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『旅するルイ・ヴィトン』展に、ハイブランドの本気を見る

紀尾井町、ホテル・ニューオータニのすぐ近傍で、4月23日から、ルイ・ヴィトンによる期間限定の展覧会『 Volez, Voguez, Voyagez - Louis Vuitton(空へ、海へ、彼方へ ── 旅するルイ・ ヴィトン)』が開催されている。

jp.louisvuitton.com

 昨年末から今年の2月に掛けて、パリのグラン・パレで開催されていたものの巡回展。紀尾井町で開催するのは、1978年に日本一号店を作ったユカリのある場所だから…らしいのだけれど、紀尾井町にそんな会場あったっけ?と思ったら、なんと建物から建てたのである。

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この場所、googleストリートビューで見たらこんな場所だ。そうだそうだ、確かに駐車場があったよ

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仮設の建物を建ててブランドが展覧会…というと、以前にあったシャネルのモバイルアートを思い出しますが

シャネル「モバイルアート」 | 弐代目・青い日記帳

あれは『移動可能な美術館』という形式自体がコンセプトだったし、現代アートそのものを見せる美術館を、シャネルがスポンサードしています、という形式であった。

今回はそうではなく、ルイ・ヴィトンのブランドの歴史、製品の歴史そのものをガッツリ見せます、という展覧会になっている。じゃあ製品を歴史に沿って並べただけなのか、というと、さにあらず。キュレーションはパリ市立ガリエラ美術館モード&コスチューム博物館の元館長、オリヴィエ・サイヤール。展示デザインはオペラ、ミュージカル、舞台の演出から映画まで、世界的に活躍するロバート・カーセン。展覧会として本気です。

そしてこの展覧会、無料なのである。予約無しでも入れるようだけれど、事前に公式サイトから予約をしていったほうがスムーズに入場できると思うので、予約するのをオススメする。

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私達が今日、眼にするルイ・ヴィトンは主にかばんであるけれど、『旅』をテーマにした展覧会は、ルイ・ヴィトンの起源である『頑丈なトランク』からはじまる。

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上流階級の人々の旅には衣類をはじめ膨大な荷物がつきものだけれど、旅の手段が主に馬車だったころは、雨が溜まってしみこまないように、トランクの上部は丸みを帯びていた。ルイ・ヴィトンの歴史が木工からはじまったことを示す資料も沢山展示されている

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しかしこの形状だと、上にいくつも積むことが出来無い。そして旅の手段は馬車から、自動車、船、鉄道などに多様化していく。ここに注目したのが創業者ルイ・ヴィトンで、蓋が平らなトランクを作りだす

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さらに、木材や革だけでなく、軽い無地のコットンに防水加工した「グリ・トリアノン・キャンバス」を使用し、単なる箱ではなく、収納しやすいように仕切りや引き出しを作り、これらの製品が大ヒット。模造品が出回りはじめたので、ブランド価値を作り出すためにおなじみのモノグラムを採用…という経緯で、ルイ・ヴィトンは発展していくわけです

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そんな製品の数々が惜しみなく展示されてるわけですよ。

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 そして、展示物はルイ・ヴィトンの製品に限らない。トランクは主に衣類や身の回りのファッションを収納するために作られているので、あわせてファッションの数々も展示されている。ここがまたこの展覧会のすごいところで、例えば1920年のトランクだったら、1920年のファッションの本物があわせて展示されてるわけ。

これが可能なのは、パリ市立ガリエラ美術館モード&コスチューム博物館の元館長がキュレーションやってるからであり、世界一のファッションのコレクションを誇るガリエラ宮から、時代時代のコレクションの本物が、惜しげもなく出品されてるのです。

三菱一号館美術館で開催中のオートクチュール展も、ガリエラ宮のコレクションですべて構成されていることは、先日書いた通り 

トランクは歴史的な遺品と合わせて、最新のものも展示されている。ルイ・ヴィトンの歴史と精神とブランドは、この通り、連綿と続いておりますよ!あなたがこれから買うのは品質や見栄だけではありません、この歴史を、精神を、我がものとしているのです、さあ!歴史と精神を手に入れましょう!と訴えてくるわけ。さすが、ハイブランドの本気展覧会だ

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それ以外にも、昔の工房の写真とか、名入れのための注文票とか、興味深い展示品は盛りだくさん。トランクの鍵にシリアルがついていて、その顧客リストとかも

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さりげなく絵画が飾られているかと思えば、クールベだったりする…

