日毎に敵と懶惰に戦う

はてなダイアリーから引っ越しました。酒と食い物と美術と旅と横浜と建築と演芸と…

大阪で、文楽と草間彌生展

京都、アンテルームの部屋で目覚めて7時半。結構ぐっすり眠ってしまった。身支度を整えて朝飯を食べて(ピタパンサンドもサラダも美味かったなあ。詳しくは昨日の日記を)宿を出る。京都駅まで歩き、JRの新快速に乗って大阪へ。阪神百貨店を覗くと、ガトーフェスタハラダに行列が出来る一方、クラブハリエは空いていた。栄枯盛衰
地下鉄でなんばへ、なんだか寂れている、なんばウォーク日本橋までの道を歩き、国立文楽劇場に辿り着く



久しぶりに文楽見物、しかも大阪の国立文楽劇場での観劇は、吉田玉男が徳兵衛を遣った1111回目の公演以来じゃないかしらん。あれは2002年8月6日のこと、就職して大阪で研修をしているころでありましたなあ。
玉男さん1111回達成 文楽・曽根崎心中の徳兵衛
さて、本日の演目は

義経千本桜と、壺坂観音霊験記。東京の三宅坂に比べればキップの買いやすい大阪であるけれど、この日の会場内はさすがの満員。やはり年齢層は高く、7:3〜6:4くらいで女性が多いかな、という印象。着物の人もちらほら。
今回購入したのは2300円の二等席だったんだけれど、もとよりあまり大きくはない会場。二等席からは、会場全体がとてもよく見えて、人形と大夫と三味線をバランスよく目配せすることが出来る。一方の一等席は5800円、後ろの3列以外はすべて一等席なので、2300円と5800円が、前後でほぼ同じ条件で並んでいる、という…。人形に注視するために、よっぽど前の良い座席を取る…のであれば一等席の価値もあろうもの、そうじゃなければ…特に真ん中よりも後ろの一等席に座るくらいなら、2300円の二等席で充分であるなあ、と思うのです。
さて、義経千本桜。黒子が袖から出て来て『トザイ、トーザイ』とはじまると、ああ文楽文楽だ、となんだか嬉しくなるね。これは義太夫のほうに特筆すべき何かがあるというよりも、やはり、吉野の満開の桜からはじまる、御正月らしさが身上の芝居でありまして、大夫が6人、三味線が5人、ずらり並ぶのが壮観。道行初音旅では人間国宝の鶴澤清治。狐が神出鬼没に舞台上にあらわれ、狐忠信が所狭しと動き回り、そして最後には宙乗りまで、この宙乗りの演出が見事なもので、まっこと、華やかで素晴らしい。狐忠信を遣う桐竹勘十郎が、こりゃ動きが多くて大変だ。河連法眼館の段での鼓担当の人が上手から出てきますけれど、あれは普段は裏方の方なんでしょうか…
休憩中に弁当をいただく。文楽を見に来たら、プログラムは絶対に買ったほうがよい。650円で安いのに内容は非常に充実、話の筋もよくわかるし、床本もついているし。竹本住大夫のインタビューが載っていて、これも興味深いものだった。そして『知識の泉』という解説が、なかなかに素人置いてけぼりなところもまた素晴らしい。

鼓に誘われて狐が出ます。出の趣向は? 一旦小山に隠れ、バタン返シで旅姿の忠信に。黒繻子の着付や赤縮緬の襦袢、馬簾にも源氏車。動きの源太で元結も凛々しく、額に垂れた三本松葉ジケに色気。テン トン ツツンは狐の暗示です。

終始この調子ですからねえ。文楽研究家の高木浩志さん。
さて、30分の休憩を挟んで、次に壺坂観音霊験記。端は御簾内で、一人遣いの人形がひょこひょこ動く、この役の『大ぜい』って表現がなんか好きでしてな。続く沢市内の段、大夫は人間国宝の竹本源大夫。かの有名な『三つ違いの兄さんと、言うて暮らしているうちに』のクドキの場面でありますが…まだ病み上がりであるかなあ、むしろ今回、素晴らしかったのは、山の段の豊竹嶋大夫でありまして。『聞こませぬ 聞こえませぬ 聞こえませぬ聞こえませぬ… 聞こえませぬわいな』まっこと、脂ののりきった大熱演でありまして、聴き惚れてしまった。嶋大夫さんて今年で80歳なのか!凄いなあ。
いやほんと、久しぶりの文楽を堪能いたしました。たまには来ないとなあ。東京でもまた行こう。東京だと切符を買うのが大変なんだよね。
劇場を出て、地下鉄を乗り継いで肥後橋へ。国立国際美術館に向かう。



