日毎に敵と懶惰に戦う

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横浜トリエンナーレ2020を見る

本日は朝から横浜トリエンナーレ2020に向かう。

まず今年の横浜トリエンナーレについては、新型コロナウイルスが世界的に蔓延し、あらゆるイベントが中止になる中で開催してくれたことが嬉しいし、関係者の皆さんにお礼が言いたい。展覧会の冒頭、ラクス・メディア・コレクティブの言葉は、今、横浜トリエンナーレを開催することへの覚悟を感じた

『世界をうまくまわすためのマニュアルに書かれた機能や指示がまともに働かなくなったときには、機能や支持そのものを書き換えていかなければならないからです。』

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さて、この展覧会の回り方については、コロコロさんのガイドが非常に詳しく、そしてわかりやすい。

korokoroblog.hatenablog.com

今回の横浜トリエンナーレ新型コロナウイルスの影響で時間指定の入場券のみの発売となっており、パスポートのようなものがない。過去のトリエンナーレ、特に第2回などはパスポートを持って何度も通って楽しんだ身としては味気無いが、状況が状況なので仕方がない。

しかしいきなりチケットを買って回ると、いろいろムリムラが出てしまう。やたらと長い映像作品が多いため、1日で全部見ること自体がそもそも無理な設計になっているので、映像をある程度諦める前提にするしかない。

そのうえで、無料で入れるゾーンにかなり作品があり、また、無料ゾーンにネットからの予約が必須な作品が3つあり、しかもその一つは絶対に見てほしい作品であるという、不思議な構成になっている。そして、有料会場は横浜美術館とプロット48の2つに分かれており、それぞれ、一度出ると入ることが出来ない。無料ゾーンの予約した作品とどうやって回ればいいの?みたいなことになっている。

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時間に余裕があれば、1日は無料の作品を予約込みで楽しみ、もう1日は映像作品をある程度割り切って有料ゾーンをめぐる、ということになるし、1日で回るなら、まずは予約した作品を見て、映像は半ば切り捨て気味に有料ゾーンを見る、みたいなことになる。だってあなた、231分の作品とか、どうすればいいんですか… 

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 映像作品のタイムスケジュールなどについても、コロコロさんの解説が詳しい 

korokoroblog.hatenablog.com

個人的に、現代アートにおける映像作品について思うところを述べると、そもそも大抵の現代アートは8割の人間には退屈で、1割以下の人間に刺さるものではある。そしてどれが刺さるかは人それぞれ。

なので、しばらく見ていないと自分にとってどうなのか判断がつかないが、大抵の人間には退屈な映像インスタレーションが沢山ある中で、それに全部付き合え、しかもどれもランダムに途中からはじまってるからよろしくな!という、この手の展覧会の在り方に、どだい無理があるのだ。

この手の展覧会の慣れている人は、たいてい、映像作品は全部見るつもりは無く、よほど気になったらしっかり見る、そうでなければちょっと見て次に行く、というスタイルになる。ある程度、映像作品の作りというのにもパターンがあるので、ちょっと見ていると方向性の判別はつく。

しかしこれを慣れない人にやれ、というのは、やはりちょっと厳しいし、今回のチケットの売り方などは明らかに全部見られない前提だと思うので、少なくとも主催者側はどういうつもりなのか聞いてみたくはなる。

しかしそうは言っても、何の気はなく見ていたものが、自分にとっての重い問いを投げかけてきたり、普通のエンタメでは得られないような価値観の転換を迫ってくることは稀にあるのであり、そういう瞬間を求めて現代アートの展覧会に通っているようなところもあるのであり、かつ、その場所に行っていたとしても、映像をちゃんと見なかったので出会えなかった、そのような偶然と幸運不運込みで納得している部分もある。現代アートの展覧会というのは、そういうものだと思っている。

話が長くなってしまった。この日は私たちは、まずあさイチ、プロット48に向かい、飯川雄大の作品を体験した

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これは予約が必要なので、ぜひ予約してみてほしい。しかもこれだけ見るなら無料である。説明はしません

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飯川さんは、金沢区に見に行ったピンクの猫の小林さんもかわいかった 

zaikabou.hatenablog.com

その後、有料展示は後回しにして、横浜美術館へ。こちらでも予約が必要なモレシン・アラヤリの作品を体験した後、一旦お昼ご飯。美術館の前でおにぎりを食べた

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で、さて、ここからは横浜美術館の有料ゾーンの作品を。チケットは時間指定、12:30となっているので、その時間にちゃんと行く必要があるのです。ニック・ケイブの揺れ動くモービル

