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東京国立近代美術館で戦争記録画12点展示、そして藤田嗣治全点展示へ



東京国立近代美術館では、戦争画、戦争記録画と呼ばれる作品を数多く所蔵している。日中戦争中、藤田嗣治をはじめ多くの画家が戦地に赴き、戦地の様子を書き留めた。そして聖戦美術展などの美術展が開催され、そこで戦争画が出品される。これは日米開戦後も続き、従軍してスケッチする以外にも、多くの戦争画が生み出された。詳しくはこのへんを読んでほしいけれど。
戦争画 - Wikipedia
戦後になり、このうち153点がGHQに接収されアメリカに運ばれたが、1970年に日本に、無期限貸与という形で返還された。必要に応じて修復が行われ、東京国立近代美術館に保管されている。その一覧はここから見ることができる
独立行政法人国立美術館・所蔵作品検索
上記のサイトから『戦争記録画』で検索すると東京国立近代美術館所蔵の全153点の情報が網羅でき、うち80数点については画像も確認できるようになっている。この153点については、詳しくは増子保志氏の論文も読んでほしい
GHQと153点の戦争記録画
また、アートブログを書いておられるとらさんが、度々、戦争画について言及しているので、そちらも読んでほしい
戦争画 : Art & Bell by Tora
これらの153点については、修復後の1977年に、大規模な戦争画の展覧会が予定されていた。しかしながら、諸般の事情によりこの展覧会は直前で中止された。以降、美術館では一度に2〜3点程度の作品を細々と展示し続けるのみだった。
さて、東京国立近代美術館はつい先だって60周年を迎え、大規模なリニューアルが行われた。わたしはこのリニューアル後、戦争画の扱いはどうなるのだろうか?展示される機会が減ってしまうのではないかと思っていたが、ところがどっこい、である。まずリニューアル後の記念展覧会からして、戦争画は多く展示された
東京国立近代美術館『美術にぶるっ!』展がいろんな意味ですごい - 日毎に敵と懶惰に戦う
そしてその後、不穏な社会情勢に呼応するように、おそらく同館の鈴木勝雄研究員主導で、戦争画を含むメッセージ性強いコレクション展が、度々開催されていく
東京国立近代美術館『ジョセフ・クーデルカ展』と『何かがおこってる:1907-1945の軌跡』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
東京国立近代美術館『映画をめぐる美術』『MOMAT コレクション』『地震のあとで―東北を思う3』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
かつては同時に2〜3点しか展示されなかった戦争画が、一度に数多く展示されるようになったのです。そして今回のコレクション展『誰がためにたたかう?』においては、一挙12点もの戦争画が展示されている
東京国立近代美術館 MOMATコレクション『誰がためにたたかう?』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
以下、今回展示されている12点を紹介していく。みな、とても大きな作品です

藤田嗣治『哈爾哈河畔之戦闘』

御厨純一『ニューギニア沖東方敵機動部隊強襲』

石川寅治『渡洋爆撃』

小川原脩『成都爆撃』

佐藤敬『クラークフィールド攻撃』

鶴田吾郎『神兵パレンバンに降下す』

中村研一『コタ・バル』

宮本三郎『香港ニコルソン附近の激戦』

藤田嗣治アッツ島玉砕』

吉岡堅二『高千穂降下部隊レイテ敵飛行場を攻撃す』

吉岡堅二『ブラカンマティ要塞の爆撃』

田豊四郎『英領ボルネオを衝く』

戦争画も軍歌と同じで、戦争初期は、戦果を高らかに強調するような内容のものが多い。宮本三郎の『山下、パーシバル両司令官会見図』のようなものもある。そして戦況が思わしくなくなると、凄惨な戦場の様子を描くようになる。しかしいずれにしても、国民に対して、高らかであれ、悲壮であれ、戦意高揚を促すメディアミックスの一翼を担ってきた。
戦後になってこれらの画家は糾弾され、とくにその矛先となったのは藤田嗣治だった。藤田は国内での状況に嫌気がさし、またフランスへと戻っていく。
究極の戦争画-藤田嗣治 @NHK: 極上美の饗宴 7.11 : Art & Bell by Tora
藤田嗣治、ふたたび、その戦争画について: 内野光子のブログ
藤田嗣治 玉砕の戦争画|NHK 日曜美術館
戦争画と画家の戦争責任については、jca.apc.orgの記事ですがこんなのもご参考に
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藤田には…特にその最後の奥様には、この日本を追われたような経緯を巡るしこりが残っていたのでしょう。現在では藤田嗣治の展覧会は普通に開催されているけれど、ちょっと前までは、本人の死後も藤田嗣治の展覧会はなかなか開催されなかったのです。2006年に開催された画期的な藤田嗣治展は、ものすごい混雑だったんですね。
「藤田嗣治展」 | 弐代目・青い日記帳
東京国立近代美術館は、藤田嗣治が描いた戦争記録画を14点所属している。一覧は、やはりとらさんの作成した表をどうぞ。
http://home.g01.itscom.net/cardiac/FoujitaNMOM.pdf
そしてどれも印象深いものが多い。上記の展覧会において展示された戦争画は、このうちの5点だった
「藤田嗣治展」 東京国立近代美術館 4/22 - はろるど
さて、さて。実は東京国立近代美術館では、2015年9月19日(土)〜12月13日(土)で、藤田嗣治特集(全点展示 4F、3F)というものが予定されている
2015年 | 東京国立近代美術館
ここには、所蔵されている戦争画14点もすべて展示されるのだろうか。実は藤田嗣治のついては少し前にもミニ特集をやっており、渡仏直後、乳白色、中南米戦争画、戦後、再渡仏後と7点、さらに藤田制作の映画も並べて、作家の視点を通じてナショナリズムアイデンティティの問題に迫る興味深いものだった
東京国立近代美術館『菱田春草展』と常設、工芸館『青磁のいま』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
戦後70年、かつて断念された戦争画を網羅するような展覧会、そろそろ開催してもよいころ合いなのではないか。そして最近の展示状況は、そのための布石を打っているのではないか…そう、期待したいところなのです。いずれにしても戦争記録画、あまり見たことの無い方は、とりあえず今の東京国立近代美術館に行ってほしいのです