日毎に敵と懶惰に戦う

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東京国立近代美術館『「日本画」の前衛 1938-1949』

竹橋の近代美術館で、「日本画」の前衛 という展覧会を見てきた。予想を裏切られる、ちょっとびっくりするような凄い展覧会だった

展覧会情報「日本画」の前衛 1938-1949
当初、この展覧会はあまり期待していなかったのです。だって、このチラシを見ると

確かに日本画的な題材にしては変わった表現…前衛なのかな…と、じっくり見ればそんな気になってくるんだけれど、これだけ見ただけだと、イマイチ魅力がつかめない。チラシ裏に例示されている作品も、淡い色の作品ばかりで、あんまり心が惹かれなかったのですね。近代美術館の企画展は過去にもほとんどはずれが無く、当初の予想に反して面白いものが沢山あったとは言え…
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河口龍夫も良かったな。でも、周囲の評判が大変に良いので、ちょっと行ってきたわけです。まず展覧会入って目に入るのがこの絵

これ日本画なんだろうか?画材なんかは明らかに日本画だから、確かに日本画ではある。山岡良文のこの作品は『シュパンヌンク』は1938年の作品で、日本画の新しい展開を目指そうと言う挑戦が見て取れる。ドイツ、バウハウスの影響が強く伺える。ほいで、これは額装なんだけれど、同じような作品を小襖に仕立てた作品が出てくる。障子に書かれた前衛的な日本画が出てくる、とても不思議な感じ。これで最初にパッとこころを掴まれるわけですね。
次のコーナーに行くと、戦前に日本画の前衛を目指した『歴程美術協会』の展覧会に出品された作品。この山岡良文、船田玉樹、丸木位里田口壮…正直、わたしこのへんの作家は良く知らない。丸木位里って言えば、原爆の絵ばっかり画いてた人、みたいなイメージしかなかったわけです。それが、おぼろげな赤の中に浮かぶ白い馬、これが凄くいいのね。あとのコーナーで出てくるけれど、ちょっとモネの睡蓮を思わせる池という絵や、おぼろげな中に迫力のあるラクダや竹の絵など。おおっ、とびっくりしたのが『紅葉』という作品で、軸に一面、真っ赤な紅葉がちりばめられ、画面全体が背景まで真っ赤に染まっていく絵がすごく良いんです。
そしてこれまた良く知らなかった画家、船田玉樹は、片岡珠子の面構えシリーズを先取りしたようなのがあったかと思うと、チラシにも使われている『花の夕』は一面に岩絵具をボタボタと大胆に垂らした作品。『暁のレモン園』の、暗い中にぼんやりと浮かぶレモンの妖しさ…これまた凄く良い。
船田玉樹について、詳しく触れている文章があるので、ご興味あれば
船田玉樹−近代日本画の異端で正統の画家
これまで、私、三上誠とかあのあたりって、戦後の空気の中でポッと出てきたように感じていたのだけれど、さにあらずと。戦前から連綿と続く表現の流れだったんだな、ということがよくわかると言う意味で、とても良い展覧会になっている。シュルレアリズムとか構成主義とかに強い影響を受けながら、新しい表現に挑戦しようとしている日本画の数々が、なんだか痛々しいほどなのです。…痛々しい?そう、痛々しいんだ。挑戦しているんだけれど、いろんな影響を強く受け過ぎていたり、あるいは模倣しようという段階ですぐに戦争の影響が濃くなる。戦争画や、従軍して外地の風景を描いたものとかが、この展覧会でも展示されている。試みようとした表現の脆さみたいなものも見えてくるわけです。
最初のほうに、一面に扇を散りばめられた絵がいくつかあって、表現技法をいろいろ探求しつつも題材に日本的なものを選ぶのだなあ、みたいに無邪気に見ていたんだけれども、展覧会の後半の解説で、それはある意味、時局的な圧力が影を落としているのだ、ということがわかる。これね、順番に見ていくと、展覧会の最後のほうで、ああっ、とわかるわけね。構成とか流れが悪いって話じゃなくて、一旦最後まで順番に見て、もう一度、最初のほうから見直すと、見え方が変わって、非常に味わい深くなる展覧会だと思うのです。
そして、2度ほどぐるっと見たところで、最初、表現の挑戦への純粋な驚きだったものが、次第に物悲しさみたいなものを感じてくるところで、ガーンと屹立しているのが靉光なわけです。常設でもおなじみの『眼のある風景』そして『馬』、その表現の力強さに感動してしまう。
とにかく、なんだか自分の中でイメージがバラバラだったものが、戦争を跨いで繋がっていくような、とても意欲的な展覧会であり、よくこれだけ面白い日本画を集めたな、と感心する展覧会です。いま書いてきた以外に、ほうっ、と眼を惹く作品が沢山ある。この展覧会は“説明しすぎていない”部分が多くて、すこし突っ込んで調べていくと、日本画を巡るいろんな戦前/戦中/戦後問題が浮かび上がってくるところも刺激的だ。こうなると勿体ないのがチラシなわけで、もうちょっとインパクトがあればなあ、印象の薄いものに仕上がってしまっていてなあ…。じゃあ、どうすればいいかと聞かれると、私にはわからないんだけれども。とにかく、絵に多少なりとも興味のある人は行っておいて損の無い展覧会だと思いました。
会期は2月13日までと、割合短いのでお早めに。その後、広島県立美術館に巡回します。今回の展覧会に欠かせない丸木位里の作品は、相当数、広島県立美術館の所蔵品なんですね。


常設展ももちろん。国立近代美術館は常設展のクオリティがとにかく素晴らしいからね。
展覧会情報所蔵作品展「近代日本の美術」
萬鉄五郎の『裸体美人』は何度見ても良い。フジタの作品も点数が多かった。戦争画も、藤田嗣治の思いっきりエグイのが見られて満足。やっぱり加山又造は好きだなあ。ちょうど亡くなったばかりの、デニス・オッペンハイム『二段階の伝達ドローイング』があったりしました。中村宏の「円環列車・B−飛行する蒸気機関車」が見られたのも良かった。
あー、だけど、2004年から展示されている傾斜なんとか?って作品は、あれ恒久設置なの?無理に恒久設置じゃなくてもいい気がしますが…。まあそんなこんなで、大変満足いたしました。