日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

2019年 展覧会ベスト10

本年もお世話になりました。毎年恒例、今年良かった展覧会、マイベスト10となります。去年今年あたり、少し以前よりも見た展覧会が減った…といいますが、生活環境の変化に伴い、趣味の比重の置きようも変わってきております。中国茶と美味しいごはんと中国関係の趣味の比重が高くなったというか。

それはそれで、時を経るごとに趣味の向きも変わりますので、前向きに捉えていきたいところですが、自転車に乗ったり泳いだりする時間が減ったのは、体重という形で予実に跳ね返ってきているので、その点は来年、なんとかせねばいけないと思っております…

以下、自分が見た中でのマイベストなので、見逃し見落としだらけですし、その点はご承知おき願います。

 

1.国立新美術館『イケムラレイコ 土と星 Our Planet』

地平線と涅槃が繋がり輪廻していて、そこから抜け出た先に世界がある。歩を進め、振り向き、振り返り、その度にハッとするような空間構成は非常に見事で、そこに静かに佇む作品達。イケムラレイコ世界に漂い続けるような時間だった。

池袋『大滬邨』、『イケムラレイコ 土と星』、池尻大橋『ラトリエモトゾー』、三軒茶屋『香辣里』『蜷尾家』 - 日毎に敵と懶惰に戦う


2.埼玉県立近代美術館『インポッシブル・アーキテクチャー』

第三インターナショナル記念塔にはじまり、様々な未成の建築の図面や理念を見ることで、人々の建築に託す思いを見る展覧会。なのだが、その印象が、最後の部屋、新国立競技場のザハ案の部屋ですべて塗り替わる。いや、この部屋のためにそれまでの展示はあった。建てることが出来たのに建たなかった建築。キャプションに、並んだ膨大な図面に、申請書類に、部屋中に溢れる悔しさ。こんな主張と想いに溢れた展覧会があったろうか。

キャプションが怨念の塊みたいで、押し殺そうともしない悔しさに溢れているし、防災や構造含め各所から示された認定書がすごい圧で並んでいるし、膨大なページから選ばれて展示されてる図面は、かの、問題の、キールアーチのコンセプトという。構造模型もキールアーチの構造に関するものだし。

そして最後には、山口晃会田誠による、首都高の上を跨ぐ日本橋が提示され、5000億円掛ける地下化案に何の意味ありや?と問い質すのだ。インポッシブル・アーキテクチャーとは何がインポッシブルであるか。会場全体を通じて、熱い想いに溢れた展覧会。

埼玉県立近代美術館『インポッシブル・アーキテクチャー展』と西川口 - 日毎に敵と懶惰に戦う

 

3.京都国立博物館『京博寄託の名宝』

雑然とした常設の隅にさりげなく国宝が積まれていた昔の京博の雰囲気が、4Kリマスター版で帰ってきました、という感じ。常設展価格であらゆる企画展を吹き飛ばす作品群の圧力、そしてなりより、物凄く空いてる!お宝独占の連続!

京都で開催されるICOM京都大会開催記念で、京都国立博物館に近畿の寺社から寄託されている作品を並べてみました、という企画なんだけど、世界中から美術館博物館関係者が集まる機会に本気のプレゼンをしてきました。並ぶ作品のクオリティの異様な高さも、作品展示に寄せるストーリーも、ガチで、本物だった。

https://twitter.com/zaikabou/status/1167421543212711936

 

4.千葉市美術館『目 非常にはっきりとわからない』

たとえて言うなれば、5000円と聞いたけど確認したら5000円じゃなかったから5000円じゃなかったよと言ったら5000円だよ確認してみなよと言われて確認したら5000円だった、みたいな展覧会だった。

千葉市美術館『目 非常にはっきりとわからない』、エリックサウスマサラダイナーの2019冬のモダンインディアンコース - 日毎に敵と懶惰に戦う


5.東京国立近代美術館『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』

キービジュアルがマティスだったのでそのつもりで行ったら、いろんな意味で想定外で、充実していて、そしてとても楽しい展覧会だった。なんだろうな、「チームラボではない、多くの人に訴求し得る、アートの魅力」の可能性が感じられたのだ。

東京国立近代美術館『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』を見る - 日毎に敵と懶惰に戦う

 

6.国立民族学博物館『驚異と怪異』

人がいかに異形を想像し創造してきたか、会場いっぱいに世界中の人魚や龍や怪鳥や様々な造形が坩堝に放り込まれ、人魚のミイラが並び、人間の畏怖や想像力がぐるぐると渦巻いていた。とにかく濃密で、ギリギリ間に合って見にきて良かった展覧会。

国立民族学博物館『驚異と怪異』 - 日毎に敵と懶惰に戦う

 

7.横浜美術館『原三渓の美術』

東博、京博、九博、東近美、細見、MIHO、MOA、五島、出光、根津、大和文華館、畠山、サントリー…いわゆるお金も権威もある系の日本中の美術館博物館から、集めに集めたりな名品。これ、全部原三溪が持ってたの?という驚き。

