日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

横浜トリエンナーレ2011開幕

8月6日、今日から11月16日まで、横浜トリエンナーレ2011が開催され、周辺でさまざまな関連イベントが開催される。今回で4回目の開催。いかにも国際展な大規模さで行われた2001年の初回、磯崎新が辞退して1年遅れで川俣正が自分の作品を作り上げてしまった2005年の第2回
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そして第4回目の今回
http://118.151.165.140/
はじめて会場として横浜美術館が使用され、総合ディレクターに横浜美術館館長の逢坂恵理子さん、アーティスティック・ディレクターが三木あき子さん、そして市長の林文子さんと、女性が3人並んだ記者会見が印象的であった。その初日、11時の開幕に訪れてみた。会場は横浜美術館BankART Studio NYK、YCCの3つからなり、特別関連イベントとして、新港ピアで行われる『新・港村』と黄金町の『黄金町バザール』が開催される。セットの入場券がとてもお得になっているので、セットを買うと良いでしょう
BankART LifeⅢ "新・港村"
黄金町バザール2011 「まちをつくるこえ」
まず、BankART Studio NYKに、開幕の11時に行ってみた。横浜美術館のほうはセレモニーなどあったかもしれませんが、こっちは何も無く

まずこの会場は、なんと言っても、3階の奥にあるクリスチャン・マークレー『The Clock』。今年のヴェネツィアビエンナーレ金獅子賞を受賞した作品は、24時間に及ぶ映像作品で、古今東西の映画の映像を切り貼りして作られている。そして、映画の中の時間と、現実の時間が、常にシンクロしている!自分は11時45分から12時20分くらいまで見ていたんだけれど、映像の中に映り込む時計が、それはそれはさまざまな時計が、まさに今、今の時間を映し出し、それぞれ繋ぎあわされた映画どうしが、音楽も媒介にしながら絶妙な流れを見せて、滅茶苦茶完成度の高い作品になっている。もうね、見ていると、ふおおおお、と驚きっぱなし。目が離せない。ちょうど正午ごろの盛り上がりようったら凄かった。
この映像を上映している部屋は、白い立派なソファーが並べられており、リラックスしてゆっくり鑑賞することが出来る。その居心地とも相まって、何時間でも見ていたくなる作品。今回、開場時間は11時から18時までなので、24時間の映像のうち、7時間しか見られないことになる。なんとか、24時間見られる機会を作ってほしいなあ、と希望しておきます。
クリスチャン・マークレーは、2009年のヨコハマ国際映像祭で見た『ヴィデオ・カルテット』も本当に素晴らしかった。横に4つ並んだ大スクリーンに、古今東西の映画の演奏シーン、叫び声、タップ、いろんな音の洪水が見事にリミックスされて、一つの音楽作品になっているというもの
『CREAM ヨコハマ国際映像2009』クオリティ高い - 日毎に敵と懶惰に戦う
CB コレクションで見た、電話のシーンを繋ぎ合わせた作品も面白かった。j0hnさんの解説が詳しい
CB Collection 六本木「MOVING ニュー・メディア・アート展」 - J0hn D0e の日誌
さらにもっと以前に、リーテム東京で行われた展覧会で見た、ラップトップコンピュータと携帯電話とパソコンモニタの画面に、それぞれがリサイクルされていく姿が延々と映し出される作品も面白かったなあ
城南島で現代美術と握手 - 日毎に敵と懶惰に戦う
とにかく、凄く完成度の高い、そしてエンターテイメントとしての充実度の高い作品を作るアーティストです。まあ、とにかく、今回の横浜トリエンナーレは、特に映画好きな人なら、この作品にたっぷり時間を取っていただきたい、と思う次第。
さてそれ以外。全体、映像作品が多い印象。その中でも面白いものがいくつか。静かで、美しく、内省的な作品が多いのですね。スーザン・ノリーの『トランジット』は、種子島でのロケット打ち上げ現場、東日本大震災被災地、桜島の火山活動などが、とても静かに、じっと、映し出され続ける作品。その静けさが、美しくて恐ろしくて、目が離せなくなる。シガリット・ランダヴの死海出の映像作品も、静かで美しい

あ、いい忘れましたが、一部撮影禁止の作品を除き、写真撮影は基本的に自由です。フラッシュの使用と、動画撮影は駄目です。泉太郎は今回、少し意味にこだわり過ぎているかなあ、という印象

