日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

大地の芸術祭〜雨の松之山を自転車で…

3年に一度の、越後妻有アートトリエンナーレ大地の芸術祭も今年で4回目
大地の芸術祭の里
日帰りで満足に回れるようなところでは到底無いのだけれど、居ても立ってもいられなくなって、とりあえず行ってきた。現地までの足に使ったのは、JR東日本のツーデーパス
http://www.jreast.co.jp/tickets/info.aspx?GoodsCd=1470
特定地域の普通列車、連続する2日乗り放題で5000円。青春18きっぷよりも高いけれど、特急料金を別に払えば新幹線でも乗れるし、ほくほく線も六日町からまつだいまでなら乗ることができる。まさに、大地の芸術祭に行くためにあるようなきっぷではありませんか。というわけで、行きは特急券を追加購入して新幹線で越後湯沢、のりかえて普通列車十日町でちょっと待ち時間があったのでガイドブックとマップ、パスポートを買い、まつだいに到着する。

お天気はわりと微妙。さて、運転免許を持たない自分は、過去、自転車を借りたり、公共交通機関を駆使して周遊ことを繰り返してきたわけです。2006年の前回はとにかく自転車で
大地の芸術祭へ行ってきた - 日毎に敵と懶惰に戦う
大地の芸術祭 2回目 - 日毎に敵と懶惰に戦う
光の館に宿泊した一昨年は路線バスとかいろいろ組み合わせて
妻有の旅 - 日毎に敵と懶惰に戦う
妻有の山里を - 日毎に敵と懶惰に戦う
しかしながら、どんずまりの集落の空き家を利用したプロジェクト…とかが増えてくると、自ずと限界はあり、効率的な作品鑑賞は無理。なので、本来であればツアーバスを利用するのがいいのでしょう、今年の場合、主要な作品をめぐれるコースで、概ね30分に1本運行されている『越後妻有のりおり号』が、土日のみのではあるけれど運転されていますからこのバスもいいでしょう
大地の芸術祭の里
なのだけれど…やっぱり、自転車で里山の風景の中を走り回る爽快感は捨てがたいものがあるのだなあ。実際は上り坂では『走り回る』ではなくて『必死に漕ぐ』か『押して歩く』だったりするけどな。というわけで、まず2009年の初回は、まつだいで自転車を借りて松之山方面を回ることにしました。今回はほぼ日帰りの日程なので、十日町方面なんかは、もう一度1泊2日くらいで来て、ゆっくり廻ることにしましょう。
まつだいの駅で、係りの人と
『失礼ですがどちらまで行かれるつもりか、聞いてもよろしいでしょうか』
『えーと、最後の教室のほうまで…』
『えっ』
『えっ』
『いや、それは…』
『あ、以前にもここで借りて行ったことがありますし、道路事情とかはよく把握してますし』
『あー、それなら』
みたいな会話をして無事自転車を借りる。今年新しく買ったばかりのきれいな自転車ですが、どっからどこまでもママチャリです。さて、まずは松代城の城山を上って



峠道へ。両脇に棚田がひろがるところを、自転車でえっちらおっちら。ああ、そうだよ、これだよ…。おいらが来たかったのは。車もろくに通らない里山の道、上り坂を自転車を必死に漕ぎながら進んでいくと、汗と、荒くなった鼓動と、重い湿気が相まって、風景の中に自分が溶け込んでいってしまうような感じ。

いまにも崩れそうな天気、垂れこめる雲がまた趣があって…


などと言っていたら、洒落にならない土砂降りに

小屋丸の峠にある、作品No.190 リトル・ユートピアン・ハウスで雨宿り

夏の通り雨は、程よく小降りになって、またまた自転車に跨って、こんどは坂を下る。ああ、下るときの爽快感と言ったら!松之山へくだり、今年の作品、『229 黎の家』



墨で真っ黒に塗られた古い民家で、8月11日からは期間限定でイタリアンのレストランになるみたい。入るときに、この作品がある集落の案内図をくれた。作品の管理は、学生ボランティアもやっているけれど、やっぱり主体は地域の人なんですね。さて、ここから『234 最後の教室』に向かうわけですが、ここでまた峠を越えないといけなかったんだけれど、なんと去年、トンネルが開通しました!