多少なりともコレクター精神ヲタク精神持ってる人間からしたら、羨ましくて鼻血出して憤死モノになってしまう要素が詰め込まれた展覧会だった。

横浜美術館『原三溪の美術』と宮川町『椿』 - 日毎に敵と懶惰に戦う


8.国立西洋美術館ルーベンス展』

画面のこってりした絵画に囲まれる部屋がいくつも続き、正直胸焼けするくらいの満足感。うわぁ、すごぃ…すごくてすごい…という言葉しか出てこない。この圧倒される感じ、「本物のルーベンスだよ…」とネロでなくても思わず言葉が漏れてしまった。

やんごとなきルーベンス展と、羊香味坊 - 日毎に敵と懶惰に戦う

 

9.東京国立博物館顔真卿

陳列された作品と、詰め掛けている客層と、両方から、中国の人々の、書、文字、というものに対する凄まじい情熱にあてられてしまうような展覧会。

顔真卿展を名乗りながら、王羲之から虞世南欧陽詢褚遂良を経て顔真卿、そして後代に至る、いまある書の形を作った系譜の作品、それも極品がてんこ盛りに展示されている素晴らしい展覧会だった。

中国の書の展覧会決定版、東京国立博物館『顔真卿』と、フクナガのイチゴパフェ - 日毎に敵と懶惰に戦う

 

10.国立国際美術館『クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime』

一言で言えば、密度。代表作が息つく間無く次々現れ、心臓音と鯨への呼びかけと風鈴が混ざり合い、すべての作品の印象が展示空間全体で渾然一体となる。混乱と不安が不審から、没入、そして作品世界に融け入る。かつてない体験。

東京でも見たが、印象としては濃密さと混沌さで大阪のほうが好きだった。

国立国際美術館『クリスチャン・ボルタンスキー[Lifetime]』 - 日毎に敵と懶惰に戦う

 

個人的に、芸術祭と常設展は順位に入れないことにしてるからこのマイベスト10ですが、いちばん感動したのは豊島美術館であったし、いちばん展覧会前後を含めて考える時間が長かったのがあいちトリエンナーレ2019であったし。

最終日に駆け足で巡るあいちトリエンナーレ2019 - 日毎に敵と懶惰に戦う

あいちトリエンナーレで「表現の不自由展・その後」を見てきた - 日毎に敵と懶惰に戦う

いちばん生活に影響が大きかったのが、器の購入的な意味で、大倉陶園創立100周年展でありました。

赤レンガ倉庫のカレー音楽イベント、オールドオークラの良きものを持つのこと - 日毎に敵と懶惰に戦う

そして、他の人が挙げているマイベストなどを見ていると、あれもこれもよかったな…と思い出すのです。遊びの流儀、塩田千春、コートールド、高畑勲大竹伸朗、へそまがり、ウィーングラフィック、奇想の系譜、正倉院展、そして、横浜美術館の開館30周年展…。

横浜美術館開館30周年記念式典と『Meet the Collection アートと人と、美術館』、今季初浜スタ - 日毎に敵と懶惰に戦う

海外だと北京と台北故宮に両方行けたのも良かったし…おおそうだ、旗袍(チャイナドレス)に関する展覧会も、今年の生活や考え方に大いに影響を与えました

横浜ユーラシア文化館『装いの横浜チャイナタウン』と連休の中華街 - 日毎に敵と懶惰に戦う

「装いのチャイナタウンー華僑女性の服飾史」関連講演会へ - 日毎に敵と懶惰に戦う

Twitterはもはや、美術クラスタというよりも、中国クラスタ、食クラスタ的に認識されているのではないか、という感すらありますね…ブログでいちばん反応があったのも、中国関係の話だったし

日本人観光客、中国(大陸)に行かない問題 - 日毎に敵と懶惰に戦う

日本人観光客、中国(大陸)に行かない問題、いただいたコメントへの見解 - 日毎に敵と懶惰に戦う

日本人観光客、中国(大陸)に行かない問題、さいごに - 日毎に敵と懶惰に戦う

広州汕頭深圳の旅の記事を書きました。あと、日本人観光客、中国(大陸)に行かない問題について - 日毎に敵と懶惰に戦う

 

これからも趣味の向く方向はいろいろ変遷していくと思いますし、年明けにロンドンに行くので、それもまた何か影響あるかもしれません。引き続き、お引き立てのほど、よろしくお願いいたします。

 

 

去年までのマイベストはこちらとなります。

2018年 展覧会ベスト10 - 日毎に敵と懶惰に戦う 

2017年 展覧会ベスト10 - 日毎に敵と懶惰に戦う

2016年 展覧会ベスト10 - 日毎に敵と懶惰に戦う

2015年 展覧会ベスト10 - 日毎に敵と懶惰に戦う

2014年 展覧会ベスト10 - 日毎に敵と懶惰に戦う

2013年 展覧会ベスト10 - 日毎に敵と懶惰に戦う

2012年 展覧会ベスト10 - 日毎に敵と懶惰に戦う

2011年 展覧会ベスト10 - 日毎に敵と懶惰に戦う