日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

箱根の『四季倶楽部』で、徹底した合理化に驚嘆する

両親と妹から、箱根の『四季倶楽部』というところの予約が取れた、大変安いのであまり期待できるようなところでは無いだろうが、一緒にどうか、と誘われて、箱根に行ってきた。箱根フリーパスで。
天気予報だと暴風雨になるような話だったので心配していたけれど、町田で待ち合わせ、ロマンスカーが箱根湯本に到着するころには雨も止んでいた。工事中の駅舎を潜り抜けて、とりあえずバスに乗り、箱根の関所跡に向かう。
幼少時を首都圏で過ごした皆々様におかれては、箱根の関所と言えば、資料館の生首写真が心霊写真で!みたいな話で盛り上がった記憶しか無いと思われますが、最近発掘された資料を基に、関所の建物が大変丁寧に再現されていたのだった。

解説のおばさんいわくなれば、30億の大金をかけて、建物に使われている材木の種類まで忠実に再現したとのこと。そして勿論、こういうところは再現人形がお楽しみなわけですが

概ねの資料は揃っているけれど、当時の服の色とかまではわからないので、予断を持ってイメージしないよう、人物はあえてシルエットにしています、という念の入れよう。なるほどちゃんとした考証が入っているものと思われる。

丘の上には見張りの番屋も再現され、上ってみれば30億円が見渡せる仕掛け。そんなこんなで、こちらはさっぱり変わっていない資料館をさっくり眺めて、近所の箱根ホテルでランチバイキング。


湖畔の眺めの良いレストランのランチバイキングは、へえっ、ってほど美味い。腹いっぱいになり、再びバスにのり、小涌園まで。ここで施設めぐりバスというのに乗り換えて、ポーラ美術館。1年以内に来たような気もするけれど、まあ、良い。ちょうど濃霧に包まれて、大変、幻想的なことになっていた。

