日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

まずは備後路からの旅

開けて2月11日、紀元節。若干の二日酔いを抱えながら目覚めてみれば山陽道はまだ闇の中で、姫路を通過したところ。支度をして岡山に下車する。サンライズ出雲サンライズ瀬戸は、ここ岡山で切り離しとなる。大勢の人が、動物の交尾でもながめるように、切り離しシーンを興味深げに眺めていた

さてここで乗り換え、西へ向かう117系普通列車に乗り込んで、まだ目覚めきれない目をこすりながら。今回、旅を共にするのは、何時ものように恰幅の良い御大と尾張の若旦那。私など終始お話拝聴という感じの旅。
これから福山で降りるのだけれど、福山にこれと行った思い入れはない。思い出すのは山田洋次の『家族』において、工場で働いている前田吟の家に寄り道するのが福山でしたね、というくらい。こういう話で打てば響くように話の膨らむのが大変うれしいところ。逆に、こちらが打てば響くような反応を返せず、申し訳ないと思うばかりなんだけれどね。とにかく、なんであんな無茶な行程なんだあの映画、だの、笠智衆のモノマネやらで散々盛り上がる。山田洋次の映画は湿っぽいのが多いけれど、『家族』の乾いた突き放し方はちょっと空気が違っていいですね、なんて話していればもう福山だ。
福山に降りるのは初めて。空襲で丸々焼けてしまった城下町はなんだか掴み所の無い茫洋とした印象で、駅の売店でも一番目立つところに並べてあるのは“もみじまんじゅう”だから名物もあまり無いんですかね、などと話す。ともかく、腹が減っているから朝飯を食べようと駅前を探して、高架下のなか卯でうどん。唐揚げが名物ですっ!と力強くアピールするなか卯は店員さんもつっけんどんで、ここは本当になか卯なんだろうか、味もちょっと違う気がするし…。レンタカーを借りに行けば行ったで、駅員に案内されたのは違う店舗で、ここからは店員さんにもう一軒まで車で連れて行ってもらったけれど、なんだかぼんやりしたイメージを抱えたまま、小雨も降りだした福山の街を後にする。
さて、まずは鞆の浦へ。潮目が変わるため、潮待ちの港として知られた鞆の浦に向かう

港の街は細い路地が多く、なかなか良い雰囲気の街。海際の駐車場に車を止めようとしていると、防波堤の向こうにいきなりうごめく帆船が見えて、御大ぎょっとして、蒸気船をはじめて見た人もかくや、という叫び声をあげたので何かと思う。どうも単なる観光船であるらしいけれど、趣味のイマイチよろしくないことよ…。車を止めて、朝鮮通信使が宿泊したという福禅寺というお寺へ。小雨が降って最初は風景が良く見られなかったんだけれど、やがて短い晴れ間があって、障子戸を開けてくれた

なるほど、小さな雰囲気の良い港ではあるけれどなんということも無いところなんだけれど、切り取ってみると額縁の効果か、朝鮮通信使が『日東第一形勝』と形容したのもなんとなく伺える風景

寺の奥さんがいろいろ説明してくれたんだけれど、すぐ目の前に見える景勝地に向かうための『いろは丸』という観光船の運航をはじめて云々、と説明されて、ああ、あの海賊船の出来そこないみたいのがそれであったか、と納得する。寺には満足して、しかし雨がまた降り始めてとにかく寒いですね、もう街を出ましょうか、と車へ。鞆の浦はいい街だと思うけれど、『いろは丸』という安っぽい観光船はちょっとどうかと思いました…。
車内で引き続き馬鹿話に興じながら海沿いの道を進み、そして尾道。腹が減ったので飯にしましょうと降りて、映画の資料館で小津映画の写真やら、脈略なく置かれた映画パンフレットを見て大笑いした後、ちょっと食べログで調べて評判の良さそうだった朱華園という店に、ラーメンを食べに入ってみた。

朱華園

食べログ 朱華園

なかなか混雑しているけれど回転の良いお店で食べたラーメンが、醤油味の濃い、なんとも味わい深いラーメンで、とても美味い。その後に商店街の喫茶店で飲んだコーヒーも大変美味しく、とにかく尾道はよい街に違いない、と結論が出て、やっぱりすぐに尾道を後にする一行であった。駆け足過ぎますネ
ここからしまなみ海道に入って大三島に向かっても良いのだけれど、折角だから船で渡りませんか、という話になり、忠海に向かうことにする。海沿いの道を走ればまた雨が激しくなってくる。途中で雰囲気の良さそうな神社がありますね、と話し、しかし雨脚も強いし…と通り過ぎようとして御大、本日二度目の嬌声を上げる。なにごとやあらん、神社の駐車場に『神功皇后』云々とあるではありませんか。これは式内社に違いないと参拝すれば糸碕神社、であるけれど…。由緒を見ても延喜式内社とは明記しておらず、創祀の年からしたら式内社でもおかしくないはずなんだけれど…といくら調べても延喜式内社との記述が無く、どうも違うらしいと落胆。NHKに当確を出されてぬかよろこびしたのに落選した候補みたいだ、と、さらに西に向かう車内で悪態をつく。勝手な話で、別に式内社だろうと式外社だろうと有難さに違いがあるわけでもないのだけれど、よくよく、信仰も何も無い罰当たりな参拝団であることよなあ。
三原を過ぎて備後の国もここまで、安芸の国に入り、忠海へ。毒ガスの島、大久野島に渡る航路がある港だけれど、別にその島に渡るような有為な旅をするわけでもなく…
青春18きっぷで行くうさぎと毒ガスの島「大久野島」(前編) - メレンゲが腐るほど恋したい
とにかくとにかく、無為な旅であるので、ただただ、大三島に渡るだけなのです。


なんだか寂しいフェリーターミナルで、瀬戸内の航路は軒並み、高速道路の大安売りで大打撃を受けているのだろうなあ、と思う。切符も大安売りで、休日の場合、車両の運送料も割り引きな上、同乗者全員分の乗船券もサービスだと言う。そんなはずはなかろうと間違って買った切符を払い戻して貰ったんだから本当だ。それなりの台数の、大三島にわたる車と、大久野島に渡る観光客を乗せて船は港を出ます。短い航路なので車に乗ったままの人も多いけれど、車に乗ったままでは橋を渡って島に渡るのとたいして変わらないではないか、と我々は船室へ。してみると、利用しているのはほとんど地元の人ばかりなのだろうな。

大久野島で大部分の車に乗らないお客さんが降りて、ちょっと進めばすぐに大三島に渡ります。