日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

円盤レコード寄席に行ったぞ

水曜日、7時48分の京浜東北線にひたすら揺られて北浦和へ。さいたま、朝から暑い…。打合せが終わってまた京浜東北線に揺られて戻り、ニュー新橋ビルで昼飯、まぐろ中落ち定食、まぐろはうまいが随分シンプルな定食でしたな…

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水曜日なのでほぼほぼ定時であがり、関内へ、馬鹿試合の予感が漂う横浜スタジアムの賑わいをちょっと横目に、いつものお店、酒房ぴーへ。
10日水曜はイベントです! - 流浪ぴー
本日は、かの有名な高円寺円盤
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その田口さんの珠玉コレクション、レコードをかけながらの楽しいトークという『円盤レコード寄席〜よこはま・たそがれ・居酒屋編〜』だったのであります。
田口さん、店は高円寺だけれど住まいは横浜。レコードの収集をはじめたきっかけなど。横須賀の、古道具屋がやってる『いい加減な』中古レコード屋が潰れた時に、膨大な在庫を譲り受けたことがあり。それを選り分けたところ『なんだかよくわからない』レコードが大量にあったと。
それはつまり、レコード会社が自分で企画して売り出したレコードではなく、プレスだけ外注されたような変なレコードたち。企業ノベルティとか、宗教関係とか、趣味で作られたものとか。そういうものに着目して聞き出して、集めだしたのがはじまりとか。こういうレコードはまともなレコードショップよりも、古道具屋で、家財道具をまとめて処分した中に埋もれていることが多いらしい。
今日のお題は横浜とお酒…ということで、いきなり、横浜市大の校歌、はじめて聞いたよこんなの(笑)。でも、作詞西條八十、作曲古関裕而って、もう校歌社歌界では王道中の王道、ゴールデンコンビ。続いて、横浜青年会議所がプレスした『歌いつごう ヨコハマのこころ』はよくわかんない寸劇で横浜の名所を紹介したり。
そして、みんなで悶絶したレコードが、横浜のライブハウスがバンドを集めてみんなでお金を出させて、目黒区民ホールで行ったライブを録音したレコード。『こんなレコード作れますよ』みたいな宣伝用に10枚以上のシリーズで出されたとか。演奏はうまいんだけどボーカルが絶望的だったり、演奏がぶれすぎて新ジャンルになっていたり、とにかく説明のしようのない下手くそなバンドが延々続くレコードをみんなで聴いて悶絶したんであります…
続いて、お酒にまつわるレコード。最初に一曲、ポリドール『ビールの水平線』はシングルが300円なので60年代前半でしょうね、と。なかなか良い曲。
で、ここからは、ビールメーカーや日本酒の酒蔵が作った宣伝用ソングが続く。アサヒビールが酒屋に配った、春日八郎『源平出世マーチ』裏は中曽根美樹の『ホップの白い道』。サントリー純生で配ったソノシート『巨泉が歌う…ご当地、ビールは?』♪旅は道連れビューティフル♪どいつもこいつもドイツ人♪なんて暢気なやつ。この頃、プレイヤーは安く売ったけどソフトが高かった時代、なんか聞くものがあれば聞いちゃった時代だったので、配ると効果あったんでしょうね、と
1959〜70年代のサントリーのCMソングを18曲集めたソノシートは、トリスのあの叔父さんが両面にプリントされてる!欲しい!…で、ここから一曲、かの有名な野坂昭如♪そ、そ、ソクラテスプラトンか♪みーんな悩んで大きくなった!♪

