日毎に敵と懶惰に戦う

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東京都美術館『日本の美術館名品展』、そして公立美術館について考える

上野の東京都美術館ではじまったばかりの、『日本の美術館名品展』に行ってきた。今回は、美術ブログで有名な…ほいで、脅威の更新頻度にも驚かされる『弐代目・青い日記帳』のTakさんにお誘いをいただいて、学芸員の方から解説をいただく機会にも恵まれた。関係者の皆さん、Takさん、ありがとうございます。
日本住宅に取り入れられていく西洋文化

美連協(びれんきょう)って?

この展覧会は『美術館連絡協議会』という組織の25周年記念の企画。
美術館連絡協議会:YOMIURI ONLINE(読売新聞)
通称“びれんきょう”は、全国に点在する多くの公立美術館の横のつながりになっている組織。日本全国すべての都道府県の、124館の公立美術館が加盟している。美連協のサイトが読売新聞のサイト内にあることからもわかるように、読売グループが協議会の設立に深く関わっているようだ。公共工事ハコモノは出来た、開館時の予算でいい作品もいくらか買い付けた、でもその後のランニングコストは少ないし人材も無いし…同じもの並べていても来場者はどんどん減って閑古鳥、これじゃあ宝の持ち腐れだ…という公立美術館が、互いに助け合って高めあっていくための組織である、と。今回ご一緒させていただいたはろるどさんも書いているように
日本一の公立美術館は横浜美術館? - はろるど
昨今の不況もあって、公立美術館の状況はますます厳しくなっているようであり。新規の収蔵品なんて買えない、補修費用もまともに出ない、海外から作品を借りてきて展覧会なんてとんでもない!というような状況だと、折角良いものを持っている加盟館同士が協力し合って、作品の貸し借りで展覧会を組み立てる必要が出てくる。そのためにも、ますます協議会が頑張んないといけないなー、って状況のようですね。

作品数に圧倒される

そして実際、今回の展覧会は、全国の公立の美術館のコレクションを集めるとえらいことになるなーってのが実感できる展覧会になっている。量も、クオリティも。
全国の100館から集めた220点の作品は、比較的広い東京都美術館の企画展示室にも並びきらず、かなりの圧縮陳列な上に、前期後期で相当入れ替わるようになっている。出品作品はサイトで見られます
日本の美術館名品展(出品目録)
3つに分かれたフロアで、地下1階は洋画、1階は日本の洋画、2階は日本画とはっきりわかれていて、地下から見ていく構成。個々の作品についてはそれぞれの好みがあると思うけれど、個々の作品についてもちょっと。
西洋画は、バルビゾン派から印象派ピカソシャガール、ミロやらダリやらマックス・エルンストポロックホックニーのウォーホルと、よくもまあ、これだけ買ったなあ!と改めてびっくり。ルドンの『ペガサスにのるミューズ』なんか好きですねえ。そこの美術館でみたものもあるはずなんだけど、照明の具合も良いのだろうか、洋画はガラスケースなど無しで鑑賞できるので、以前に見たときよりもよく見えるものもちらほら。ずらずらずらっ、と作品が並んで、おー、と喜びつつもいささか疲れたところで、天井の高い空間に、イヴ・クラインの『人体測定 ANT66』、それを借景にコンスタンティンブランクーシの『空間の鳥』が展示されている光景は、Takさんも書いておられるけれど
「日本の美術館名品展|弐代目・青い日記帳」
空間構成の上手さに唸る。ここで気持ちを入替えたところで、階段を上がって1階、日本の洋画のコーナーへ。高橋由一の『宮城県庁門前図』という、とってもローカルな作品からはじまる。これは宮城県立美術館の出品で、地方美術館ならではの、こういうローカルな作品が見られたりするところも面白い。作品には、それぞれの美術館からのコメントがついていて、これも読んでいくと、作品をちゃんと解説していたり、作品の貸出要望が多いです、って書いてあったり、これは100万ドルで購入しました、なんて書いてあったり、近所にきたら是非美術館に寄ってね!って書いてあったり。こっちのコメントも面白くて読んじゃう。
藤田嗣治の『私の夢』という作品、けっこう目玉的に出品されていて。乳白色の裸婦が美しい。これを出品していたのは新潟の新潟県立近代美術館万代島美術館で、ここはこれ以外にも凄く良い作品を多数出していた。美術館によっても、今回の出品に対する温度差はかなりあるみたいだね…。古賀春江の『蝸牛のいる田舎』なんかも良かったなあ。私はいままで、古賀春江ってモダン!って感じの作品しか見たことがなくて、柔らかいタッチの作品が見れて収穫でした。
靉光瑛九も堪能して、そして香月泰男の『涅槃』、山口県立美術館の所蔵品。暗い画面構成に圧倒されます。こりゃすごいわ。これらの作品、その美術館現地にいけば常に見られるというものでも無いのであり。これだけの作品を一編にみられるというのは、ホントに貴重な機会だなあ、と思うのであります。
2階に上がると日本画の世界。作品保護の観点から、この会の作品はほとんど前後期で入替えになるみたい。菱田春草の『鹿』と『夕の森』が、薄霞む画面の美しさにとても惹かれて、今回の展覧会で一番良かったかもしれないけれど、これも5月24日までの展示になっている。今『一番』といったけれど、バラエティに溢れすぎていて、どれが一番、とか決められんよね。印象に残る作品がいくつもあるのは嬉しいけれど。
甲斐庄楠音の『横櫛』も前期だけか。怪しい笑みを浮かべる女の絵、ゾクッときます。大観の観山の華岳の御舟の…と堪能して、横山操の『朔原』、以前に竹橋で見た『塔』にも通じる、極太の線と赤が印象的な作品、好きです。片岡球子の『面構』は勿論神奈川県立近代美術館の出品。以前葉山であった展覧会、良かったなあ。障沁R辰雄の『食べる』とか、棟方志功の『勝鬘譜善知鳥版画曼荼羅』とか、印象の強い作品がどんどんある。このあたり、見すぎてかなり疲れてきた…。最後には駒井哲郎、浜口陽三、長谷川潔らの版画と、彫刻もいいものがいろいろありました。
わりとサクサク進んだつもりだけれど2時間近くかかった。ゆっくり見たら、相当かかると思われるけれど、とにかく、俺は洋画が見たい、とか、私は日本画が見たい、ってだけの目的で行っても満足できるぐらい、ボリューム満点の展覧会になっているのでありました。

