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東京国立近代美術館『ジョセフ・クーデルカ展』と『何かがおこってる:1907-1945の軌跡』

東京国立近代美術館で、チェコモラヴィア出身の写真家、ジョセフ・クーデルカの写真展が開かれている。
展覧会情報ジョセフ・クーデルカ展
クーデルカチェコで若いうちから才能を発揮して写真を発表し、雑誌の表紙や、劇場の舞台写真などで頭角をあらわした人。初期の、ぱっと見てわかる非凡さ、雑誌表紙写真のきわめて高コントラストな実験的作品、そして舞台をとらえた連作が見せる、役者の一瞬の表情、舞台上の人々の関係性…そのあたりを見ているだけで、ああこれはすごいな、と思うんだけれど、圧倒的なのがその次だ。
『ジプシーズ』は、チェコ、スロヴァキアの各地を巡りながら、そこに暮らすロマ(ジプシー)を撮影した一連の作品。人々の表情、生活の様子…それらはとても強くて、奥行きがあって、一枚の写真の中に何層にも物語が折り畳まれている、その写っている人だけではなくて、その背景にある民族、歴史、ありとあらゆるものが写真の奥に広がっていて、どの写真の前でも立ち止まって凝視してしまう。わたしを捕えて離さない。とにかく、このシリーズが圧倒的で衝撃的なのです。単なるドキュメントではない、かなり造り込まれている部分もあると思うんですが、そこを含めてね。
その次に、プラハの春を撮影した写真が10点ほど。ワルシャワ条約機構軍のチェコスロヴァキア軍事介入翌日にプラハに戻ったクーデルカは、その様子を撮影。翌年に匿名で西欧で一斉に発表されて、世界中にプラハの春の様子を知らせることになる。ある意味、紛争を捕えた写真のお手本となるような作品群。そしてクーデルカは1970年、3か月の出国ビザで出国したまま祖国には戻らず英国に亡命、後に国に残した肉親が亡くなってようやく、クーデルカが撮影したことが公表され、チェコでは1990年まで、この紛争の写真も一度も発表されることはなかった。で、クーデルカの名前を一番有名たらしめているのはこれらの写真なんだけど、展覧会においてはさほどメインの部分ではない。
続く『エグザイルズ』のシリーズがまた凄い。1970年にイギリスの逃れ、さらにその後、フランスを拠点とするクーデルカはヨーロッパ中を旅して写真を撮り続けるわけですが、1987年にフランスに帰化するまで無国籍者なんですね。その彼の目から捕えられたヨーロッパ、強い疎外と余所余所しさ、荒涼さ、旅の空と漂流の、どこか自由な空気を感じさせるそのシリーズがまた強烈。以前に漂流する民、ロマを撮影していたクーデルカは、自身もまた無国籍者となってヨーロッパを漂流して撮影している、そのことも思うとまた胸に迫る。
最後のほうの『カオス』シリーズは、荒涼とした風景を非常に大画面パノラマで撮影したもので、圧倒されるけど構図の作り込みとか、ちょっと大仰すぎる…ような。でも現実の廃墟とか、荒涼とした風景とか、その大きさとか、やはり通じるものがあって。それまでの人物の写真と合わせてみると、どこか、そう、フェリーニに通じるものがあるのですね。
フェリーニもそうだけど、見ながら思ったのが、浦澤直樹の漫画に出てきそうな顔がいっぱい…ということであり。マスターキートンに出てくる欧州は、長い大戦と複雑に絡み合った運命や漂泊に翻弄される人々による欧州の裏面でありまして、あの『YAWARA!』においてさえ、旧ユーゴスラビアの歴史に対する思いを馳せずにはいられない展開になっている。クーデルカの写真がとらえているのは、そういうヨーロッパなんですね。とにかく、強く強く心に残る写真展、おすすめしたい。
で、同時に開催されているコレクション展が、また、普段とはかなり様相の異なる展示構成になっている。『何かがおこってる:1907-1945の軌跡』
展覧会情報所蔵作品展  「MOMAT コレクション」

ナチスから逃れ、アメリカに亡命する途中に神戸に滞在するユダヤ人たちの肖像。1940年前後、日本を経由して2000人あまりのユダヤ人が国外へ逃れた。しかし、その写真の横には、満州国の人々の五族共和を湛える雑誌と

あの第一回文展出品作『南風』の和田三造が描いた、亜細亜民族の協同を訴えながら、あきらかに欧州的な伝統的構図の不思議な作品

1907年、日露戦争に勝利して一等国の地位を手に入れてから、繁栄を謳歌し、関東大震災を経て、暗い影がどんどん迫りつつ、そして戦争、敗戦へと向かう…。そんな激動の時代の光と闇を抉って見せてくれる、とても力の入った展覧会なのです。あ、さきほどの和田三造『南風』も出てますね

きになった作品

小磯良平のバレエと戦争画

戦時中の婦人雑誌と、戦争画


そして玉砕

普段、写真を展示しているコーナーには、『復興帝都シンフォニー』という映像が。後藤新平の肝いりで1929年の東京を撮影したサイレントフィルムが大変面白かったのです。クーデルカ展に合わせて森山大道などの写真展示も2階で数多く行われており、とにかく今の東近美は大変お勧めなのでありました。たぶん、空いてるしね。とらさんのブログ、いつも勉強になります
MOMATコレクション展 @東京国立近代美術館 2013・11 : Art & Bell by Tora
そうそう、第一部、ハイライトのコーナーでは、これが好きだったな