美味い。70過ぎの仲の良い姉妹、気さくな50過ぎの男女などのお客さんとよしなしごとを話しながら。
一人は行った飲み屋で同席の人と会話をするとなると、大概は私が年下なわけで、まあ、話を適当にあわせつつ、ちょっとは目先の変わった話をしつつ、面白い話を聞き出す、という姿勢になるわけで、そういうのが面白いか面白くないか、と言われれば、面白いよ、ということになる。70過ぎの姉妹は、横浜の中華街が南京町と呼ばれていたころの話をしている。永田という地名が出てきて、どうも南区の永田のことらしい。なんでそんなローカルな地名が?と思うのだが、極めて歴史のある禅寺の『宝林寺』がある歴史的な地名…ということなのだろうか。よくわからないけれど。
まあとにかく、そんなこんなで過ごすこと半刻あまり。おでんも揚げ物もおいしゅうございました、ごちそうさま

さあ、そろそろ帰ろう。ガラガラに空いている、静岡から18時50分の熱海行きに乗車。雨のわりに明るかった空は、日が陰り、だんだんに暗くなってくる。暗い中、東海道線を東京に向かっていると、高校生や大学生の頃の旅を思い出す。あのころは、いつも西からの戻りは鈍行列車だったよね…。本を読んだり居眠りしたりしているうちに、沼津、三島、そして熱海。温泉にも惹かれつつ、20時18分の東京行きにそのまま乗り換え。ボックスシートに座り、また本を読んだり、居眠りしたりで横浜。乗り換えて桜木町、帰宅。
なんだかあてどの無い旅だったけれど、たまにはこういうのも、いいですね