日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

はじめての美術品オークション

先日、アートフェアの開催に合わせて東京のアートめぐりをした際に
アートフェアを中心に、春の東京アート三昧 - 日毎に敵と懶惰に戦う
シンワアートの、コンテンポラリーアートのオークション下見会も見てきた。シンワアートオークションは美術品のオークションを運営している会社であり、先日、岸田劉生の作品が1億3500万円で落札されたのも、この会社主催のオークションでのこと。この会社はコンテンポラリーアート専門のオークションを年2回行っていて、それに先立っては、必ず出品作品の下見会が行われる。
日本の近代美術をリードする シンワアートオークション
先日も、下見会に出品される作品を見物に行くだけ…のつもりだったのだけれど。値付けがかなり安く、ちょっと頑張ればこの値段なら所有したいぞ、と思うような作品がいくつかあった。もちろん、オークションであるから、多数の人が入札していけば、『予想落札価格』よりもずっと高い値段になるのだろう。しかし、自分でも手に入れられるかもしれないと考えると、どうやってオークションが開かれるのか、俄然興味が沸くではありませんか。というわけで、下見会場にいた社員の人に、どうやればオークションに参加できますか、と聞いたのだった。
すると、身分証明書を提示して登録さえすれば、特に費用は必要なく、オークションに参加できるという。その日はその場で登録を行った。いくつか話を聞くに、オークションでは提示される価格に対して“パドル”を上げて購入意志を示すらしい。ほいで、価格には“リザーブ価格”のあるものと無いものがあって、リザーブ価格の無いものは、成り行きで、いくらでも落札できるらしい。実際に会場に来なくても、事前に上限額を示して入札ができるらしい。落札すると、300万円以下には21%、300万円から5000万円までは12.6%の落札手数料を、別途会社に支払う必要があるらしい。
ふんふん、と聞いていたけれど、実際のオークションがどのような手順と雰囲気で開かれるか、実際に見てみないとわからない。というわけで、その日は、例の中国人が干支の銅像を落札した件はどうなるんでしょうねえ、なんて雑談だけして引き上げたのだった。
さて、4月4日当日。会場は下見会と同じ場所、銀座7丁目。17時から始まるというので、30分前くらいにやってきてみた。実は、オークションというので、みんなタキシード着てたり、なんかパーティー会場みたいな豪華な雰囲気で行われたりするのかしらん?ドレスコードに引っかかったりしないのかしらん?と不安になったり、あるいは湯茶接待があったりするのかしらん?とやや期待してやってきたのだけれど…。ちょっとだけね。で、やってきたのだけれど、そんなことはぜんぜんなかった。
入り口入り、今日は入札をしますか?と聞かれるので、一応、入札するつもりがありますよ、と言ったら、入札するための登録が行われた。そして、このパドルが渡される

この札を挙げて、落札の意志を示すらしい。会場の地下に降りてみると、実に事務的にあっさりしたもの。それほど広くない会場、何かの説明会会場のように、椅子がずらずらと70脚ほど。正面にはプラズマディスプレイがあり、おそらく、ここに現在の価格が表示されるのだろう。作品番号が表示されて、現在の価格が日本円で一番大きく。そして、同時にアメリカドル、ユーロ、香港ドル、中国元、韓国ウォンで表示されるようになっている。
パネルの右には、おそらくオークションを主催進行する人が立つであろう演壇、パネルの左には、12席ほど、会場の参加者とは別にテーブルと座席が用意されている。それだけ。シャンパンが用意されていたり、華やかな雰囲気があったり、そういうことはまったくありません。みんなカジュアルな格好で来ていて、後ろの人はコンビニで買ったサンドイッチを食べていた。ふーむ、なるほど。
入った時にはほとんど人がいなかったけれど、次第に人が増えてくる。海外の人も結構おり、欧米人もいるが、それよりも中国人と思われる人が多い。開始を前に会場はどんどん混んできて、座席が足りなくなり、椅子が追加されて100脚くらいなったいた。そしてそれでも足りず、立ち見の人もいくらか。120人以上はいただろうか。雛壇に落ち着いた男性が立ち、落札手数料の説明などがあった後、いよいよオークションがはじまる。