草間彌生 永遠の永遠の永遠
草間彌生『永遠の永遠の永遠』は、個展であるけれど、回顧展と言うような類では無い。近年の連作『愛はとこしえ』『わが永遠の魂』あわせて100点あまりを一挙にどんと見せるのがメイン、そこに、お馴染みのモチーフで写真撮影可のゾーンを散りばめている。



まず驚くのは、お客さんの多さ。若いカップルやおばちゃんなど大層な客入りで、草間彌生こんなメジャーだったか、と、本当にびっくりする。そして作品、『愛はとこしえ』は、以前見た映画の中で、主に制作されていた作品
『≒草間彌生〜わたし大好き〜』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
勝どき時代のオオタ・ファインアーツで、ほぼ独り占めのように見た記憶がよみがえる
草間彌生とアネット・メサジェ - 日毎に敵と懶惰に戦う
その50点の、1.3m×1.6mのモノクロの連作が、大空間にどどーん、と並べられている。まさに圧巻。実は今回展示されているものは、原画ではなく、シルクスクリーンヴァージョンであるそうですが。偏執的に書き込まれたモチーフの連鎖に、目が離せず、何度も見返したくなる。
そして続いては、『わが永遠の魂』これはカラーの作品。現時点で140点を超えるカラーのシリーズ。色がついたぶん、『愛はとこしえ』のプリミティブに感覚に訴える物凄さグロテスクさは減っているが、鮮やかな色彩は見飽きない。多様で、ちゃんと新しいことをやっていると思う。記録映像の上映もあり、制作する草間彌生の妖怪…いや失礼、なんと言ったらいいんだろう、とにかく凄い。
お馴染みののカボチャや水玉もふんだんに配しているので、誰でも、草間彌生を見たぞ、とちゃんと納得させる商売上手さもあるわけだけれど、そして、お土産も充実したわけだけれど。とにかくね、これだけ大勢の人が、前衛芸術家の(ちょとおかしいおばちゃんの)現在進行形の作品を見に押し掛けている。これはある意味、事件だと思うわけですよ。埼玉、松本、新潟にも巡回するけれど、あの大空間でわっと見てほしいな、という展覧会でありました。
同時開催のコレクション展は、草間彌生を含む、ほぼすべて女性作家の作品。“困難な生” “抗う…”などと作品一覧には書かれているけれど、作品に対面すると、その手触りは、極めて突き放されたような印象を受ける。表面上は、ね。松井冬子のようなむき出しの分かり易さではなく、しかし、じっくり、見ていくと、非常に面白くて胸を打つのです。風間サチコとか旬の作家の作品も結構あって、非常に良い企画だと思いました。
大層満足して美術館を出て、さて、今日は欲張らずに、このまま帰ろう。grafにちょっと寄ってから、歩いて、堂島ホテルの横を通って大阪駅へ、駅構内やデパートをうろうろ。大丸のサンタ・マリア・ノヴェッラ、ちゃんと値段が書いてあってびっくり。銀座や丸の内は書いてないのに…さすが大阪、なのだろうか。伊勢丹の地下食品売り場が非常に充実していて、これまた面白い。しかし、空いているなあ、大丈夫かな。ここで、まだ6時を廻ったばかりなのに安売りをはじめている総菜をいくらか購入、新大阪へ。
新大阪からガラ空きのひかり自由席に乗って、惣菜をいろいろ拡げて、買い込んだビールでさて、至福の時になるはずだったのに…。なんと、あなた、箸が無い…(泣)貰い忘れた。手掴みできるものから手をつけながら、車販を待ち、そろそろどうしようもないぞう、というころに車販のお姉さん。ビールを買い足して割り箸を貰って、幸せな時間。
食後のおやつはいちご大福。国立国際美術館の目の前のgraf高山堂が出張してて、滋賀のいちごを使ったいちご大福を、その場で作っていたので、それで。ついでに滋賀のお米のおはぎも買ったので、これは明日の朝ごはんにしましょう。ゆるゆると時を過ごして新横浜、寒いなあ。まっすぐに帰宅したのでありました。楽しい大阪だった。