日毎に敵と懶惰に戦う

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『安全な』軍艦島への旅は、それでも行く価値がある


長崎の沖合いの島、端島。周囲1200mの小さな島。1810年に石炭が発見され、明治に入ってから本格的に開抗されたこの島は、良質の石炭を産する島として海底炭鉱の開発がすすめられ、三菱石炭鉱業の主力炭鉱として栄えていた。小さな島は埋め立てによって次第に拡張され、本来の島は現在の1/3ほどの面積だったという。それでも狭い島に大勢の人が働くために、鉄筋コンクリートの高層アパートが林立し、最盛期には5000人以上の人々が生活していた。
細長い狭い島に高層建築がひしめく異様な姿が、三菱造船長崎造船所で建造された戦艦『土佐』に似ていることから、軍艦島と呼ばれた端島。その島の炭鉱は1974年1月15日に閉山され、4月20日には無人島になった。多くの建物は取り壊されることもなく、往時の姿をとどめたまま次第に朽ち果てていく。いつしか、軍艦島は“廃墟の島”として好事家に知られる島になった。
NHKのドラマのロケ地になったこともあり、人気が高まり、折からの廃墟ブームもあって、漁船などをチャーターして上陸する人達が多くなる。閉山から30年以上経ち、強い潮風と高波にさらされてどんどん崩れていく建物。危険な状態。長崎市はこの島を産業遺産、観光資源として活用していくことになり、2009年1月5日に世界遺産暫定リストに掲載、島の一部に見学用の遊歩道が整備され、長崎市のお墨付きありで、上陸することができるようになったのが去年。
一昨年、軍艦島に上陸できるようになるとのニュースを聞いて以来、早く行きたい行きたいと思っていた軍艦島に、とうとう上陸してきた、というお話。だけど、正直、それほど期待はしていなかったんだよ。かつて強行上陸を果たした某はてなダイアラーの日記を読んでわっふるわっふるした身としては、島のごく一部にちょこっと綺麗に整備された遊歩道から遠巻きに眺めるだけなんてどうなんだ…と。それに、上陸の条件がとても厳しくて、ちょっとでも波が高いと上陸できない、実際に上陸できるのは1年のうち100日…なんて聞けば、尻込みしてしまう。だけど、今回、行って来て正解だったですよ。もちろん、上陸できたから!ってのはあるけれど。

軍艦島に上陸するためには、ツアーに参加する必要がある。JTB近畿日本ツーリストもツアーを行っているようだけれど、一番安くて気軽に参加できるのが、やまさ海運の軍艦島クルーズ
|やまさ海運株式会社|観光丸 長崎港めぐり、軍艦島クルーズ、三池島原ライン(島原港~三池港間高速船)
長崎駅にほど近い長崎港のターミナルから船で出て、軍艦島に上陸、その後、島をゆっくり一周してくれる170分のツアーを毎日2便運航している。お値段は4000円+長崎市端島見学施設利用券300円=4300円。事前にwebページから予約して、当日は直接長崎港ターミナルに向かった。ターミナルビルの中に、軍艦島の模型が!


おお、っとへばりついて見ていたら、ちょっとギリギリな感じのおじいちゃんが、おもむろに馴れた感じで解説をはじめてくれる。これが外国なら無理やりお金を取る押し付けガイドか…と警戒するところだけれど、ここは日本。ターミナルに趣味で常駐している説明したがりのお爺さんなんだろうか。説明してくれるのはありがたいけれど、こっちは早く窓口に行きたいのに…と若干やきもきして、説明聞くのもそこそこに、窓口に向かってみれば結構な行列。ここでお金を払って、誓約書を渡す。そう、誓約書。誓約書への署名が、上陸の許可条件になるのです。
http://www.gunkan-jima.net/courses/gunkanjima-joriku
結構キビシイことが列挙されていて、ちょっとでも言うこと聞かないと上陸させてあげませんからね!と、かなりの強気。まあ、こういう文章が堅いのはお約束なので無理に畏まらなくてもよいけれど。出航時間が迫り、船に乗り込んで

船室内、右舷の座席を確保。しっかりがっつり、往復も写真が撮りたい方は、上甲板にも椅子があるのでそっちにすると良いでしょう。行きは基本的に、三菱重工の100万トンドック以外の見どころはすべて右舷なので、右舷に陣取ると良いと思われます。乗りこむ際も乗りこんだ後も、ツアーの人が鋭い目で見ているのが参加者の足元。ヒールの場合は上陸できないので、代わりに靴を貸してくれるみたい。何人か、履き替えているひとがいました。参加している人達は、一眼抱えた好事家ばかり…ではなく、普通に家族連れも多く、長崎観光の一部にしっかり組み込まれているのだなあ、という印象。

