日毎に敵と懶惰に戦う

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東京国立近代美術館『映画をめぐる美術』『MOMAT コレクション』『地震のあとで―東北を思う3』

東京国立近代美術館の展示内容ががっつり濃いのでご紹介しておきたい

まずは特別展の『映画をめぐる美術―マルセル・ブロータースから始める』

ベルギーの芸術家ブロータースの実験的映画が5つ、キュラキュラとフィルム上映される部屋を中心に、6つの通路の先へ11人の作品を見つつ、戻りつ、の構成。じっくり見る映像作品が多いので、鑑賞にはかなりの時間がかかる。しかし見る価値のある映像が多い。“映画を読む”がテーマになっており、個人の体験と事件・出来事が、映像という手法を媒介に融合したり、歪められたり、じっくり見て考え込む、まさに映像を読み込む、そんな作品が多く展示されている。はっきり言って、面白いけど疲れる。
以前、京都でも展覧会を見ており

『映画をめぐる美術』という展覧会、映画映像作品に関連した美術の展示であり、当然、映像作品も多めにありつつ、いろいろ、でありまして。マルセル・ブロータースの、なにやら断片的な映像がカラカラと複数な投影機から映し出される、ウテナとかああいう方面のスタイリッシュ大好きな方にはたまらない感じの展示空間からはじまり。女優の写真、スクリーンの写真、なんだかよくわからない、頭の中が???となりながら見ていくのだけれど…。
田中功起の空間、そしてアンリ・サラの、アルバニアの内紛に題材をとった作品を見るあたりから、頭の中の???が、徐々に!!!に変わっていく、そう、快感。何かがかっちり、頭の中でつながっていく感じ。京近美発で椿昇、ウィリアムケントリッジ、マイ・フェイバリット展などなど、とても刺激的な展覧会が次々に開催されたあの興奮を彷彿とさせるワクワク。
映像の批評性、静かに回る沢山のフィルム、田中功起やなぎみわにミン・ウォン、アルバニアの内紛にアメリカの銀行強盗に重信房子、散乱するフィルムと書籍、権力の表徴としての風景、アフリカの亡霊、イメージ、メタな映像、氾濫するイメージ、イメージ、イメージ!ほんと、今年は魅力的な展覧会が多いけど、現代に限ればNo.1じゃないでしょうか、とおもったのであります。来年には東京にも巡回するし、これはもう一回見ておきたいですね。
京都国立近代美術館『映画をめぐる美術』と、月と酒 - 日毎に敵と懶惰に戦う