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いちいち、マジな本物しか無い。そしてここまで書いて、まだ展示は1/4も消化できていないのです…。美術関係者、デザイン関係者、いろんな人がこの展覧会絶賛していて、凄い、と言うと共に、今の日本の美術館で、こんな内容は出来ない、と言うわけですね。美術館関係者が見たら、驚きや発見よりも打ちひしがれるんじゃないかと。

方向性は違えど、これと似たような感想が洩れ聞こえたのは、先日の横浜美術館村上隆コレクション展で、あの時も、日本にこれだけの展覧会を開けるコレクションを持ってるところは無い、というわけです。なんか、いろいろ考えちゃうよね。 

ルイ・ヴィトンは伊達や酔狂でこんな展覧会をやっているわけじゃなく、ブランドイメージをより確固たるものにして、今後何十年かの商売を見据えて、莫大なカネを掛けてこのイベントやってるわけですから。そりゃ、妥協一切無しの本気ですよ。

さて、話ばかり長くなっているので、展示を見ていきましょう。馬車からはじまった旅の手段には、船、豪華客船も登場してくる。船の旅は荷物が沢山持ち込める、そして船内ではパーティーが何度もあるから、それぞれ別のものを着なくちゃいけない。一度来たドレスをしまう必要も出てくる…

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というわけで、トランクだけではなく、折りたたんでしまって手持ちできるような、やわらかいバッグも登場する。これがある意味、私達が今日目にするような、ルイ・ヴィトンのバッグの原型になっていくわけですね。

ルイ・ヴィトンはそのトランクやカバンで評判を得るようになると、様々な特別注文も舞い込むようになる。それまでもデリバリーにシトロエンのトラックが使われていたんだけれど(昔の写真もたくさん展示されているし、会場前にも再現した車が展示されている)

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このシトロエンが自身の車の宣伝、あるいはさらに、フランスという国家そのものの力の誇示、その植民地探検…という位置づけで、ナショナル・ジオグラフィック協会の支援も得て、改造車を使用した探検が企画される。この1930年代の仕事は、アフリカへの遠征が「黒の巡洋艦隊」、アジアへの遠征が「黄の巡洋艦隊」と呼ばれた。その映像もある

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半装軌車 - Wikipedia

ルイ・ヴィトンはこの黄色い巡洋艦隊から特注を受けて、過酷な旅路に耐えて、この車にぴったりおさまるトランクを納入されるわけですね。そしてトランクやカバンだけでなく旅に必要な身の回りの品物も一緒に納入している

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多大な人的・物的・金銭的犠牲を払いながらも成功を収めたこの探検隊により、ルイ・ヴィトンの名声もますます高まるわけです。

さらに、旅の手段は自動車に

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そして飛行機に。飛行機の旅のために、さらにトランク・かばんも軽量化が行なわれる

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さらには鉄道の旅に

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旅の手段の多様化に会わせて、ルイ・ヴィトンがその活躍領域をどんどん拡げて行く様子がよくわかる展示構成になってるわけです。会場構成もいちいち凝ってるしな…。ほんとうに金かけてる、たった2ヶ月の仮設とか思えない誂え。

さらに、旅のためのトランク・カバンだけに限らず、あるいは書斎で活躍するルイ・ヴィトン

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アーティストとコラボするルイ・ヴィトン

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ダミアン・ハーストに、村上隆

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セレブとともにあるルイ・ヴィトン、ファッション分野にも進出するルイ・ヴィトン

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ありとあらゆる豪華絢爛なルイ・ヴィトンが、これでもか、と並んでいるわけですよ。そして日本の展覧会だけに、日本向けのコーナーも用意されている。

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茶道具入れのルイ・ヴィトンって…すごい…

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白洲次郎が使ったかばんも展示されていて、まああるよね白洲次郎なら…みたいな印象だけれども、板垣退助の使ったトランクなんかもあってびっくりした

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草間彌生デザインもあるでよ

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さらに工房での作業の実演もあり、帰りにはポスターのお土産までいただける、至れりつくせり。いやほんと、無料で見られてありがたい…という内容であります。カフェと売店(本だけですが)もあって、こっちはさすがにお高いんですけどね。

最後のほうは駆け足での紹介となったけれど、写真を載せたのは展示物のほんの一部。ともかく、これだけのもの、なかなか見られるものじゃないです。だんだん混むと思うので、なるべく早めに行っておくことをオススメしたいと思います。