カールステン・ニコライの作品空間が幻想的

タイのアーティスト、アピチャッポン・ウィーラセタクンの『プリミティブ』は、部屋に設置されたモニターが映し出す、8台のビデオや写真からなるインスタレーション。ちょっと言葉で説明しがたいけれど、その醸し出す独特の雰囲気から目が離せない。2010年のカンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した『プンミおじさんの森』の監督であるのですね、このアーティストは。今回のインスタレーションはその映画と関わりがある作品であり『プンミおじさんの森』も、9月に上映会が行われることになっています
http://www.art-it.asia/u/ab_suzukit/3lvx7nyLc8UE1AZhGdfs
横浜トリエンナーレは、毎回、タイのアーティストの作品が面白い印象ですね。リヴァーネ・ノイエンシュワンダーの作品は遊べます

そのほか、ジュン・グエン=ハツシバの大規模なプロジェクトなど、いろいろ、こんな感じで



2時間弱過ごして、こちらの会場を出る

外から見た限りでは、何かイベントをやっている、というふうでもなく。前回はここから船が出ていたりして、ちょっと面白い雰囲気になっていたんですけれどね。今回は船はまったく出ていません。会場間の移動の足は、無料のシャトルバスに委ねられている。さて、YCCにちょっと寄り道してピーター・コフィンの『グリーンハウス』は音質の中でライブが行われるので予定を要チェック。また、このへんで『人間性回復のチャンス』という看板を見つけたら、それは宗教団体では無く、トリエンナーレの作品であります。
横浜美術館

横浜美術館はもともと木曜日が定住日で、今回のトリエンナーレ中はどうするのかと思ったら、なんと律儀に木曜日休み!こういうのは普通、無休なのでは…と思ったけれど、8月9月は、節電のための輪番休館との関係もあり、木曜日お休み、ということになったのかな…。10月は、すこし変わります。
美術館前では、ウーゴ・ロンディノーネの像がお出迎え

美術館内の空間全体、カフェなども使って、作品が展開されている。ちなみに、カフェにはインドのN.S.ハルシャの『気軽に食べさせあおう』この人の作品、以前にエルメスで見たりして、勝手に女性だと思っていたんですけれど、アーティストトークで拝見して、男性だったんですね…

会場の2階からエントランスを

上方にあるオノ・ヨーコの作品は、ランダムにオノ・ヨーコから電話が掛ってくるらしく、この日も何度か掛ってきていたみたい。
この日、会場はなかなかの混雑。それも、若い人が多い。この若い人と言うのも、普段、美術館で見る若い人と少し傾向が違う感じで、学校の課題で訪れた人が多かったのかな?で、さて、作品。美術館の既存の所蔵品とうまく組み合わせたりして、全体的に、非常にバラエティに富んだ作品群。シュルレアリズムの作品がひょい、っと置いてあったりね。
横尾忠則の黒いY字路などの部屋はとても良かったし、ミンチャ・カントルの白い人たちがホウキで掃き続ける映像作品興味がとても美しい。杉本博司の道楽感もいいなあ。立石大河亞の『大地球運河』などの3点、あるいは冨井大裕、今村遼佑、八木良太あたりの作品も良かったんだけれど、これは他の展覧会やギャラリーなどで一度見ていたので、作品のインパクトは初見だったら高かっただろうなあ、と思った。
池田学の博物学的な作品の構成が興味深く、そのとなりのブースに、いきなり湯本豪一の妖怪コレクションがあり、その中ではこんな作品があったり

おばちゃんがパチンコ台の前で動かなくなっていたり

全体、いろいろ、カオスな感じ、おもちゃ箱をひっくり返したような、『OUR MAGIC HOUR』が演出されようとしていたのだろうけれど…




そう、個々の作品としては面白いんですよ、じっくり見ましたですよ。前回みたいな突き放した感じが無くて、親しみは持てるし、はじめて見る人に興味を惹かせられる構成にはなっているんじゃないかなあ、ちょっと雑駁過ぎるとも思いますけどね。
ただ、なんと言うのかな、祝祭感とか、ワクワク感に掛けるんだよね…。何故?と言われれば会場外まで含めた全体の拡がりの無さのせいかもしれないし、横浜美術館と言うカッチリし過ぎた箱に収まってしまったから…かもしれない。そもそも、祝祭感とかライブ感とかどの程度必要か?という議論もあると思いますけれども。とにかく、そういう印象を受けたのです。去年のあいちトリエンナーレと…いや、予算も全然違うだろうし、比べるもんでも無いんだろうけれど…。
つらつら考えて行くと、おそらく、それほど予算も無かったろうに、そういう中で自分作品としてアジールのような展覧会を仕立ててしまった、川俣正のトンデモ無さを改めて実感する…んだよね。行って損はないけれど、なんとなく、うーん、という感触が残る…残るだけいいのか、そういう、横浜トリエンナーレ2011であるかなあ、と思ったのでした。そういうもやもやの部分を、『新・港村』と『黄金町バザール』がどの程度担えるのか…は、会期中の展開次第ではないでしょうか