船が出てすぐに右手に見えてくるは、三菱重工の長崎造船所。イージス艦がドック入りしている。船内の解説で、『178と番号がついています、“あしがら”という船です』とちゃんと解説してくれていた。その他、NTTのケーブル敷設船すばるなども見ながら、長崎の湾を進む。やがて右手に見えてきますのが三菱重工の100万トンドック…座席からは見えない!我慢できずに外に出て1枚

めちゃくちゃでっかいんだけど、比較対象が無くてスケール感がよくわからない…牛久大仏効果と呼ぼう。それから船は、右手に伊王島、高島などを見ながら進み、だいぶんのんびりしてきたころ、船内で見学者のための色のついた札が配られる。注意事項では、花束や遺骨を海に投げないでください、と言っている。いるのか、そういう人が。そして見えてきますよ軍艦島が…


島に人が常駐しているわけではなく、ツアーの船が行くのみなので、実際に近づいてみるまで、本当に上陸できるかどうかわからない。固定式の『ドルフィン桟橋』に安全に接岸して上陸できる条件として、桟橋周辺の波高0.5メートル以下、風速5メートル以下、視程500メートル以上を満たす場合、となっている。今回はめでたく上陸の運びとなり、接岸すると我先に…ってほどでもないけれど、続々と上陸します



最初の写真のオレンジの人、実は、ターミナルにいた『ギリギリな感じのおじいちゃん』なんですよ…実は正式のガイドさんだったらしい。じいちゃんごめん。若干ギリギリな感じだったのは一緒だけれど。

さて、島の南側、波の穏やかなドルフィン桟橋に上陸して、最初に集合するのは第1見学広場。上陸しても島をぐるり1週できるわけではなく、歩いても大丈夫なのは、赤い線の通路と見学広場のみ。それぞれの広場で解説を聞きながら第3見学広場まで行き、もと来た道を戻るしかない。この通路は真新しいコンクリートでしっかり整備された道であり、もともとの島の道を歩けるわけでも、廃墟の中に入れるわけでも、近づけるわけでもない…。だけれど、安全な範囲で、それでもやっぱり、軍艦島すげえな、ってことは感じられるんですよ。強行上陸した人達がうらやましくはなるけれど、がっかり、ってわけじゃない。





一眼抱えた人達が撮影スポットの取り合い!みたいな感じじゃないので、撮影は快適でござる



やまさ海運の人はとっても丁寧に解説してくれます。写真を撮るのに夢中になりすぎなければ、大変興味深く聞けることでしょう…。観光客のみなさんはみんなお話をちゃんと聞いていたし、上陸時間に限りがあるのです、と終始注意もされるおかげで、聞きわけ良く見学しておりました。犬島のお兄さんみたいな、不憫なことにはなってなかったよ
我慢できない大人の為の社会科見学 犬島アートプロジェクト「精錬所」 - 日毎に敵と懶惰に戦う
そしてどんどん奥まで



右に見える、鉄筋コンクリート7階建の30号アパート

途中階の崩落は、去年、見学がはじまった後で崩落したそうな。日々刻々、軍艦島は姿を変えている
プールも残っている

短い見学を終えて、もう戻る道。36年前、あっと言う間に去った人達の気配が残っているような、残っていないような…



たぶん、みんな同じ見たいなアングルの写真を撮っているんだろうなあ



見学して写真を撮ったり説明を聞いたりするには十分な時間、だけれど、じっくり余韻を噛みしめるには短い時間の上陸


一旦桟橋を離れた船は


時計回りで軍艦島をぐるっと一周してくれるので、この時は右舷の外にしっかり陣取るのが良いでしょう
南側から

北側に廻りこんだこの姿

これが、一番軍艦に見えるアングル。島の周りをまわって



そして、船は遠ざかってゆく…



帰りの船内では、軍艦島の歴史を紹介したビデオが上映されていた。正直なところ、もっと近づきたい!と思ってしまうツアーではある。でも安全に島を見るためにはこうするしかなかったのだろうし、実際問題、当初思っていたよりもとても良いツアーだったと思う。長崎ご旅行の際は是非行ってみたほうがいいと思う。と同時に、ああ、これは特別な意味を持ったツアーではなく、正しく『観光』なのだな、と思ったのだった。
あと、写真、もっと望遠のレンズも欲しくなりました…。
軍艦島について詳しく知りたい人は、西日本新聞の特設サイトが詳しいです。戦時中の朝鮮人労働者などについても書かれています
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/culture/heritaging/nagasaki/gunkanjima/index.shtml
こっちもupしてみた
軍艦島とハウステンボス - Boating,Train,Walking trip | EveryTrail
微妙にずれてると思ったら、デジカメの時計が5分くらい進んでいたんだね…