ミュージアムショップも面白い

ミュージアムショップはあまり大規模ではないのだけれど、今回作品を出品している美術館のグッズが、例えば一筆箋まとめて、手拭まとめて、って感じで売られていた。ちょっとした全国物産市みたいになっていて面白い。100館の220点を集めて展示するのも相当大変だろうけど、こっちのミュージアムショップも、もっと品揃え豊富だったらもっと良かったなあ。札幌芸術の森のエコバッグが可愛かった
http://sapporo.100miles.jp/mocas/article/46
カタログも出品全220作品がすべて大きなカラー写真で紹介されたもので見ごたえがありました。

公立美術館の意義とか役割とか

以下、徒然にだらだらと書きますが
公立美術館の役割っていろいろあると思うんだけど。教育的側面というか、その地域の人たちが手近な場所で気軽に美術に触れ合える、ってがまず大切でしょう。ただ、そういうことを考えすぎると、総花的に有名作家の作品をとりあえず買っていこうか…みたいになりかねない。予算もさほど潤沢では無い中でそれをやると、度々引き合いに出してすまんことではあるけれど、横須賀美術館みたいに、名前は知ってるけど二線級の作品ばかり…みたいなツマラナイことになる。遠方から訪れる価値があまり無い。
さっきも書いたように、今回の展覧会では、作品ごとに出品美術館の『コメント』がついていて、それがバラエティに富んでいて非常に面白かったんだけれど。その中で収蔵方針に触れている美術館もけっこうあって、とりあえず集めてしまった作品に、あとから苦し紛れにつけたような収蔵方針もけっこうあるんだよね…。広島県立美術館の『なるべく、他では収蔵しない作品を集める』というのは面白いと思ったけれど。
それから、地元にゆかりのある作家の作品の収集。千葉県立美術館の浅井忠とか、岩手県立美術館だと萬鉄五郎と舟越保武とか。これはとくに有名な作家でなくても、それが目的で行ってみったり、まあ、ここでしか見れないものが見られて良かったなあ、となる。ゆかりが特に無くても、その美術館ならでは…の価値がある場合も多い。山梨県立美術館のミレーとか、群馬県立館林美術館のフランソワポンポン*1とか、横浜美術館だったらシュルレアリスムと写真とか。これは作家や、作家のパトロンからの寄贈が元になっていたり、あるいは地元の素封家からの寄贈が元になっている場合も多いのでしょうね。
今回の展覧会では、そういう、美術館の目玉コレクションからの出品も多かった。そして、そういう出品だと、普段はなかなか目にしないような作家の作品が見られるのも面白かった。横須賀美術館もコレクションの朝井閑右衛門出してたり。谷内六郎じゃなくて良かった…。
そして最近は、遠方からの観光の目玉ということを意識して、建築に力を入れたりする美術館も多いですね。私も、そういう美術館目当てで旅をすることがよくある。公立美術館に限らず、訪れてよかったなあ、と思った美術館を以前にまとめているけれど。
私が訪問した、建築がすてきな美術館たち(東日本編) - 日毎に敵と懶惰に戦う
私が訪問した、建築がすてきな美術館たち(西日本編) - 日毎に敵と懶惰に戦う

とにかく、行って損は無い展覧会だと思います

今回の展覧会は、キュレーションの人の努力が確かに伺えて、組み立ての面白さが感じられた部分もあった。ただ、作品数も多いし出品傾向もそれぞれだし、やはり総花的な展覧会だったなあ、という印象は確かにある。クオリティの高い作品が多いから、それでも凄く面白かったし、見ごたえはありまくりだったんだけどね。実際、作品を貸し出した美術館からも、集めて陳列することに意味があるの?みたいな意見があったみたい。公立美術館の抱えている問題のようなものも、仄かに垣間見られる展覧会だったような。
次回以降同様な企画で展覧会を開催する際には、もう少し方向性とかテーマのようなものがあってもいいかなあ、と思うのだった。まともかく、じっくり見るとかなり疲れる展覧会ではあるけれど、行ってみる価値は十分にある。普段は美術館に行かないような人も、自分はどんな作品が好きなのか発見できる機会にもなると思う。上野の他の美術館博物館に比べてば空いていると思うので、行ってみることをオススメしておきます。

*1:wikipediaで見たら、収蔵のきっかけは、「分福茶釜」の茂林寺から「ぽんぽこぽん」の語感に引っ掛けて…って書いてあったぞ。すげえな