佐伯祐三の展覧会を眺めて、相変わらず良いコレクションを持っているな、と感心し、外に出るころには霧も晴れている

再び施設めぐりバスにのり、仙郷楼前というところで降りて、『四季倶楽部』によるところの『箱根旬香』に到着する。
さて、ここで『四季倶楽部』についてちょっと説明しておくと。
【公式】四季倶楽部 - 365日1泊5,000円の宿
もともとは三菱地所の社員が社内ベンチャーではじめた事業で、かつてはリゾート地に沢山つくられた企業の保養所の有効活用、というのが眼目になっている。企業がもてあましている保養所のを経営を受託、または賃借して、無駄な経費を省いて宿泊施設を運営。平日も休日も1年365日『1泊朝食5250円』という一律価格を設定し、晩飯も概ね3150円に統一されて、日本全国で(箱根や伊豆を中心に)23箇所の施設を運営している。
というわけで、今回泊まった『箱根旬香』というところも、明らかに元企業の保養所だなあ、というつくり。建物は可能な限り手を入れていない。全11室で、元企業の保養所らしく会議室らしきところもあるんだけれど、これはキッズルームになっている。あと、バーカウンターのある部屋が、そのまま喫煙室になっていたり。この喫煙室以外全館禁煙なのは、勿論健康増進法云々…とかもあるのだろうけれど、やはり費用の合理化という面が大きいようだ。
とにかく徹底しているのが、いかに人手をかけずに最低限のサービスをするか、というところのようで。まず、玄関先のスリッパを常に綺麗にならべておこう、というような無駄なホスピタリティはまったく発揮されていない。わりとちらかりっぱなし。布団も勿論自分でひくのだけれど、敷布団のシーツ、掛け布団のカバー、枕カバー、すべて自分でかけるようになっていたのはびっくりした。
で、この『掛け布団のカバー』でちょっと唸ったのだけれど、安いところに泊まるとあんまり洗濯していないような掛け布団の、顔が触れるあたりだけタオルを交換したり…ってのはたまにみかける。しかし、ここは掛け布団のカバーを毎日お客にかえさせてる。費用を削減しつつ、衛生面とか安全面とか、抜いちゃいけないところの見極めをしているのかな、という感じだ。
で、実は、食事はここでは提供されていない。歩いて30mほどのところに『シェモア千石』という、やはりこちらも『四季倶楽部』の手による施設があり、こちらで一括して食事の提供をしているのだ。確かにそのほうが合理的だわな。スタッフも融通しあっているようで、手の多くかかる食事時になると、『箱根旬香』でみかけたスタッフが『シェモア千石』の食堂で仕事していた。
ま、温泉の大浴場は、どちらの施設でも入れるようになっていましたが。『箱根旬香』のほうは狭いが風情はあって、『シェモア千石』のほうは広くて快適だった。
で夕食。これまたびっくり。どんなものが出されるのかと内心ビクビクもので食堂に入り、指定された席に座ると、出汁だけ張られた鍋がカセットコンロ上に。横に豚しゃぶの豚肉のみ、4人分400g。あと刺身数キレずつ、それとカルパッチョ一皿。以上。さすがにざわ…ざわ…と不穏な空気が一瞬漂ったけれど、なんと『鍋に入れる野菜はバイキングで取り放題です』と。鍋バイキング!なるほど、こんなに手のかからない食事は無いな…。実際、給仕するスタッフも最低限だ、というか、給仕という概念もあまり無い。
野菜は取り放題だけれど、豚肉の追加は100g420円だという。鍋の具をみんなで運んで、デザートのわらび餅ももちろんバイキングなのでもりもり運んで、鍋の具を投入、あとはご自由に、ということになる。だんだん、みんな、よく訓練されてくるので、従業員が空いた皿を下げてくれるだけでも『ありがとう!』と声をかけてしまうほどだし、鍋用のゴマダレが無くなると、恐る恐る『あの…ゴマダレの追加は貰ってもよいのでしょうか…』と聞いて、『あ、はい、勿論です…!』と従業員も恐縮しているという、なんだかよくわからない構図になってくる。
しかし、味は悪くない。豚肉は神奈川のもち豚と宮崎のロース肉でなかなかだし、野菜も悪くないし、刺身も悪くなかった。あ、そうだ、後からマグロの竜田揚げも運ばれてきたことを追記しておきたい。
そして驚くべきがお酒。これもバイキングなのですよ。で、勝手に取ってきて飲んで、空き瓶を並べておくと、あとから空き瓶の数を数えて清算する方式なのだけれど、値段がびっくり。ビールはハートランドの500mlが315円って、ほとんど定価だ。そのほか、熱燗が262円、冷酒が300mlで420円と630円、梅酒が180mlで420円…などなどなど。ほとんど酒屋で買うままのような値段がついている。日本酒、梅酒、焼酎などは、佐賀の田中酒造
http://www.sakefuyo.co.jp/
にオリジナルラベルで作らせているようだ。悪くなかった。価格をリーズナブルに抑えておいて、飲み物であまり利幅を取るつもりもないのだなあ。
部屋に戻れば、フロントには

別にフロントに人がいなくってもいいじゃない、という発想のようだ。『フロントでのチェックアウトは9時以降可能です、それ以前はお電話ください』なんて言われて、まあ、それまでの時間は食事の提供の仕事をしているのでしょうなあ。そして、フロントで貰ってきたテレビ番組表は、勿論、広告入りになっていた。そしていろんなことについて、『安いんだからそういうところは、そうよねえ』と、お客さんを味方につけてしまっているのが、凄い。
よくよく考えると、1泊2食8550円(入湯税込み)だとしたら、それなりに泊まれるところもあるんじゃないか、とも思うのだけれど。とにかく、コンセプトで大勝利な宿であるなあ、と感嘆しきりなのだった。
晩飯もなんだかんだと腹いっぱいたべて、7畳間に4人分の布団を敷くといっぱいいっぱいになって(これについては、四季倶楽部はみんなこんなに部屋が狭い…ということではなくて、たまたま空いていたのがこの部屋しかなかったらしい。予約時に『だいぶん狭い部屋ですが…』と言われたそうだ)9時前に寝てしまったのでした。
で、さすがに12時前に目が覚めて、ちょっと飲みなおそう、ということになったのだけれど。自動販売機で売っているビールも、500ml缶が290円。メーカーにこだわりが無く、数種類置かれていた。食い物や酒の銘柄にこだわらない酒飲みを連れてくるには、実に安上がりな宿であるなあ。
評判については、このあたりもご参考に。確かに人手が少なすぎて大変そうだ、とは思った
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/hotel/1219684607/
なお、後日訪れた土肥の温泉旅館は、まったくもって四季倶楽部とは対極にあるな、と思ったのだった。
談林なる一夜 - 日毎に敵と懶惰に戦う