日毎に敵と懶惰に戦う

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埼玉県立近代美術館『戦後日本住宅伝説 - 挑発する家・内省する家 - 』

久しぶりに埼玉県立近代美術館


本日の展覧会は『戦後日本住宅伝説 - 挑発する家・内省する家 - 』
2014.7.5 - 8.31 戦後日本住宅伝説—挑発する家・内省する家 - 埼玉県立近代美術館
16人の建築家による、戦後(1953年から1978年まで)の名住宅を写真図面模型映像で、丁寧に紹介していく展覧会。丹下健三の、迎賓館の役割も果たしていたような立派な住居もあれば、わずか7坪の空間に5階建てを造り上げた狭小住宅、東孝光の『搭の家』もあるし

中銀カプセルタワービルのような空間もある。しかし、総じて、パーソナルな空間の作り方がどうあるべきか、建築家の哲学にひたすら向き合う展覧会だった。会場内、基本的に撮影は禁止なのだけれど、丹下健三のそれ以外の各ブースには撮影可能な大判の写真が一枚あり、それは撮影することができる。この展覧会、自分はどの家に住みたいか、と考えながら見ていくと、自分のものの考え方と深く対峙することができて、とても面白い。
自分ならどこに住みたいか。立地込みで。壁のない空間を何十年も使い込んで導き出された生活感があふれ出ていた…コンセプトが飾りじゃないのだ、ということをはっきりしめしていた清家清『私の家』であるとか

新宿で、ひとが集うことを意識した磯崎新の実質的デビュー作『新宿ホワイトハウス』は都市に住む、ということの楽しさを体現できそうな家であったし

その美しさや完成度でいったら、やはりなんといっても、菊竹清訓『スカイハウス』はいいなあ…と思うのだった

デートに向く展覧会、向かない展覧会というのがあると思うけれど、この展覧会はある程度熟している、この先どうしていくか、みたいに考えているカップルで来ると面白いのではないだろうか。どの家に住みたいか、パーソナルな空間の距離感、使い方の志向、そう思うのはなぜなのか?そんな話しながら、この人はパートナーとしてどうなのか、考えられると思う。建築展であるけれど、とにかく住宅住宅住宅であるから、誰でも、自分に引きつけて問題意識を喚起させることができる展覧会なのだ。
それにしても、これはちょっと…みたいな住宅も多く、たとえば原広司は何を造っても原広司なのだな!の『原邸』

安藤忠雄は『住吉の長屋』について、風や雨など自然環境に向き合わないといけない暮らし云々と言っていたけれど、自分は住みやすいからと普通にマンションに住んでいるらしく、このおっさんは…

白井晟一の『虚白庵』とか、家というより瞑想の空間なのでは…

石山修武の『幻庵』森の中にあるのだが、絶対あやしい人が住んでる、近づいちゃいけない感じがする…

毛綱毅曠『反住器』も、まあ楽しそうだけどさ…

パーソナルのありようもいろいろで、そのあまりにパーソナルな建築理由から、他人が済むのを善しとせず、出るときに解体してしまった伊東豊雄の『中野本町の家』のようなものもあるし

オーナーが代わっても、4代にわたって大事に済み続けられている、増沢洵『コアのあるH氏の住まい』のようなものある

こんな家、金持ってないと住めないじゃん、みたいなもんが多いですからね、まあある意味、ショーウィンドウ的にはなるのであるけれど、それぞれのスペースにある模型や写真を眺めたり、建築家の言葉で語られる映像や、住居の中を詳しく紹介した映像などを見ていると、自分の住み方暮らし方について、いろいろ思索を巡らせることになるのだった。
映像で言えば、黒川紀章中銀カプセルタワー

25分もので、カプセルを作る工場とか、建設の様子とか、実際に生活する人のいかのも昭和サラリーマン!な画とか、タバコの煙にまみれて語り合う人々とか、とても楽しい内容だった。 公園に実物もあるので忘れずに。もとは中銀カプセルタワーの下に置いてあったんだけど、森美術館のメタボ展の時に展示されて、その後、埼玉に設置されたんですね


映像は、そういえば、メタボ展の時に流れていたものと一緒だったね
森美術館『メタボ展』と柳宗悦と… - 日毎に敵と懶惰に戦う
普通に居心地がよさそうだけど、生活感のないのもなんかなあ、篠原一男の『白の家』とか

とにかくがっつり見て、久しぶりに図録も購入した展覧会なのでした。その後、常設展も。
2014.6.14 - 8.31 2014 MOMASコレクション 第2期 - 埼玉県立近代美術館
今回の常設、小村雪岱の作品や資料が非常に充実していて、見逃せないものになっている。一昨年、ニューオータニ美術館で『小村雪岱』展を見て、泉鏡花をはじめ、大正から昭和初期の流行作家、人気戯作者ズラリ揃った本の装幀が、とんでもなく大胆でモダンで画面構成の妙味があり、持っているだけで嬉しくなるような本になっていて。挿絵や舞台装置含め、当時の文化の爛熟度も感じられる展覧会だったのだけれど。装幀の数々は引き出しも多いんだけど、江戸情緒を感じさせながら、直線主体の構成で余白も大胆に使う画面のデザインが、なるほど商業デザインがうまく昇華されていて。その展覧会を思い出すような空間づくりがされていた。
屋外彫刻もね

埼玉県立近代美術館は、なにより、ジャコモ・マンズーの彫刻がある吹き抜けの空間が大好きだし


椅子がたくさん置かれていたり、空間的にもとても好きな美術館なのです



ここにカプセルが移築されたのも、この美術館が黒川紀章作品だから…というのが大きいだろうけれど。やはり黒川紀章作品の名古屋市美術館とも似てるよね
駆け足で巡るあいちトリエンナーレ2010 - 日毎に敵と懶惰に戦う
とても駆け足で廻るあいちトリエンナーレ2013 - 日毎に敵と懶惰に戦う
そんなわけで、この後、やはり黒川紀章広島市現代美術館などにも巡回するけれど、カプセルも見たいのならさいたまで!なのでありました

2014.7.5 - 8.31 戦後日本住宅伝説—挑発する家・内省する家 - 埼玉県立近代美術館