日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

必見の展覧会『ウィリアム・ケントリッジ』。その他、DOMANI展、銀座など

土曜日、8時起床。午前中に本棚が届くので、しまうための本のよりわけ(部屋の各処に積み上がっているタワーの解体)を掃除をして朝飯を食っていたら本棚着。さあ出掛けよう、横浜から中目黒経由で六本木へ。
まず最初は、国立新美術館で『DOMANI・明日展

国立新美術館 THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO
文化庁の在外研修制度で、海外派遣された若手芸術家の成果発表のための展覧会。この在外研修制度、ものすごくたくさん派遣されているので、派遣された全員が展示できてるわけじゃない。今回は、ここ数年の派遣のうち、12人の作品を紹介していた。
とにかく国立新美術館は味わいもへったくれも無い天井の高い白い広いどどーんとした空間が持ち味なので、あんまり空間との関係性を考えたような作品である必要はなく、敢えてあるとすればとにかく広いんだからでっかい作品!みたいな特徴になるわけであり。今回、伊庭靖子のドローイングは、対象の質感をうまく表現していて面白い。安田佐智種の写真を加工した作品、普段見る都市風景が不思議に異化されていて興味深いが、展示方法がちょっと。一番大きなプリントについて。国立新美術館の高い天井に合わせて大きくプリントした作品なんだけれど、プリント用紙何回かに分けて出力された後、裏張りもせずに張り合わせて上から吊っているだけなので、用紙がうねっていて光が変に反射して見にくく、接合部もイマイチ雑な仕事。こんなんなら、他の作品と同じサイズにしたほうが良かったんじゃないかしら。ちょっと残念な感じ。
磯崎真理子のオブジェ、スケール感と質感が大変良い。ごろんところがった赤い物体が、白い空間にうまく配されている。安田侃みたいな、どこにいっても屋外に作品があります、的な位置づけになり得る人ではないかと思う(褒めてるんです)。呉亜沙のかわいらしいドローイング、いやさ、オブジェの目玉がパチンコ玉だったり、かわいいと一言でまとめられるわけではないのだけれど、とにかく、こういう淡いパステル調の『かわいい』絵がどのように今後展開していくのか、は大変興味がある。高野浩子の本の山も良い。藤原彩人の作品は、とにかく大きいことに価値がある作品。以前、森美術館の館長さんの、アジアの現代美術の状況についての講演を聞きに行った際に、日本の作家は良い悪いは別にして、制作環境の問題もあって小さい作品が多くて…。みたいな話をしていた。なんか、そういう意味で、大きいことに価値がある作品。
仕事帰りに南條館長 - 日毎に敵と懶惰に戦う
印象に残った作品はこれぐらいか。思いの他面白かった。しかし、あまり名前の知られていない作家たちの展覧会で、そりゃ、スペースも広いしお金もかかっているだろうけれど、大人1000円ってのはちょっと高いよね。この展覧会、読売新聞の後援で、会場のお客さんも、読売新聞にチケット貰いました、みたいな高年齢層が目立っていた。私もチケットショップで安く手に入れたから来たようなもんでしてね…。まあ、500円にしたからもっと人が来るかと言われれば疑問だけれど。どうなんでしょうね、これは。
さて、会場を出て、乃木坂の駅から大手町乗り換え、竹橋へ。次は、国立近代美術館の『ウィリアム・ケントリッジ 歩きながら歴史を考える そしてドローイングは動き始めた……』へ