全長1.2kmの高館トンネルをくぐれば、あっちゅうまに東川の集落へ。自転車で最後の教室に行きやすくなりました。すばらしい

2006年に作られた『最後の教室』は、特に前回と変わったところはなし



2010年の瀬戸内国際芸術祭
Art Setouchi
でクリスチャン・ボルタンスキーが使うための心音の募集をおこなっており、1000円払って録音できるようになっていた。私、クリスチャン・ボルタンスキー大好きっ子ですので、録音してもらいました。以前、講演を聞きに行った時も、ちょっとそんな話をしていたね
クリスチャン・ボルタンスキー講演会『ボルタンスキー 人生と芸術を語る』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
あんまり安定した心音じゃないので、不整脈じゃないのかしらん…と不安になりましたが…。さて、もうお昼だ。目の前にある『235 MHCP』で


薬草カレーと薬草茶。ちょっと、いかにもな“エコの人”っぽいアレな感じがしたけれど、まあ、薬草カレーはおいしかったです…。そして、ちょっと旧の峠道のほうに入り、『232 家の記憶』は塩田千春

この時、また強い雨が降り出して、家の中に駆け込んで。雨宿りも兼ねてじっくり鑑賞した



古い家の記憶をからめ取るように張り巡らされた黒い毛糸。塩田千春のいつもの作品なんだけれど、とにかく、家の物語そのものの力が強烈過ぎて、もはや民俗学の世界。たとえば古い靴とか古い洋服とか、塩田千春が普段題材にするものは、それをもとあった場所からは離れた場所に置いて『物語や記憶を改めて見出す、引っぱり出す』という、ワンクッションによって作品として成立しているんですけれどね、ちょっとこの家と家財、記憶が鮮明すぎて、引き出さずとも駄々漏れる、溢れてくる記憶が強すぎるのだな。いや、作品全体としては好きだし面白いんだけれど、そこんとこが危うい感じもしました。
雨も収まったので、さて、また移動しましょう。松之山の街の中に入り、『227 妻有岡印刷所』

アーティストの父親が、広島で印刷所を営んでいたんだけれど、その印刷機や印刷物などを広島から廃屋に持ち込んだ作品。…ほいで、これを見ているあいだに、またしても土砂降りに。ちょっと雨宿りすれば、と思ったのだけれど、なかなか止まない。で、まったくもって有難いことに、この作品を管理していた方(この家の家主さん)が、どうせ雨だから仕事にならないし、自分もまだ見てないし…ということで、軽トラックに乗せて周囲を案内してくれることになったのです。ありがとうございます
それから、『223 森の学校キョロロ』とか、美しいブナの林『美人林』とか

雨の中でも、また趣があっていいのだな、この林は。そして、『221 三省ハウス』『252 黒倉たまさか庵「ゆく玉くる玉」』とか、『254 月影の郷』

などをめぐる。その間に聞く地元の話がとてもおもしろく、そして、大地の芸術祭を妻有の住民みんなで支えていることが、ほんとうに伝わってくるのだった。沢山の作品群、作るのはいいけれど、厳しい自然風土のなかで維持していくには、地元の人の手がなければ絶対に無理だ。いやほんと、素晴らしい時間を過ごすことができました。ありがとうございます。
自転車を借りたところから、心配して電話がかかってくる。時間も迫っていることだし、雨も小降りになってきた。お礼を言って別れて、松之山からまつだいへは自転車を走らせてひたすら下り坂。気持ち良い!5時ぴったりに自転車を返却して、またちょっと、駅裏の農舞台のほうへ。夕方になって晴れてきたよ!




ここのトイレがちょっと変で、入ってきて振り返ると、個室のドアとトイレの出入り口のドアが同化していて、どれがどれやらわからなくなる…

おみやげをいろいろ購入して、ほくほく線にのって十日町へ。キナーレの温泉にざんぶと浸かって汗を流す。

ほいで、お泊まりは。まつだい駅前に、泣きたくなるほどコメが美味い旅館があったのだけれど、廃業してしまったらしい。じゃあ、明日の行動の予定もあるし…ということで、越後湯沢の駅前民宿に宿泊。素泊まりで安かったが清潔でかけ流しの温泉もあって、良い宿でした。夜は夜で、毎度おなじみ『ゆた』でひとり、ゆるゆると飲んだのでした

鶴齢はやっぱり、美味いね!つまみも何食べても美味い…。佐渡のイカ焼きが、ちょっと大きすぎて、おなかいっぱいになってしまいましたが。ほどほどに切り上げて、温泉に入ってから休みます