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箱根の新名所、巨大な岡田美術館へ


東京から身近で多くの人が訪れる観光地、箱根と伊豆。どちらにも多くの観光施設、美術館などがあるんだけれど、伊豆のほうは美術館とは名ばかりの…うーんガッカリ…みたいな施設が多い。オーナーが趣味で集めた小物並べただけじゃないか、みたいなの。一方で、箱根にはポーラ美術館、彫刻の森美術館、ラリック美術館…などなど、規模も内容もしっかりした美術館が多い。やはり箱根は国立公園の中なので、いい加減なものは早々できないわけですね。
そんな箱根で、しばらく前からなんかすごいのができるらしいぞ…と噂されていたものがありまして
「パチンコ王・岡田」が作る美術館:日経ビジネスオンライン
それが、岡田美術館なんでありますよ


岡田美術館 OKADA MUSEUM OF ART
パチンコ・スロット機器製造のアルゼ…今はユニバーサルエンターテインメント、その創業者である岡田和生氏の名を冠した美術館は、氏の蒐集した日本美術の名作を集めて、日本最大級の民間美術館として昨年の10月に小涌谷にオープン。多感な青少年に数えきれないトラウマを植え付けて、俺たちの魂の救済はどうしてくれるねん…と終わった、かの『新世紀エヴァンゲリオン』のですね、今回の新作映画シリーズが作られるに至ったのも、パチンコあればこそですからね。パチンコマネーすごいんすよ…。
そしてこの美術館、金に飽かせて攫まされた碌でもないものが並んでるんじゃないの…みたいな心配がいらんわけです。館長が小林忠氏という…
小林忠 - Wikipedia
この世界では知らぬ者の無い美術史家の人が館長として作品の選定から購入から凄腕をふるってるわけであり。日本の古美術、皇族華族寺社大財閥をルーツに老舗博物館美術館財団宗教法人、一定の納まるべきところに収まっているものが多い一方で、個人所有であったり、栄枯盛衰の企業所有であったり、漂泊流転する作品もまた多いわけでして、そういうものがですね、ここ岡田美術館に辿り着き、え、あれがここにあったの!みたいな、お宝がざっくざっく、いまだに全容が見えない…という美の殿堂になっているわけです。
岡田美術館 - Wikipedia
最近、注目を浚ったのが、喜多川歌麿の深川の雪。
再発見 歌麿「深川の雪」 | 展覧会 | 岡田美術館|岡田美術館 OKADA MUSEUM OF ART
喜多川歌麿の最高傑作とも言われた幻の肉筆浮世絵の超大作、それが発見され岡田美術館の所蔵となり、公開されたときは多くの人が美術館に押し寄せていました(今現在は展示されていません)
【喜多川歌麿】幻の肉筆浮世絵「深川の雪」再発見!!ツイッターの反応は?【66年ぶりに一般公開】 - NAVER まとめ
さてこの美術館、けっこう特徴的な点があり、まずもって面白いな、というのがこのエントランス

美術館の入り口、というか、空港のゲート?みたいな入口。写真撮影禁止の美術館は数多かれどここは徹底していて、カメラや通信機器の持ち込みは一切禁止、荷物は全部預けてください、ということで、入口にX線検査装置まである!ま、カメラは全部預ける、というと、直島の地中美術館もそうだけどね。そして美術館の中、展示室に入ると(これ以降、内部の写真は、許可をいただいて撮影しています)


各フロアごと、自動扉の向こうにある展示室は黒を基調にしたかなり照度が落とされた空間になっており、展示品はすべて展示ケースの中、露出展示は一切ない。その結果、何ができたか。写真を撮影したり作品に触ってしまったりするようなお客さんを“監視”する必要がなくなった結果、監視員がほぼ皆無の静かな展示空間をつくることができるわけ。もちろん、監視員のコスト削減という美術館側の事情もあると思うけど、視線を気にせずに静かにゆっくり、存分に作品と向き合うことができる空間になる、というのはなかなか得難い体験だな、と思ったわけです。また、




各フロアごとに内部の間仕切りの仕方にバリエーションを持たせた上で、壁を可動にはせず、可動式の展示ケースも最低限にしてるんですが、もう一つの注目点はそのディスプレイなどの解説文字。

