横浜美術館『ヌード NUDE』展は、テートならではの骨太の展覧会。そして夜は『南粤美食』
連休初日の土曜日、午前中は洗濯機を4回まわし、届いた本棚を組み立て…などして過ごす。昼に、昨日買った炊飯器で炊いたごはんで筋子を食べた、美味くて幸せ…
昼過ぎに出掛けて伊勢佐木町、馬燈書房や有隣堂本店に寄りつつお散歩。日本丸を眺めつつ
この日の展覧会は『ヌード NUDE ー 英国テート・コレクションより』
ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより | 開催中の展覧会・予告 | 展覧会 | 横浜美術館
キービジュアルになっているロダンの接吻ばかり話題になりがちだが、そしてそれももちろん良いのだが、この展覧会、イギリスのテートの所蔵品を中心に構成されて世界巡回中の企画展で、ロダンばかりが注目されては勿体ないのであります。
テートのキュレーターがしっかり企画した展覧会であり、さすがテート、ヌードを描く・撮る・形造ることの今日の政治的、ジェンダー的視線までしっかり目が届いている、骨太でとても面白い展覧会なのだ。
序盤、ラファエロ前派が描くヌードなどからはじまる。ご存じのように、宗教画歴史画以外は低く見られていた欧州において、徐々に風景画や日常生活の絵画ががその地位を獲得していったわけですが、やはりヌードは敷居が高かった。
歴史画宗教画としてはじめて描く事が許されたヌードから、ドガやマティスが描くヌードなど、モデルと画家の親密な空気まで表現されたヌードへ。そして、ヌードそのものの表現方法の模索へ。葛藤を伴いながら、ヌードがプライベートに描けるようになる過程。美麗な作品がたくさんで眼福。
このあたりは以前、日本画におけるヌードの描かれ方を追った『ぬぐ絵画』でも既視感ありますね
画家によって、モデルを対象として突き放していたり、ドガのような親密…というかほとんど隠微な感じのヌードのなったり、その距離感の違いも興味深い。
次の部屋は、ロダンの「接吻」が撮影可能。
等身大以上の像を黒い壁を背景に360度、どこからでも撮影できて、そして、360度、どこからでも絵になって破綻も無くてさまざまな表情を見せてくれて、素晴らしい
そしてその、部屋の真ん中のロダンばかり注目してしまうんだけれど、この部屋、周囲をしっかり見て欲しい。ホックニーの男性同士の親密な関係を描いたスケッチ、ターナーのエロティックなスケッチ、ピカソの春画と見紛うエッチングなど、思わず見入ってしまう作品の数々。この部屋は(性的にではなく)相当興奮させられる。特にピカソ。これ凄い。ほーっ…とため息つきながらしばらく離れられなかった。
ターナーのスケッチは、その権威を保ちたい関係者が相当嫌がっていたようで、かなり廃棄されたらしく。最近になって色々発見されて、研究が進んでいるんだそう。ロダンの彫刻も直接的すぎると公開当初は布を掛けられたりしていたらしい。
シュルレアリスムのヌード表現では、デルヴォーの作品がモチーフは何時ものデルヴォーなんだけど、テートはさすが良いもの持ってる…となる。さらに続く部屋では、特別出品として近美と富山のベーコンがどかっと並んでいて眼福。巡回展だけれどこれは日本だけですね。その脇にテートから持ってきたベーコンのスケッチが添えられていて、あのベーコンの良くわからない身体表現はこのようなスケッチから…と興味深い。そんなところも贅沢な展覧会。5年前の近美のベーコン展も思いだす
特異な現前──東京国立近代美術館「フランシス・ベーコン」展評:フォーカス|美術館・アート情報 artscape
終盤は、ヌードを描く画家や撮る写真家とモデルの権力関係に自覚的、批判する作品群も並び、ヌードを描くことの政治性、ジェンダー的意味にも切り込んでいく。ここらへん、ほんと、テートだなあ、と。ヌードと言うテーマを扱って、過去の膨大な蓄積も見せつつ、ちゃんと欧米の今の潮流に乗った料理の仕方をしてくるところがね。
描くためには理由が必要だったヌードから、ヌードそのものの表現を追求する時代になり、そして現在、ヌードを描くことが政治性や様々な意味を帯びることを避けられない時代へ。そういう、ヌードを描くということの意味の変遷をしっかりたどれる、ガッチリした展覧会なのだった。
ちなみに、美術館の入り口にはこんなパネルが…
横浜美術館はもちろんコレクション展も良いので、今回もしっかり見ますよ。新収蔵先品では、日本郵船の秩父丸の船長が、乗船した藤田嗣治から貰った絵画とか
長谷川潔の版画はモチーフになったおもちゃも一緒に
三溪園を作った大実業家、原三溪は美術のパトロンとしても有名だけれど、その人自身が描いたものも
そんな、横浜にまつわるものもたくさん。中島清之の作品も何点か。以前に横浜美術館で展覧会ありましたね
ヌード展に関連して、身体を描いたものも多く特集されていて、今回のヌード展にも出品されていたミレイの作品を下村観山が渡欧時に模写したもの…なんてのも
そんなこんな、充実の内容です
横浜美術館のコレクション展が素晴らしい!というお話は、以前、横浜のアート関連のサイトで書かせてもらったことがありますですよ
がっつり堪能して、さて、17時。本日は千葉方面から出てきた皆様と一緒でありまして、この後は中華街のお店が予約されていたわけです。
というわけで、タクシーに乗って、はい、いつもの南粤美食であります
今日の南粤美食は8人5000円で宴会。特にお願いはせずでお任せ。まずは前菜盛り合わせに塩鶏にアヒルの定番、無言で奪い合うように食べる。
淮山(ワイサン、山芋の干物)のスープはほんのり甘い滋味深い味。はじめから食べたことないものが出てきて嬉しい…
ホタテとイカとスナップエンドウはXO醬の炒め物。これまた美味い。ビールも紹興酒もすすむ
次にエビチリ、本格的に辛くて、でっかい海老はプリプリで美味い。
海老餅団子、なんだこれは、海老のすり身に味噌まで入った中身にもち米がついていて、濃厚な海老味が素晴らしい。
そして芥藍の炒め物。見た目は地味だけど、旬ど真ん中の芥藍の食感とほのかな苦味が実に美味い
焼きそば、色は濃いけど味が濃いわけじゃ無く旨味の強さでいくらでも食べられて
デザートはココナッツ香る胡麻団子。宴会で頼むと未知の味がいろいろ出てくる幸せ。
さらに追加。前回の美味さが忘れられず、伊府麺を注文。海老の卵がたっぷり掛かっていて、これまた旨味の玉手箱で
はー、また幸せな南粤美食なのでした。この店、全体的にインスタ映えとは無縁だけど、地味な見た目のものがいちいちとんでもなく美味くて、幸せなのです…。
老板にすべてお任せ、という気持ちで、お財布に若干の余裕を持たせて行きたいお店(出てくるもののクオリティからしたら断然安いけど所謂「安い」ではない)
一部メンバーが残り、前から気になっていた店へ
中華街『美楽一杯』は雑居ビルの4階でちょっと躊躇するけどフレンドリーで、お酒も料理も安くて。
実はかなり本格的で面白い中華が出てきて、しかも、夜の早い中華街で深夜2時までやっている、居酒屋使いに大変便利な店。これは重宝しそう。
ホルモンと高菜の炒め物、美味しかったな。
石川町の駅でみなさまを見送り、関内で降りて、日ノ出町の高架下に新しくオープンしたスペースを眺めつつ
幸せに帰宅したのでした