日毎に敵と懶惰に戦う

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テレビで見た 生涯一 やらしかったもの

先日、青山を通りかかった際、梅窓院で郡上おどりをやっていた。それから、昨日、日田の静かな街並みを歩いた。で、そんなものから、テレビで見た中で、生涯で一番、やらしかったものを思い出した。
それは郡上おどりではなく、おわら風の盆なのだけれど。2005年の9月4日の日曜日、台風14合の接近に伴う前線の活発化によって全国で大雨となっており、都心部でも集中豪雨になっていた。
そんな中、NHKが放送していたのはNHKアーカイブス。膨大なNHKのアーカイブスの中から優れた番組を放送していたもので、当時、毎週楽しみにしていた。そしてこの日は、おわら風の盆を扱ったものだった。
http://www.nhk.or.jp/archives/nhk-archives/past/2005/h050905.html
極めて意欲的な番組で、後にギャラクシー賞の記念賞を取っているのだけれど、深夜にかけて行われるおわら風の盆を生中継した番組だったのだ。1985年の番組なので、いまほど八尾は大混雑していない。静かで物悲しいが芯の強い旋律と共に、風の音や川のせせらぎまでが闇に吸い込まれていくようであり、その街の中を、無言の踊り手が静かに進む様子を、一切のナレーション無しでカメラが追っていく。
そう、ナレーションは無い。ナレーションは無いのだが、ここにかぶさってくるのが、高橋治の『風の盆恋歌』の朗読、読むのは佐藤慶加賀まりこ。上の番組詳細では『艶っぽい魅力』と書いてあるが、そんな生易しいものではない。だってあなた、佐藤慶加賀まりこですよ。谷崎潤一郎の『白日夢』において、愛染恭子と“本番”を演じた佐藤慶と、元祖小悪魔というか、この人の前に小悪魔なくこの人の後に小悪魔ないという加賀まりこですよ。
高橋治の小説を、そこまで情念込めなくても良いのではないか、というほどの熱演で演じていく佐藤慶加賀まりこ。静かな旋律、進む踊り手。
と、雨はますます強くなり、ついにはNHKの画面にL字が入る。記録的短時間大雨情報とか、床上浸水だとか、一時間に100ミリだとか、中野区で避難勧告だとか、ただならぬ事態。勿論、テレビを見ている私の家の外からも、ざあざあと大雨の音が聞こえる。
風の盆はますます静かで闇は濃くなり、家の外の大雨にも吸い込まれていくようであり、本来出れば無粋なはずのL字放送すら、風の盆の静けさを際立たせるようであり、そしてその中で繰り広げられる佐藤慶加賀まりこの、間をたっぷりとって、万感の思いで読み上げられる、『抱いて』だの『きつく』だの。吐息。外も中も大洪水。祭りはますます静かに…


あんなに やらしいものを テレビで見た事がない


あれが放送できるなら、AVなんていくらでも放送できると思う