日毎に敵と懶惰に戦う

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府中市美術館『動物絵画の100年』

日曜日。8時起床。疲れたので家でぼんやりしていたが、やっておかないと拙い仕事があり、会社へ。終わって、お出かけすることにする。今日は府中。マイミクの方が、府中市美術館で開催中の『動物絵画の100年』は凄くお勧めです、と教えてくれたので、行こうと思うわけである。この方から教えてもらった場合、外れは無いのである。先日の阿佐ヶ谷住宅しかり。
府中駅に降り立ったのは2時半頃。バスも出ているようだが、歩いても15分くらいらしいので、甲州街道を越えてぶらぶらと。少し駅から離れると、住宅地の中に少し畑が混じるようなところであり。それにしても、府中市というのは私的に非常に空間把握が難しいところで、JRと私鉄が不定形に入り乱れているので脳内にビシッとイメージが描けない。そのうちなんとかしてやろう。
府中の森公園という大きな公園が見えてきて、府中市美術館はその中にある。



まだ新しい、立派な建物。箱物だけ立派に作ってしまいました!という感じでも無い。府中市は、府中ビエンナーレもやってるし、芸術文化方面には力を入れているのだろうかなあ。
http://www.art.city.fuchu.tokyo.jp/01_Kikakuten/H18/Doubutsu/doubutu.htm
さて、本日のお目当て『動物絵画の100年』。円山応挙、長沢蘆雪、伊藤若冲葛飾北斎、谷文晁、歌川国芳、森狙仙、司馬江漢…とビックネームが並び、作品数も多いのだが、今回の白眉は何といっても長沢蘆雪である。
まさに目を見張る作品のオンパレード。蛙の相撲図の、簡単ながら味わい深い、見ていて思わず笑みがこぼれる線の見事さ。鷲の力強さと飄々とした熊。墨の濃淡の具合が素晴らしい。犬と戯れる子供たちの、一笑図のおかしみ。亀図の左側2面に描かれた牛との間、空間構成のなんと見事なことよ。もうね、神業ですよ、これは。空白が躍動を生み出している。蛙図屏風も、横に広い面の左隅に、薄い墨で蛙が2匹、ちょこんと描かれているだけなのに、その蛙が、自由な空間へと今にも跳び上がって行きそう。牛と蛙を見れただけでも、遠路来た甲斐があったよ。
そのほか。伊藤若冲の鶴図は相変わらず見事な線。司馬江漢の湖辺遊禽図は、色調が何となく、バルビゾン派を思わせるなあ。風景じゃないのに。谷文晁の絵ってのは、垢抜けないというか、泥臭いですねえ。森狙仙とその一派は、なんだろうか、要するに、猿の毛を描く専門の職人集団なのだろうか。それ以外が案外神経が行き届いていない感じがする。
駱駝の絵が2幅あって、いずれも雌雄2頭で描かれている。これは、日本に初めて来た駱駝が夫婦で来たこと、に由来するらしい。一時期、夫婦仲良く出かけることを「駱駝」と言ったらしい…というのは、落語から得た無駄知識。
今回、他にぐっと来たのが、菅井梅関。順路の初めのほうで見た、いわゆる『想像の象』的な象図も、画面いっぱいに広がる象皮の迫力はなかなかのものだったけれど、最後のほうで見た鵞鳥図の、水の下から、水の上の鵞鳥を見上げているという着想なのだろうか?ゆらゆらと不定形な線で描かれる鵞鳥のオリジナリティに度肝を抜かれた。これを見ると、象図も、また新しい視点で眺めることが出来る。
仙突義梵の虎図と犬図は、のび太が書いたかのような凄い虎と犬で、特に犬がひどい。洒脱っちゃ洒脱だけど、洒脱で済ませちゃっていいのかこれ。出光美術館にコレクションが充実しているらしい。それから、東東洋の虎図と柳に黒白図。いずれもしっかりした作画で全体にユーモラスな感じがするものなんだけれど、なんかユーモラス、の一言で収まらない、闇の深い間抜さを感じる。自分で何を言ってるのかよくわからんけれど…。とは言うものの、一番頭オカシイ、狂ってるのは葛飾北斎だと思う。虎も鯉も尋常一様で無い。
この展覧会、おなか一杯で実に素晴らしいのだけれど、なんと今日でおしまいなのである。しかも、1ヶ月少々の会期で、巡回もしないとのこと!勿体無いなあ。とにかく、教えてくれたマイミクさんに感謝したい。ありがとうございます。
常設展と、地元出身の牛島憲之の作品も。牛島憲之の作品は、工場やタンクや麦藁などを描いたシンプルな線の絵が、色使いがとても好ましかった。