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横浜美術館側の作品は国際展ぽいかっちりした作品が多いけれど、気になったのは岩間朝子、飯山由貴、チェン・ズ、ローザ・バルバらの、映像作品やインスタレーションが混然一体となった空間で

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大きな空間で、あちこちの映像と音声が不可分に混ざり合っており、相乗効果を期待するような作品かも疑問で、これはどの程度、ディレクターや海外アーティストの意思が働いているのか?疑問を感じる。日本に来られない中、ZOOMなどでやりとりしながら作り上げたとは聞いているが…

岩井優の、時節柄的な作品。放射能のことのような、コロナウイルスのことのような、私たちを取り巻く別の意味の暗喩であるような…

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ズザ・ゴリンスカの赤い絨毯は子供の遊び場になっていた

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不自由な体操道具、実際に体操選手のパフォーマンスもあるらしいが、今回は出来るのだろうか

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不定形な物体。触っていいです、というので、過度に戯れていたら、座らないで下さいと注意されてしまった。すみませんすみません…

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映像作品については、岩間朝子の作品は尺的にもコンパクトなので見たほうが良い。飯山由貴の作品は、非常に興味深いのだが、非常に長くもあり、別の機会にゆっくり見たいなあ、これ…。パク・チャンキョンのものは、もう一度行く機会があったら、しっかり見よう。

ジャイアント・ホグウィードを囲む作品は、毒、痛み、女性、テーマが比較的わかりやすくまとまっているところ。今回の展覧会、キャプションが、作者の言葉を引いたもの、詩的なもの、解説、と三段に分かれており、基本的にはわかりにくい。残光の中で新しい道しるべを自ら見つけなければいけないので、わかりやすくないのである。しかしこの部屋はちょっとわかりやすい。

有料ゾーンを出て、旧レストランのジャン・シュウ・ジャンの作品も。映像がかわいいのだが、この紙細工の意味を知ると、少し見方が変わってくる

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横浜美術館を出て、プロット48へ。飯川雄大の作品の秘密の一端は有料ゾーンに入らないとみることは無い。こちらの会場は狭い空間で上映されいている映像作品が多く、人数制限もしているので、なかなか見ることがかなわない。そんな空間をぼちぼちめぐる

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231分という異様な長大作品は、居心地のよいソファが置かれていた。これ欲しい

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全体的に、プロット48は緩い感じがある。作品そのものは緩くないのだが。

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アンパンマンミュージアムだったところの廃墟が、そういう雰囲気を醸し出しているのかもしれないし

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黄金町バザールで見た、エレナ・ノックスの緩いエビの作品がやたらと広い場所を占めていることから、緩さを感じたのかもしれない

そんなわけで、映像作品との付き合い方次第では、1日で全部まわってもまあいいんじゃないですか、という感じ。

全体を通じて、これ、という突き刺さった作品があるわけではなかったが、少しずつの引っ掛かりはいろんな部分に潜んでいた。そこから意味を見つけ出す、そんな展覧会なのかもしれない。 これまで日本では見なかったアーティストの作品が多かった、という意味の面白さはあった。

それにしても、時間指定制限入場制を導入した他に、会場の入口毎に検温消毒したり、イヤホンなどの小道具や日傘も都度消毒したり、触れる作品前で消毒を促したり、狭い部屋の映像作品で入場人数を制限して管理したり、全体の入場者数が減る中経費は増えて、本当に大変だと思う。

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いつも以上に気を張るスタッフの人のストレスも高いだろうし、開催してくれて本当にありがとうと言いたい。

昨年のあいちトリエンナーレがあっての本展覧会なので、比べたい向きもあるかもしれないが、そもそも国際展というのは開催ごとに様々な色が出るものであって、去年のあいちトリエンナーレの異様な「わかりやすさ」はジャーナリストが旗を振った結果であり、その前は建築評論家が旗を振ったゆえの特徴があり、そして今回の横浜トリエンナーレは、ラクス・メディア・コレクティヴが旗を振ったゆえの特徴があるというだけの話。あとは好みの問題だろう。

(そういう意味で、個人的には、去年のあいちトリエンナーレについては個々の作品としては良いもの、好みのものが沢山あったが、あの”異様な「わかりやすさ」”は好みではない) 

zaikabou.hatenablog.com

 過去の横浜トリエンナーレについては、毎度、ぼんやりと記事にしている

zaikabou.hatenablog.com

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これ以前については、2011の記事の中で言及しているので、見ていただければと思います。

そんなわけで、1日、横浜トリエンナーレをめぐり、帰宅した日曜日

https://twilog.org/zaikabou/date-200726