さて、今回出品されているのは、こちらの品物
http://www.shinwa-art.com/catalogue/cata_online/20090404c/001.htm
オンラインのカタログでも見られるけれど、大きな画像が入ったカタログがもちろん販売されている。オークションに参加している人も、ほとんどが所持していた。このカタログは3000円で、ちょっと高いけれど、別に持っていなくても、オークションには参加できる。そしてこのオンラインカタログ、LOTナンバーの横に星印が付いているものと、ついていないものがある。付いているものは、いくらでも落札可能なもの。付いていないものは、出品者が設定したリザーブ価格以下では落札されないものだそうだ。
さて、実際のオークションはどのように進むのか。オークションと言われると、会場の人たちが、一斉に値段を叫んで吊り上げていく…という構図が想像される。しかし、実際にはそうではなかった。オークションの主催は、最初に開始価格を提示する。その価格に対して購入意志があれば、『パドル』を挙げる。挙げた人に購入の権利がある状態になる。主催者は、その価格をしばらく連呼する。それよりも高い価格でも購入する意思のある人がいれば、その人は『パドル』を挙げればよい。その時点の価格よりも高い値段で、『パドル』を挙げた人に購入の権利が移る。主催者はまたその価格を連呼し、別の人が購入意志があれば…というのをずっと繰り返す。そして、価格を連呼しても他に意思表示者が現れなければ、最後に意志を示した人に購入の権利があることになる。
価格が提示される度にパドルを挙げてもいいけれど、ずっとあげっぱなしでも良い。2人以上が挙げっぱなしにしていると、主催者はどんどん値段を吊り上げてくれる。そして、パドルは先に挙げたもの勝ち。たとえばある価格を主催者が連呼している時点で、それよりも高い値段でも買いたい人が2人以上いた場合。先にあげた人が『次の値段』の権利を得る。もう一人がさらりパドルを挙げると、『次の次の値段』での購入権を得ることになる。で、この吊り上げる幅であるけれど。たとえば5,000円からスタートすると、5,000→10,000→15,000と、5,000円刻みで上がっていく。以降、10万円以上は1万円単位、30万円以上は2万円単位、100万円以上は5万円単位でレイズしていた。今回のオークションでは、一番高い落札価格が270万円だったので、それ以上はわかりませんでしたが。
オークションは、実物が提示されたものもいくつかあったけれど、ほとんどは、モニター上小さい作品画像が出てくるだけ。みんな、事前に下見会やカタログで確認していて、どんどん入札していく。作品について細かい説明は無い。同じ人の作品が続くときに、間違えないでね、って注意をするくたいだ。だからペースは早い。124品目のオークションが終了するまで、90分少々だった。とは言っても、慣れていないと入札できない!みたいなペースではない。その時点での価格を連呼しつつ、割合ゆっくり待ってくれるので、落ち着いて落札意志を示せる感じだった。睡眠商法みたいな、雰囲気に呑まれてよくわかんないけど入札している!みたいな状況ではないです。
パネルの左側のテーブルと机に座った人たち、いったいなんなんだろう?と思ったのだけれど、これは、事前に示された購入意志価格に従ってレイズしていく人たちと、電話のやりとりをしながら落札代行をする人だったようだ。電話でやりとりしながら入札できるくらいなので、呑まれるような変なペースで進んでいくわけではないことはご理解いただけると思う。
それと、会場に行ったらやたらと社員の人に懇切丁寧に説明されたりするんじゃないかしらん、買わないと恥ずかしい状況になるのかしらん、という不安をお持ちの方。それはいらん心配です。特に構われずほっとかれて、のんきに観察していてもなんも問題ない感じでした。まあ、撮影は許可者以外禁止です、というので、写真は撮りませんでしたが。