展覧会情報ウィリアム・ケントリッジ 歩きながら歴史を考える そしてドローイングは動き始めた……
ウィリアム・ケントリッジの作品をはじめて見たのは、森美術館の『ストーリー・テラーズ』点での『潮見表』だった。木炭画のアニメーションで、その書いては消して…の軌跡が残るアニメーションの息をのむような美しさに惹きつけれらのだ。その後、現代美術館の気合いの入ったカルティエ展で見た『ステレオスコープ』を見て、内在したテーマなども垣間見えるようになって、ますますファンになったのだ
東京都現代美術館『カルティエ現代美術財団コレクション展』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
そのウィリアム・ケントリッジの、日本での初めての大規模個展。開催されると知った時からワクテカだったし、いつもコミケで一緒の△×△×番長が、京都での開催時にふらっと入ってすげーって言ってるのを見て、これはもう、万難を排して見にいかねばならんと(排すほどの万難もないのだけれど)。そして実際、予想以上だったし、皆さんにも行ったほうが良いとオススメしておく。
南アフリカ出身の彼の展覧会は木炭でのドローイングからはじまるけれど、もちろん出身地のこともあり、テーマは自ずとアパルトヘイトなど、社会的・政治的な問題が不可避になる。そして、木炭画のアニメーション。いわゆるアニメーションと、クレイアニメ的な…対象を操作して可変していった軌跡もうかがえるようなアニメーションの、両方の性質を兼ね備えたようなアニメーション。ウィリアム・ケントリッジの評価を不動のものにした9つの作品は、1つの部屋の5つのスクリーンで上映されている。レシーバを受け取り、チャンネルで自分の見たい作品の音声を選択しながら視聴する。
それがどんな作品なのか、言葉では表現しきれないので、youtubeに上がっている作品を見てほしい
william kentridge - YouTube
雰囲気は伝わると思うけれど、やはりこの画質では、その繊細にして圧倒的な表現力は伝わらないと思うのです。もうね、変態的なまでの表現力。表現の手数の多さ。見ててぞくぞくします。ひとつの作品に半年かかるそうな。会場で見てほしい(音楽も良いのだな)。で、ね。私の知っているウィリアム・ケントリッジというのは、この、木炭画アニメーションでやりつくしたぞ、という所までのウィリアム・ケントリッジだったのです。実際世間でもそうらしく、かなり『政治的なアーティスト』として、ある種の偏見込みで見られていることが多いらしい。
その後の作品が、展覧会の多くの部分を占めている。正直なところ、ちょっとみはじめたところでは、??、この人はどこに向かっているんだろう?とよくわからなかったんです。なんか、イマイチ面白くない、みたいな。それが、表現と視覚への飽くなき探求の過程なのだ…ということが、展覧会の後半に行くにしたがって、ほとんど興奮とともに理解できるようになってくる。たとえばこの作品天井から投影された木炭画アニメーションが、円筒の鏡張りの筒に写されることによって見られる作品。鑑賞者は、作品のまわりをぐるぐるまわりながら、おもに円筒のほうを鑑賞する。この人の作品って、絵巻物の発想…同一平面の中で横への移動が時間的経過を表している…に非常に親和性があるような気もする。そして最後の2008年制作の『I am not me,The horse is not mine』は“8つの断片映像によるインスタレーション”を見たとき、ウィリアム・ケントリッジは、『あの凄い木炭画アニメーションを作った人』から、『新しい作品がどんなことになっていくのか、わくわくして目が離せない』作家になったのです。
もう、ちょっと好きすぎてなんだかわからない感想になっているけれど、これは必見の展覧会だと思う。ただし、たっぷり2時間はかかるので、その点は覚悟して出掛けていただきたい。オススメです。2000円のカタログ(とても立派!)ももちろん購入しました。
さて、竹橋の毎日新聞のところにあるマクドナルドで遅い昼飯を食べて、次は、大手町乗り換えで根津へ。歩いて、東京芸大の美術館。『まばゆい、がらんどう』

Dazzling, Garandô
谷山恭子の、関連性のあるような無いような日用品の組み合わせの作品もなかなか面白いのだけれど、やはり高嶺格だなあ。昨年の5月に閉館してしまった丹波マンガン記念館
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その坑内で、高嶺が行ったインスタレーション『在日の恋人』についてのドキュメント…的ななにか。正直なところ言葉で説明するのが非常に困難であるし、また簡単に説明すべきものでもないと思うけれども、とにかく、館長にしてアクティヴィストの李龍植さんの強烈さが際立っている。これだけで、見に来た価値があったなあ、と思った。会期が2週間しかない、無料の展覧会です。
さて、歩いて上野公園方面へ

快晴だったけれど、だいぶん雲が出てきたし、もう夕方だ。上野から電車で有楽町。メゾンエルメス小谷元彦
TAB イベント - 小谷元彦 「Hollow」
なめらかにしたたる白い流れがけっこう衝撃的。これも必見。次にSHISEIDOGALLERYにて、曽谷朝絵
ページが見つかりません|ワタシプラス/資生堂
色の洪水に、なんだか心まで明るくなるような作品。いいですね。その次、HOUSE OF SHISEIDOへちょっと

ページが見つかりません|ワタシプラス/資生堂
ロオジエの隣のここ、以前は1階もギャラリースペースだったのに、今は2階だけになったんだね。資生堂の広報スペース的なところなんだけれども、現在ちょっとやっている『明治から続く、銀座を彩る老舗』という展示が面白い。明治から銀座にある老舗が一覧になったマップを貰えます。これは嬉しい。老舗のお店の来歴などが書かれている。それから、ここで売っている復刻版の香水『菊』が、とてもさわやかな香りだった。
つぎにシャネルの4階にある『CHANEL NEXUS』にも行ったけれど…。
CHANEL NEXUS HALL - CHANEL GINZA
エルメスのギャラリーの尖がり方に比べると、こっちは割合、おキレイな展覧会をやるところみたいですね。鈴木理策は展覧会やるかもしれないけど、石内都はやらないでしょう、的なスペース。アフリカの野生動物の写真展やってた。最後に、ギャラリー小柳にもちょっと寄り道して、東京駅から東海道線。自転車で帰宅。なかなか、充実した一日でありました。
スーパーで刺身が半額になるタイミングを狙って買って帰り、本棚を組み立てて本をしまってから(あっとゆーまにいっぱいになってしまった)、またしても豚しゃぶと刺身で晩飯にする。