と記載しているのだけれど、読んでいただけばわかるとおり京都では最初にブロータースのフィルムが上映される空間があり、それから各作品が順番に続くので、ブロータースがたんにプロローグ的な扱いであまり印象に残らなかった。今回の東京では、行きつ戻りつ…という構成にすることで、展示の意図がよりわかりやすくなっている。
個別に見ていくと、アンリ・サラの“インテルヴィスタ”は、アルバニア労働党の空疎な熱狂と、インタヴューを受ける母親の映像の発見を媒介に、当時の関係者に会って話をきいたり、音の無い映像から読唇術で言葉を拾って母親に見せて、私はこんなこと言っているの?単語の羅列でまるで意味をなしてないじゃない!と驚愕していたり…。まるで『ゆきゆきて、神軍』的に蘇る過去、捻れた記憶、大変面白い。
エリック・ボードレールによるドキュメンタリーフフィルム“重信房子、メイ、足立正生のアナバシス、そして映像のない27年間”では、日本赤軍をめぐるドロッとした過去が蘇り、“略称・連続射殺魔”が映し出す“犯人視点の”日本の風景が醸し出す疎外感。重信房子のそれと合わせて、意識される異邦人の視点。
ビエール・ユイグ“第三の記憶”は、実際に起きた銀行強盗事件と、それを元にした映画『狼たちの午後』と、そして、犯人自身による再現映像(つまり、第三の記憶)、セットの中で犯人自身が指揮しながらの再現風景に混ざる映画、微妙に改変されていく記憶、事実が虚実ない交ぜになっていく不思議な感覚
ほかにも、やなぎみわの“グロリア&レオン”は女子学生による演劇のメタ的風景、田中功起の最近のプロジェクト、アイザック・ジュリアン“アフリカの亡霊”も妙に不穏だったり、見飽きない展覧会だった。とにかく京都展と会場構成が相当異なっており、東京のほうが狙い通りなのかなと思うので、京都で見ていてもこちらも見てほしいのだった。しっかり見ると3〜4時間くらい、さっと見ても2時間くらいはみておいたほうがいいかも…。関連してこの記事もどうぞ
二階堂ふみと行くアートの世界『映画をめぐる美術』展 - 連載・コラム : CINRA.NET
京都国立近代美術館『映画をめぐる美術』アーティスト・トーク田中功起についての感想の一部 - Togetterまとめ
さて、MOMATコレクションである。
展覧会情報所蔵作品展  「MOMAT コレクション」
凄い、メッセージ性がどんどん強くなるな!いきなり関東大震災からはじまり、時勢への抵抗としての眠り、動物となり組のアニメ、1943-1947で変遷する表現、戦後の反動とそれへの抵抗、科学技術信奉と原発事故、アメリカの影…おそらく、今回も3、4階の『何かがおこってる:1923、1945、そして』は鈴木勝雄さんのキュレーションだと思うんだけど、あの『実験場1950s』以降、変奏しながら続く『何かがおこってる』で、今の政治情勢に警告を発するように強いメッセージを発信し続けていて、いいぞもっとやれと思いつつ、いろいろ大丈夫なのか心配になるほど。
亀倉雄策のポスター『原子エネルギーを平和産業に!』『東京オリンピック』『札幌オリンピック』が並べて展示されているあたり、おおぅ…としびれてしまった

鈴木勝雄さんキュレーションの展覧会についての以前の記事はこちら
国立近代美術館『沖縄・プリズム 1872-2008』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
東京国立近代美術館『美術にぶるっ!』展がいろんな意味ですごい - 日毎に敵と懶惰に戦う
東京国立近代美術館『ジョセフ・クーデルカ展』と『何かがおこってる:1907-1945の軌跡』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
コレクション展についてはこんなまとめもどうぞ
コレクションを巡って - Togetterまとめ
鈴木勝雄さんのこんな文章もどうぞ
《不在の類型学 日本における概念的な芸術の系譜》(PDF)
さてコレクションとして個別の作品で見ていくと、ハイライトのコーナーにあった鏑木清方の明治風俗十二ヶ月がまた素晴らしいし

松本竣介のY市の橋

靉光の自画像、山下菊二のあけぼの村物語

横山操の塔

など、何度も見ている好きなものも嬉しかったけど、はじめて、では、川端龍子の“新樹の曲”が良かった。デザイン性が卓抜している

そして、映像のコーナーも見どころ。岩波映画『日本発見シリーズ 長崎県』には、1960年代初頭、最盛期の端島軍艦島)の生活がかなり長尺で出てくるし
『安全な』軍艦島への旅は、それでも行く価値がある - 日毎に敵と懶惰に戦う
他にも同時期の造船所、李承晩ラインを巡る攻防、佐世保の米軍基地、大村入国者収容所などが活写されている貴重映像なのだ。2階に降りてくると、だいぶん落ち着いた感じになりますが

ここで行われている小企画『地震のあとで:東北を思う3』も、チンポムと藤井光と宮本隆司の震災、津波原発事故関係の映像どっさりだし、しっかり見ているとめちゃくちゃ内容濃くて重くてグッタリなのだった…。とにかく今回の東京国立近代美術館、3時間半以上いたけど、まったく消化しきれず、これは1日仕事だな…と思ったわけです。時間に余裕をもって、行くことをお勧めしたい次第であります。