日本語、中国語、ハングル、英語の四か国語表示がかなり徹底していて、ところどころに設置されている展示解説も

すべて四か国語表示であり、詳細説明などもきちんと四か国語出るんですよね

美術館のサイトに至っては、繁體字と簡体字が両方用意されている徹底ぶり。こういうところ含めて、明確なコンセプトが貫かれている美術館だな、という印象を受けました。さてちょっと戻って、さっきの空港ゲートみたいな入口を通り過ぎると、目の前、というか目の前上方にどーん、と拡がるのがこれ

俵屋宗達の『風神雷神図屏風』をモチーフにした、縦12m、横30mの巨大な大壁画は、75cm四方の640枚の金地パネルに描かれた福井江太郎の「風・刻(とき)」という作品。表から見るとすごい

現在、開館1周年を記念した『大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち』という企画展を開催中でありまして
展覧会 | 岡田美術館
34年ぶりに公開される速水御舟「木蓮(春園麗華)」は不思議な雰囲気を持った作品で、かの「炎舞」と同時期に描かれたものとか

速水御舟菱田春草・下村観山・川合玉堂の紅葉がずらりと並ぶのも壮観

その菱田春草もよい作品がずらっと並んでいて、これ、国立近代美術館でちょうど回顧展をやっていますが、美術館の人がもっと以前に見ていたら、えっ、こんなのここにあったの…貸してほしかった…みたいに思ったのではないかと…いやまあこれは想像ですが、なんだかそう思わせるほど、ここの岡田美術館には底知れなさがある。橋本雅邦や下村観山、小林古径など、見ごたえありました

あ、あと、横山大観の横9mに及ぶ大作、「霊峰一文字」も展示されてます。企画展示以外のフロアも見どころモリモリで、酒井抱一『月に秋草図屏風』とか、伊藤若冲六歌仙図屏風』はかわいいし、向こうがすけるほどの明時代の『青花花唐草文碗』は似たものが最近20億円で落札されたとか、これは旧家にあったものを10年越しで口説き落として売ってもらったもので…とか、重要文化財の仏像はいったいどういうルートで…とか、豪華絢爛であるとともになんだかいろいろと、謎も尽きない(笑)美術館なのであります。5フロアに展示作品たっぷり。コレクションの、ごくいちぶ、は、こちらでも見られます
コレクション | 岡田美術館
さて、作品を楽しんで外に出てくると、あの風神雷神を真正面に据えて、足湯がある(笑)


風神雷神をみながら、ソフトクリームをたべつつ、足湯だけでものんびり浸かるとすっきり疲れが取れる感じがしますな

また、建物の裏には広い庭園もあるんですが

その庭園に向かう場所に昭和初期の日本家屋を改装したカフェ『開化亭』があって、これがなかなか、落ち着けるよい場所。美術館に入場しなくてもごはんかお茶だけでも来れるけれど、わりと箱根の穴場的なとこだすよ…



奥まった場所であんまり知られてないので、すごく空いてるのよ…。でも雰囲気はすごくいいし

この部屋、床の間から掛け軸の空間に穴がぽっこり空いていて、庭を借景にできる面白い仕掛けもある

あっ、それから、最近はどこも力を入れるミュージアムショップですが、ここはあまり…(笑)

美術館の建物はどかーん、とすごいのに、ミュージアムショップは端っこにぽつねんと、場末の観光地のそれみたいなプレハブ小屋でして…。どうもその、創業者オーナーが、そういうのいらないやん、と言ったとか言わないとか…。でも、失恋ショコラティエの最終回に登場した『失恋チョコレートバー』を売ってたり、なんか不思議な方面から力が入ったりしております。

こういうところ含めて、ポリシーが非常に明確である…というか、そもそも入場料2800円というところからして、足湯に入れるとはいえ、かなり高い。観光地だから、とふらっと立ち寄れるという価格的にはちょっと心理的障壁がある。なので、箱根にあるとはいえ、美術館で作品が見たいぞ!という人にちゃんとしっかりじっくり見てほしい美術館なんだなあ、と思ったわけです。美術好きの人がしっかりじっくり見るのには、けっして高すぎるお値段ではないように思う。足湯込みで(笑)