続いては日本酒のメーカー…これはレコード作るのが大好きだそうで…まずは定番中の定番、黄桜のカッパの歌!やっぱり、よくできてるよねぇこれ。いろんなバージョンがあることも知る。北島三郎『灘の生一本 富貴』サブちゃんはやっぱり上手いんだな…などと感心。『大関のうた』ロカビリー歌手の鈴木やすし、日本盛『サカリちゃんの歌』ペギー葉山…などなど、大物ばかりが続く。
清酒組合がプレスしたレコードはとにかく呑気の極みな歌なんだけれど、日本酒のオンザロックを広めようとしてる歌詞で、ヘェと感心。若者の日本酒離れ、みたいな危機感がはるか昔にもあったのかしら?
それに続いては、スナックなどがプレスしたレコード。レコード会社に歌手が所属しているので、お金積んで頼むと店とか町内会とかの歌を作ってくれるシステムがきちんと成立していたと。都はるみとか、三橋美智也は、そういう歌がむちゃくちゃ多いらしい…。レコード会社の営業が、店の客に紛れこんで営業して、ちょっと高い値段でレコードを作らせちゃう。作詞作曲から演奏から何から何まで丸抱えで、100万円くらいでしっかり作ってくれるらしい。

勿論、作詞作曲やら歌うのやら、スナックのほうで吹き込んでいるのもあり。あるスナックが作ったレコード、お店の人たちが歌うレコードを聞いたのだけれど、これが裏に歴史有。スナックのオーナーはもともとプロの歌手で、当初はムード歌謡で3枚出したんだけど売れず、では、とブルースにしたらちょっとヒット。続いて、ラテン、フォーク…とジャンルを転々としていき、専属契約から離れた後は、インディーズでエコ方面のフォーク、そしてカラオケ教室、その後にスナックを経営。そしてそして、息子達がフラメンコ歌手になっているという、もはや大河物語。その系譜を、長年足で集めたレコードで聞かせてくれるのだから、田口さん凄い。そして歌手の人生も凄い。これが漫画なら、まさに唐沢なをき『まんが極道』の世界である。
ほいで、その後聞かせてもらったレコード、銀座のあるスナックが作ったレコード『静一人』がすごい。ジャケットをみんなでなんとなく覗き込んで、ん、んん、んんん????なんで手塚治虫の写真とサインが!このレコード、お店のママのファンの手塚治虫が音頭を取り、著名な作家が多数参加して作詞、著名漫画家が多数参加してブックレットまで作り、さらに、さいとうたかをとママのデュエット…他、歌っているのはすべてママで、演歌からアイドル風からなんでもあり…なんなんだこれは。みんなで大騒ぎ。あとで調べたら、このママ、公式ブログまであったのですよ。レコード作ったときのエピソードもあった
宇宙船に連れてって… | 園田静香公式ブログ
この後、さらにディープな世界、めくるめくラッカー盤の世界へ。ラッカー盤とは、その場で録音して1枚だけ作られるレコード。スナックで酔っ払ったお客さんが乗せられて作ったもの、慰安旅行の一コマ、どこかの温泉ホテルで作られたもの…。あるいは栄転する部長のお別れ会で作られたレコード。どうやったらこんなに…みたいな下手糞なものから、新潟のさるスナックで録音された奇跡的な名盤まで…もうほとんど、なんというのかな、レコードを媒介にして昭和的自意識とか、滓に沈んだような日本の庶民史の集大成のようなものが見えてくるのであり。当世の南方熊楠柳田國男今和次郎はやはり在野のこんなところにいたんだな、という、高円寺円盤の田口さんなんですよ、すごいなー
最後にかけられた一枚は、銀座のさるスナックがクリスマスパーティーの招待状につけたソノシート。なんと、森繁久彌による、渋くて味わいのある語りと歌が!会場みんなで、しんみり聞き入ってしまいました。これはお宝だったなあ。
そんなわけで3時間、まったく飽きずに堪能した、凄いイベントなんでありました。レコード寄席はあちこちでやってるみたいなんで、是非一度、聞かれてみるとよろしい。出張店舗で購入したCDも凄かったことを申し添えておきます。
イベント終了後もしばらく飲んで帰宅したのでありました
在華坊(@zaikabou)/2013年07月10日 - Twilog