そしてオークションだ。LOT番号1の作品、これは『200,000 - 300,000』となっているけれど、実際の価格提示は17万円から始まった。しかし、だれも購入意志をしめさず、不成立。『パス』と言う時の司会者の声がすごく冷徹です。次の作品は星付き。星つきの作品は開始価格がかなり低い。『50,000 - 100,000』となっているけれど、実際のオークションは5,000円からはじまり、3万5千円で落札された。以降も、当初の提示価格よりも低い値段で落札される作品が結構多い。最初に超えたのはロッカクアヤコのLOT8で、『100,000 - 200,000』のところ、38万円で落札されていた。競る人が2人以上いると、どんどん値段があがる。LOT11の作品、『50,000 - 100,000』のところ、27万円で落札されて、ちょっと熱かった。
以降、断片的に。中国の若い女性が何人か、ガンガン高い値段をつけていくのが目立った。あれは自分の所有に…じゃなくて、どっかから依頼された買い付けなんだろうかなあ。10作品以上、合計700万円分くらい落札した女性が目立っていた。鈴木雅明の作品が結構熱く駆け引きされており、2作品とも、その人が落札していた。
『50,000 - 100,000』なのに、1.5万で落札されたり、なかには5,000円で落札されたものもあり。そんな価格ではろくに手数料も入らないでしょう。オークション会社は商売あがったりですな。でも、そういう値段でも買えるんだなあ、と思うと、興味も沸いてきます。三瀬夏ノ介は、14万円と27万円。うーむ、もう少し上がるかと思ったけれど。そして、内海聖史の作品が、『100,000 - 200,000』のところ、27万円これも案外上がらずにびっくりした。まあ、買いませんけれどね。
小林孝亘の小品は軒並み不成立。たしかに、鉛筆の習作っぽい作品ではあるけれど…。そんなもんなのか。町田久美の鉛筆スケッチも10万円で落札されたし、そんなもんなのだろうな。こういうものは、購入したい人が2人以上いないと、値段が上がらないよね。リザーブ価格以下から始まって、購入意志の表示者はいるのに、競りにならずに価格が上がらず、不成立、というのがいくつかあった。ちょっとこの仕組みが最後までわからなくて、“競りが行われない状況下では適正な値付けがされていないから”ゆえの不成立なのか?とも思ったけれど、詳細はよくわからない。
本城直季が結構出品されていて、全部5万〜10万で落札されていた。 森山大道は不成立になったり…設定価格が高すぎるんじゃないか。なんか、市場の評価価格の空気が良く伝わってきて、やっぱりオークションって面白いわ。司会者、値段が上がってくると、次第に笑顔になるのも面白い。
最高価格は、須田一政の『煙突のある風景』組み写真270万円。まあ、これも予想落札価格の範囲内ではありましたが。案外上がらないもんで、篠原有司男なんかも安いんですね。草間彌生李禹煥、蔡國強あたりはやっぱり強い。一番、予想価格と乖離があったのは、ローレンス・キャロルという人作品、『50,000 - 100,000』が52万円になっていた、かしらん。とにかく、驚くほど上がった!みたいなのはあんまりありませんでした。
そんなこんなで、オークションは6時40分には終了。最後はエディション300のトラやんが12万円で落札されていた。あれ、2年前に21,000円で売られていたやつだよなあ
ギャラリーを巡って - 日毎に敵と懶惰に戦う
落札した人は、2週間以内に現金での支払いが必要らしい。手続きしているのを横目に、会場を後にしました。とにかくとっつきやすいので、ちょっと興味のある人は、行ってみるとよろしかろー、と思うのでした。山口晃が3.5万円とか、奈良美智が(写真だけど)1.5万円とか、買いやすいのも随分ありましたよ。比べるのもなんだけど、ビバンで100万とか払うくらいなら…。と思うのでした。
最終的な落札価格の一覧は、ここにありました
http://www.shinwa-art.com/auction/auc_rakusatsu/contem/090404c/001.htm
合計落札価格が約3000万円、手数料が600万円か。どうなんでしょう、ペイするのかなあ。よくわかんないけれど