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森美術館『村上隆の五百羅漢図展』と、辻惟雄・村上隆トークセッション

 

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森美術館村上隆五百羅漢図展に行ってきた。村上隆は間違いなく、今の世界の現代美術界において最高の評価を得ている一人であるのだけれど、特に日本国内においては毀誉褒貶の多い人であり、特にアニメ漫画をモチーフにした作品や、それにまつわる各種言動によって、一時期はほとんど、オタクのパブリックエネミーと化していたのは、あなたもご存知の通り。

その村上隆であるけれど、最近は日本美術、特に美術史家の辻惟雄をして『奇想』と呼ばれるような作品群をモチーフに、多くの作品を制作している。そして今回のタイトルにもなっている『五百羅漢図』は、3m×100mの超大作であり、2012年にカタールのドーハで最初に発表された作品。発表当時、日本から見に行った東浩紀椹木野衣が激しく反応してかなり話題になっていたし

それまで村上隆が嫌いだった富野由悠季御大は、この五百羅漢図のことを雑誌で見て、村上隆に興味を持ったという。2012年にこういう対談が行なわれている(今回の展覧会でも、11月1日にはトークセッションがあった)

今現在、村上隆の作品はほぼ国外で発表されており、所有自体も、初期の作品が一部の美術館やコレクターの手元にある以外は、ほぼ国外になっている。本人も日本で展覧会などあまりやりたくないらしく、その大きさも相俟って、五百羅漢図を日本で見る機会は無いだろうと思っていた。 

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 ところが、いろいろあって(トークの際にも話が出てくるのですが)、日本でこの五百羅漢図を見ることができる展覧会が開催されることになった。それが今回の森美術館村上隆五百羅漢図展』というわけです。

五百羅漢図と、近作の大きな作品を中心に展示するこの展覧会、なんと会場内すべて撮影可能、動画も撮影可能、ご自由にどうぞという寛容さ。

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極彩色な絵画・彫刻がどどーんと並ぶ、たいへん迫力のある展覧会になっているのだった。そして五百羅漢については、その前奏曲となった辻惟雄との芸術新潮での連載…辻惟雄が出すお題(伊藤若冲曾我蕭白、狩野一信などなど…)に対して、村上隆が作品で答えるという企画の解説が、展覧会の中でまず行なわれており 

熱闘! 日本美術史 (とんぼの本)

熱闘! 日本美術史 (とんぼの本)

 

 この展示の中に、狩野一信の五百羅漢図も一部が展示されている。狩野一信の五百羅漢図も超絶な作品であり、4年前に江戸東京博物館で行なわれた展覧会、震災で危うくなりながらなんとか開催された、その百幅をまとめて展示する凄い展覧会で見た記憶が、まだ強烈に残っている 

そして現在、その所有者である増上寺において、20幅ずつ展示する展覧会が開催されているので、それも見に行って欲しいのだけれど

狩野一信の五百羅漢図展のお知らせ|増上寺

とにかく、それらの解説に続いて展示される村上隆五百羅漢図は、青龍・朱雀・白虎・玄武、それぞれ25mずつが、どどん、と広い空間に並んでいるのだった

 

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この作品、もちろん、村上隆がひとりで描いているわけではない。日本中の美大をスカウトキャラバンを組んで巡り、そこで集めた美大生200人でチームを組み、4000枚のスクリーントーン シルクスクリーンで作り上げた作品でありまして、村上隆が以前から構築していた工房体制、その20年間の集大成であるとも言って良い。

五百羅漢図を展示する間のスペースには、その指示の様子を示す資料の山が築かれており、これが非常に興味深いものになっている。

 

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 いろいろと、叱咤と怒声もとんでおりますね

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今日の現代美術においては、自分で制作する、というよりも、アーティストはコンセプトを提示して、実際に製作してビジュアルを実現するのはチームや工房や工場、というのが、ひとつの主流となっている。村上隆は映像の制作も手がけており、現在、彼の会社『カイカイキキ』は200人ほどの規模で、4割アート、6割映像、くらいの構成になっているという。そういう、チームでの仕事のすすめっぷりも非常に興味深く見ることができる。

そしてとにかく五百羅漢図は、その構成、色彩、規模、どこをとっても、巧いというか、すごいというか、とにかくよくできているのである。村上隆が嫌い、気に食わない人も多いとは思うが、五百羅漢図以外の作品を含めて、ある意味、歴史の証人になるくらいのつもりで、見に来て欲しい展覧会なのだった。

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 その後、アカデミーヒルズにて、辻惟雄村上隆のトークセッション「痛快、日本美術談義」に参加する。200人ほど入る会場は満員

