日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

BankART School『大岡川を往く』3回目

早くに起きて、先日の旅行の写真をプリントアウトするなど。9時前に出掛けて蒲田乗り換え、池上線。やたらと本数が少なく、東急の節電の犠牲はこんなところに…。戸越銀座で打ち合わせし、戸越から都営地下鉄で新橋。ちょっと銀座で昼飯。資生堂の前を通ったらやたらと周辺がピリピリしており、偉い人が来ていたのだろうか。明日、隣のビルがリニューアルオープンですしね。
帰社してお仕事、なんだかんだ、定時に出ようと思いつつ7時前になり、急いで電車乗り継ぎ、関内、歩いてBankART Schoolへ。しかし、なんか映画の上映会?本日の講師の先生がちょっと遅れておられたので、代わりに上映会をしていたのですね。
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ダム湖に沈む村で巨大な筏を作り、ダムの試験で最高水位になるのに合わせて、この筏を山の上に登らせてしまおう、という話のドキュメンタリー、これも興味は前からあったので、正直、見られたのは嬉しかった。というわけで、本日の講師、来生新先生の登場。
来生先生は一般社団法人『横浜水辺のまちづくり協議会』会長。経済法から、海洋におけるさまざまな活動の管理に関連する法制度の研究が専門。第一線で、海洋法の策定などに関わってきた方。横浜国立大学で副学長、現在は放送大学に移り、副学長をされている。
『横浜水辺のまちづくり協議会』は
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シーカヤックに関するNPO法人『横浜シーフレンズ』
横浜シーフレンズ
や、東横線跡地利用などを考える人達から派生して発足した団体で、横浜の港、水辺、河川の活用、手漕ぎのボートで自由に遊べるまちづくり、などについて活動している。港湾は経済活動の領域であり、現状、市民が入りこむのがなかなか難しい。管理者をはじめ、港湾、河川にかかわるステークホルダーの橋渡しをして、水辺利用の有効活用のためのルール作りをすること、水辺で遊ぶ市民を増やしていくことを主な活動の目的としている。その一環で、日本財団から助成を受けて、横浜市大・横浜国大の学生を対象にシーカヤックの体験講座4日間を、昨年の9月に行った。今年も神奈川大学も参加し、すそ野を広げて行う予定という。実際に、昨年行った講座の記録映像も見せて貰った。
さて。ここですこし原理的なお話に。水辺は誰のものか。そもそも、『自然公物の自由使用』の原則があり、天然自然に存在する海・川・湖沼は、誰もがお互いを排除せずに使用できる場所。一方で、特に都市の港湾部は、あらゆる人工公物に溢れている。港湾・漁港・河川・海岸…たとえば海岸における防波堤もその一つ。公物管理の法体系のあるところでは、管理者がその管理にあたるわけで、自由使用ではない。
自由使用の空間と、管理されて許可が必要な空間が入り混じる横浜の港。ボートピープルアソシエーション
BOAT PEOPLE Association
のツアーでもいつも聞く話であるのだけれど、水の上はどこをどう通ろうと自由なのです。だけれど、どこから船を下ろすのか、どこに船を停めるのか、休む場所は、保管する場所は…と考えると、自由に行き来できる水面だけを考えるわけにいかなくなる。そして、都市の水辺には、この柔軟に使える人工公物が驚くほど少ないのですね。
その人工公物に関する管理者…主に国・県・市などの行政…の姿勢も少しずつ変わってきていて、たとえば防波堤であれば、原則的に使用禁止、実際は海釣りなどが黙認状態…というものから、使用を認めつつ、安全に使用できるように配慮する方向にシフトが見られる。ただ、管理者にとって一番困るのは、その使用によって事故が起きて、損害賠償などが発生すること。そのために、市民に様々な形で利用させることに尻込みし、消極的になるケースが多いのです。
そこで、管理者、使用者を巻き込んで、水辺のルール作りを行う必要があるのではないか。管理者を巻き込んで事故の可能性を減らし、経済成長一辺倒で硬直していた時代から今日の価値観が変わった世の中において、水辺の自由使用の原則を取り戻す。特に横浜などの場合、港湾部の奥まった場所…インナーハーバーから運河にかけては、かつて経済活動の利用の中心であった。しかし、しだいに港の外側に活動主体が移っていき、インナーハーバーや運河は、活動の主たる場所ではなくなった。ここを、上手なルール作りをすることで有効活用していきたい。
ステークホルダーの多い空間で調整を行い、事故を回避しつつ、港と港につながる河川を、多様な使われ方をされる空間にしていくこと。まさにそれが地域にとっての財産になるのではないか…法律の面から出発して、水辺利用の可能性を拡げよう、という。
横浜は、日本を代表する大港湾であり、利害関係者がとても多い。一方で東京ほどの、ほとんど不可視的な拡がりを持っているわけでもなく、実は関係者の間に目に見える範囲でのつながりがあるような規模の街でもある。ここでルール作りをしていくことで、全国の他地域にも敷衍することができるのではないか。横浜でそのようなルール作りをしていくことは他の地域にも利益になるはず。
当面は、ステークホルダー…行政側の管理者、屋形船の業者、シーカヤックなどの団体、あるいは市民…の聞き取りなどを行って相互理解を深め、自主的な協定として形にしたい。そして水辺で遊ぶ人を増やすこと。船を下ろせる場所、休憩できる場所を管理者に働きかけて作ってもらう、利用者の声を吸い上げて伝える。このような施設が、当初は難しくても、徐々に経済的に自立して廻っていくようにしていきたい…というお話なのだった。
たとえばこれまでは水辺を利用しようとする場合、個別にいろいろな管理者に話を通して桟橋を貸してもらったり…という苦労があったわけで、それについて自主的なルール作りができるならば、水辺がより身近なものになって素晴らしいと思うわけで。とにかく、多様性を確保していくこと。使用方法を限定するのではなく、いろいろな使い方が出来ること。さまざまな活動をするために活用できるような、ルールにすること。まずは活動をはじめた人が楽しく利用している姿を見せることで、水辺への興味関心が産まれる。そして、関心を持った人たちが気軽に利用できるようにするために、ルール作りが必要なのだと。講義の後、BankART Pubで、その後さらに、関内の某所などで1時くらいまでお話をさせていただいたのだった。来生先生、料理を始めものすごい多趣味で、とても面白い方だった…。マリンタワーの高さと氷川丸までの距離、みたいな、へぇー!って話も聞けまして。
長時間の遠距離通勤、そして仕事に忙殺されて地域活動にまったく関われない、という現状が、ここ数年、あるいは震災以降の意識の変革の中で、少しは変わってくるのだろうか。変わらないといけないよね。有意義な時間を過ごして、ぶらぶらと歩いて帰宅したのでした。