日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

直島 家プロジェクト

宮之浦の港から、ベネッセハウスの宿泊者用バスに乗車。数分揺られるて『農協前』で下車すると、そこはいかのも島らしい、細かい路地が縦横に走り、家々が密集する、“本村”の集落。

町役場のあるこの集落だけれど、ご他聞に漏れず、利用されなくなった家屋がいくつもある。その家屋を改修し、アーティストが家そのものを作品化したのが『家プロジェクト』で、同じような試みはその後、越後妻有でも展開されているわけであります。
10年まえから始まったこのプロジェクト、2006年の直島スタンダードの際には3件が追加されて、現在は7軒体制に。うち6軒1000円の共通チケットと、『きんざ』のチケット500円を、『農協前』バス停目の前の本村ラウンジ&アーカイブで購入してでかけます。

最初に『碁会所』へ。通路を挟んだ2つの和室に、須田悦弘の木彫りの椿、片方の部屋にはひとつだけ、もうひとつの部屋には沢山。相対する庭には椿の木が植えられている。椿の花が咲く頃にくるとより風情があるのだろうな。ただ、須田さんの作品は、さりげないところにさりげなく飾られた時のほうが、味があると思うんだよね…
次に『きんざ』へ。きんざは予約制で、1人15分ずつの作品体験をするようになっている。一人ずつしか入館できず、週末しか開いていないため、事前にwebからの予約が必須。後で行く、地中美術館のナイトプログラムとか、翌日に行く犬島とか、この周辺を廻ろうと思うと、島の間の足の便もあいまって、事前に綿密な計画と予約が欠かせないんですね。いやまあ、空いている時期に1週間単位で滞在するような余裕があれば、そんなのいらないんだろうけどさ…そういうご身分になりたいわー

庭にてしばらく待たされ。渡される作品案内には、静かに待つ時間も体験の一部です、と書かれてあり、軽くジャブをかまされます。

重い引き戸を引いて、中へ。中の空間、最初は外の明るさに目が対応しているため、パッと見えるのは長方形に空間の真ん中を占拠する、なんだか丸くて明るいものと、家屋の地表付近の四方、外から漏れてくる光のみ。家屋の中はとても静かで、聞こえてくるのは風の音や、外から風にのったかのように、囁くように聞こえてくる人の声、バイクや車の小さな音。少し拍子抜けしながら、しかしそのまま、じっと座ってそのまま眺めてくると、目が慣れているのか、いろいろな小さなもの、が見えてくる。
普段は視覚からの情報の氾濫に翻弄されて、見ても見えていないものたち。情報の少ない空間に入れられることで、少ない情報の中から、注意していろいろなものを見出そうとする。そして少ない情報から意味を見出そうとして、やがて、意味を見出そうとしていることに意味があるのだろうか?そこにそれがあることに人間にとって都合の良い意味などあるのだろうか?そんなことを考えて、また暫くぼんやりしていると、ふっと、今まで見ていたはずなのに見えていなかった小さきものが目に留まる。外から聞こえてくる断片的な音や、風。
そんなこんなで15分近くは長いようであっとゆう間で、またしても内藤礼に煙に巻かれたような気もしつつ、外に出るのだった。直島での非日常体験の入り口。
さて、目の前にある民宿兼喫茶店でコーヒーを一杯

以前に比べて、いろいろな店が増えているような気がするけれど、変に雰囲気を壊すような店があるわけでも無し。集落としてポテンシャルが非常に高い感じがする。民家の軒先にかかっている暖簾の大変素敵なのだよね。
さて、次に『はいしゃ』へ


さきほどとはうって変わって、視覚情報の洪水。まさに大竹伸朗な建物。建物の中にどーんとおさまった自由の女神像はシュールと言うほか無く、猿の惑星を思い出しますわね。この『はいしゃ』の建物、本村の集落の外れにあるのだよね。つまり、川はないけれど、意味としての“川向こう”なのだろうか。本村にとって『きんざ』はムラであり、『はいしゃ』は川向こうなのだろうか。いやまあ、それほどの意味はないかもしれませんが
そして次は、『南寺』

この作品も入替えになっており、16人ずつ、15分間の作品体験になる。混雑する時期は、先に行って整理券を貰っておいたほうがいいでしょう。安藤忠雄設計の建物と、ジェームズ・タレルの作品。係員に手を引かれて中に入ると、中は真っ暗で、何も見えない。そのまま、前方を向いて5分〜8分座っていると、ぼんやりと…。これもまた、体験してもらわないとわからない、非日常
杉本博司の『護王神社』は丘の上の神社(ちゃんと、ホンモノの神社)

それから、宮島達男の『角屋』

には、例の発光LEDが家屋の中の池の中で揺らめいていた。あともう一つ、千住博の『石橋』もあります。
そんなこんなで、家プロジェクトを堪能して、そろそろ地中美術館に向かいましょう