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 モデレーターの三木あき子氏…今回のゲスト・キュレーターでもあるのだけれど、彼女がふたりの関係などについて解説する間、村上さん、壇上からおりて、南條史生館長の横に座ってスマホいじったりしてる。最初は大丈夫かいな…と思ったんですけどね。最後のまとめで三木あき子氏が「痛快、ではなくて迷走…」と言っていたけれど、いやいや、そんなことはない。実に刺激的で楽しい対談になった。

そもそも村上さん、この展覧会…というか、日本で展覧会などやりたくなかったと。それを、南條館長は、フランスで活躍していて村上さんとも親しい三木あき子さんを引っ張り出して日参させて、ついには村上さんの大恩人の辻さんを引っ張り出してきて、断りようをなくしてしまって、仕方なくやったのです…という。

どうして恩人なのか、というのは、フクヘンさんがわかりやすくまとめていたので引用しますね

 

 

 

 

その辻先生の著書こそが、流派と年表ばかりで表現に焦点をあてない日本美術史研究に一石を投じた…いや革命をおこし、今日の若冲ブームなどの基礎ともなっている『奇想の系譜』であった。 

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

奇想の系譜 (ちくま学芸文庫)

 

 村上隆はこの本を繰り返し読み、金田アクションと狩野山雪に共通点を見出し、そして今日に至る、アニメ・漫画・日本美術モチーフで作品を作り出す礎となっているのだという。

村上隆、辻先生を尊敬しているんですよ!ほんとですよ!と、自分の会社、カイカイキキでこの本の英訳をつくり、あちこち配っていると。『英訳して本にして、こないだのときもみなさんへのお土産に入れたじゃないですか』というと、辻先生『ああ、そうでした…売れ残ってたのかなと』とか、いちいち、受けが面白い。

辻先生、自身の著書から村上隆のようなアーティストが“釣れた”嬉しさを語ったり、終始村上隆を褒めるんだけど、ただ褒めるだけでなく、自分で描かない…とか、もうこの作品が描けたから死んでもいいんじゃない?とか、下げつつ褒めるの繰り返しで、そしてその中でズバッと鋭く語り、なかなかのヒトタラシ。

というか、この先生、おじいちゃん、重鎮のわりにボケかたが絶妙で、なかなか喰えないけどほんとうに話が魅力的であり。まるでボケ辻先生ツッコミ村上さんの漫才のようだった。辻先生は自由旋律で鋭く、村上さんは真摯だったのです。以前に辻おじいちゃんのトークに行ったときも面白かったなあ… 

2時間にわたったトークは、デッサンの狂いを戦略的に利用する話とか、今回の五百羅漢図は古画の羅漢の顔から、おでこ、口、鼻等パーツを取り出し、それを順列組み合わせしたものをデッサンの狂った学生にスケッチさせて伝言ゲームでバリエーションしたんだ、って話とか…。

あるいは、現在、アメリカで見ることが出来る、群仙図屏風から着想を得た作品が自身としてひとつの到達点であると思う、五百羅漢図はチーム制作の試行であった、とか。そもそも人と一緒に仕事をしたくないから美術の世界に入ったのに、なぜか作品制作も映像制作もチームでやって、組織論とか人身掌握とかに注力している不思議とか。

あるいは会場のあるこの作品

 

 

展覧会のはじまる3日前に、三木さんが三芳の工房にいったときはほんとうに真っ白で、前日には顔が黒かったんだけど、なんとか仕上げたと。その最後の3日間のチームのグルーブの醍醐味、そのために1年間休まず制作を続けるんだ、とか。

奇想の系譜は肉体的なリズム感である、とか、価値観の衝突が活性化を生み出すとか、日本の中にいると瑣末な突っ込みばかりが目についてしまう、ジョブズのデザインを通じて日本のを受容するのだ、とか。

とても密度の高い2時間なのだった。

 


展覧会は来年の3月まで、長期にわたって開催されています。とにかく、足を運んで欲しいと思える展覧会です。

さて、奇想の系譜は生涯のバイブルと言いつつ、今後も日本美術モチーフのものは注文があれば描くけど、クーンズの最新作もとんでもない変なのだし、そろそろ自分も新しい方向へ…と言っていた村上さん。会場からの質問で、筆一本の仕事は今後はしないのですか、と聞かれて、蕭白とかコレクションしてるからいいです、なんて言ってたんですが。

そのコレクションを展示する展覧会も横浜美術館で開催されますので、合わせてどうぞ、なのでした

村上隆のスーパーフラット・コレクション ―蕭白、魯山人からキーファーまで― | 開催中の展覧会・予告 | 展覧会 | 横浜美術館