日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

横浜市民ギャラリーあざみ野『Viewpoints』いま「描く」ということ

横浜市民ギャラリーあざみ野にてこの日からはじまった展覧会を見てきた
http://artazamino.jp/organized-events/special-exhibitions/contemporary_20120204/
昨年からはじまった、現在進行形のアートを紹介する“あざみ野コンテンポラリー”の2回目。前回は映像をテーマに、とても充実した展覧会だったけれど
横浜市民ギャラリーあざみ野『イメージの手ざわり』展 - 日毎に敵と懶惰に戦う
今回は「描く」ことがテーマ、4人の参加作家、いずれも絵画がメインになっている。そしてなんと、とても充実した内容なのに無料。館長さんによれば、あまり興味の無い人にも慣れ親しんで面白いと思ってもらい、別の展覧会などにも足を運ぶ機会となれば、ということだった。素晴らしい!
関内の横浜市民ギャラリーで昨年開催された『ニューアート展NEXT2011』も、ミヤマケイ、曽谷朝絵、荒神明香によるとてもボリュームのある、楽しい展覧会が無料だったし、ありがたいことであります、横浜市
「ニューアート展NEXT2011」 横浜市民ギャラリー - はろるど
この日は、出展参加のうち、淺井裕介さんと椛田ちひろさんのギャラリートークもあり、45分の予定が70分くらいになりまして、興味深い話が聴けた

淺井裕介というと泥絵や壁画などのイメージが強く、最近でも東京都現代美術館の大作(5月まで常設展の会場内に展示中)など、ライブペインティング的、アートフェスティバル的なものが印象に残っている。自分としては、福岡でも大きな作品を見たばかり(ぶれぶれですみません)

愛知トリエンナーレの作品も良かったな

古い話になるけれど、阿佐ヶ谷住宅の取り壊し前にも淺井さんの作品を見に行ったことがあった
阿佐ヶ谷住宅行って来た - 日毎に敵と懶惰に戦う
この展覧会においては、珍しく、ちゃんと(ちゃんと、というのもおかしいけれど)した絵画作品が多い。現場の合間に、アトリエで制作し続けているもの。冒頭に展示された画材や

冒頭に展示されたように、泥、マスキングテープ、小麦粉、スーパーのビニール袋などさまざまな素材を使う淺井さん、今回も展示の最初では、『あざみ野コンテンポラリー』のタイトルのための赤いカッティングシートだけを遣って構成した『文字の木』など、いろんな素材が使われている。
とはいえ、いろんな素材を遣ってみることが目的だったり、素材の使い方に感心してもらうのが目的ではなく。目につくもの、与えられたもの、条件で、止むにやまれず描く、毎日画を描いて暮らす、こんなものでもいいんだ、こんなものでやってしまった、とにかく描き続ける。そんな姿勢の表れなのだという。
そして画が“出来あがる”という地点の難しさ。1枚の絵に一カ月くらい時間を描けて、描いた後、自分の一番気に入っている部分をあえて潰して、そこを画きなおしたりすることもあるとか。もう手が出せない、次の絵が描きたい、あるいはどうしようもない時間の制約…などで画が出来上がる。今回、展覧会カタログ(無料なのにとてもしっかりした作り!)に載っている作品でも、展示するにあたって描きなおしている作品もある

淺井さんの話からも、作品からも、まさに、いま「描く」ということ、「とにかく描きたい」という思いが伝わってくる、力のある作品が多かった。高校の頃は陶芸をやっていたそうで、今回は陶芸の作品もありました。また、足からからインドの行き、スジャータ村でのウォールペイントのフェスティバスに参加するとか。その間、毎日、だれかの手に絵を描き、その写真を送ってきて、会場内のモニタで展示するとか。これも面白い。
続いて、椛田ちひろさんの作品

広い展示空間全体をぐるっと囲むインクジェット用紙にボールペンで描かれた楕円

昨年、東京都現代美術館で見たとても良い展覧会でも椛田さんの作品を見たけれど
東京都現代美術館『MOTアニュアル2011 世界の深さのはかり方』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
それもやはりボールペンの作品だったのだけれど、その時は、形の周りに髭が出たようなドローイングだった。今回、つるつるで光沢のあるインクジェット用紙に、赤いボールペンでひたすら線を引き続けて描かれた全長46mの作品は、つるんとした外形の楕円が描かれていることで、どこまでも深みにはまっていきそうな感覚を覚える。展示空間のインパクトがとても強い。
ボールペンを使う理由。色の効果の面白さで、画材として気にいっているという。確かに、光の当たり具合によって表情が変わったり、ボールペンの色合いは面白い。
また、目ではなく、体を使って描くこと。身体性を持った絵画。今回の作品も全体を見たのは展示室にきてから。アトリエでは、長い紙を巻き取りながら、ひたすら、30cmくらいの部分だけを出して、ぴったりくっついて、一心に線を引き続けて描くのだと言う。それはアトリエが広くないから…ということもあるけれど、全体を見通しては描かない、自分にも全体像がわからない。部分部分に対して常に手を動かし続けること。
描いている本人にもわからない、見えないものを描く。よくわからないまま、画面に手を突っ込んでいるような、こぼれおちながら水をすくいだしていくような


この空間を使って2月17日にダンスもあるという。面白そう。
2階に行くと、吉田夏奈さんの作品、小豆島をモデルにした絵画はクレヨンで描かれている

そう、まさに、小豆島に行くと、こういう風景が拡がっているよ。地形の面白さ

このダムがかわいかった

一番奥に、桑久保徹さんの作品。

いままさに描かれた!というような、絵の具の匂いが濃厚にする絵画。その奥にはアトリエが再現されていて、画材などが沢山転がっている様子がとても面白かった


どの絵からも、まさに今描かれた!という絵の具の匂いがする作品以外、時間の経っている作品からも、やはり、絵の具の匂いが濃厚にしてくるような…

2月12日にある、このお二人のアーティストトークも聴いてみたい。
ほんとうに、無料でいいの?という、とても充実した展覧会だった。いまのいままで制作していました!というような熱が、各作品から伝わってくる。コンテンポラリーの面白さ。是非、行ってみることをオススメします。