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国立国際美術館『ヴォルフガング・ティルマンス』『他人の時間』


B2階【コレクション1】 | 現在の展覧会 | 展覧会 | NMAO:国立国際美術館
国立国際美術館ヴォルフガング・ティルマンス」展を見る。ティルマンスというと、様々なサイズのプリントが壁を埋めるような展示が想起されるが、今回の展覧会は美術館の地下2階全体を使い、平面に様々なモチーフが並ぶ形態も含めて、大規模、かつ多様な内容だった。巡回せずに、国立国際美術館だけの開催。
ティルマンスの写真は、様々な国の街角、人々からはじまり、多種多様な題材に富んでいる。例えば展覧会準備のために日本に来てから撮影したものだろうか、SEALDsの活動に関するものもあり、あるいは昨今のニュースを素材としたものもある。しかしそれらから受ける印象、テーマは一貫しているように思う。まずなによりも自由の希求であり、展覧会タイトル『Your Body is Yours』にもある通り、私が私であること、である。
ティルマンスが写し出す、街角の何気無い風景や人々の振る舞い、運動や社会問題、断片的なそれらを見るうちに、私は世界中の街角を…その断片の裏に潜むドラマに想いを馳せながら、旅する自分を幻視する。現代のドラマはポートレートや大きな物語にだけではなく、あらゆる街角の断片に偏在している。道端に転がったゴミ、会議室の隅の電話機、ショッピングモールの注意書き、荷物を積み降ろしているトラック、それらが、私をどこかへと誘っている。
ティルマンスが昨年のヴェネチアで発表した《ブック・フォー・アーキテクツ(建築家のための本)》はまさに、あらゆる街角の断片から社会問題を突きつけてくる内容だった。2つのスクリーンに次々に映し出される画像は、豪華な公共建築物から家並み、公衆トイレ、ホームレス避けのオブジェ、などなど、ありたあらゆる、社会を構成する建築デザインと記号の素材に溢れていた。
いずれにしてもティルマンスの展覧会、処理しきれないくらいの膨大な情報量と対峙しながら、様々な問題を意識しつつ、しかし自由な心の翼を得たような、世界中の広さと深さを、より実感したくなるような、とても素敵な展覧会だった。若い人が目立ち、国籍問わず、よくお客さんが入っていた。ティルマンスの展覧会をよく見ているひとなら、比較的既視感のある内容なのかもしれないが、自分はこれほどの規模で見るのははじめてだったので、とても良かったのです。

B3階【クレオパトラとエジプトの王妃展】 | 現在の展覧会 | 展覧会 | NMAO:国立国際美術館
フロアをもうひとつ降りた地下3階で開催されている『他人の時間』は、東京都現代美術館からの巡回。アジア太平洋地域の若手アーティストを紹介する内容で、このあとシンガポールとオーストラリアにも巡回するが、場所毎に若干内容が異なり、国立国際美術館でのものがいちばん規模が大きくなっているという。約20組のアーティスト。
全体を通じての感想はなかなか難しいが、個別には印象に残る作品がいくつもある。以前に森美術館の小企画でも映像作品が紹介されていたホー・ツーニェン『名のない人』は、ベトナムでWW2前後の時期に活躍した、ある実在の歴史的人物を、トニー・ レオンの主演作品を繋ぎ合わせた映像にナレーションを被せて語っていく、とても興味深い内容だった。
ざっと見ていくと、ヒーメン・チョン『カレンダー』、バスィール・マハムード『つくりもの』、サレ・フセイン『アラブ党』などなど、どうも作品としての“売れ線”の強度と完成度はあまり持っていない感じだが、心に引っ掛かりを残すような作品、楔を打ち込んでいくような作品が多かった。この若手ばかりの中に、唐突に河原温が紛れ込んでいる不思議感もあるのだが…。加藤翼や下道基行も良い仕事。
何か心にグッときたのは、ソウル明洞でのある運動をメロディに乗せて静かな連帯を呼びかける、イム・ミヌク『国際呼び出し周波数』と、沖縄のとある島の歴史を、友人Yの語りで抉り出すミヤギフトシ『The Ocean View Resort』の2つ。いずれも静かな映像なのだが、訴えかける力強さに満ちている。
会場に置かれている国立国際美術館ニュース208号に、ミヤギフトシが、東京都現代美術館での設営でイム・ミヌクの作品に触れ、そこから『インターナショナル』のこと、中学生時代に学校を訪れた大工哲弘のこと、そして、自身の作品に深く関わる友人Yのこと…波の音と口笛のこと、想いを馳せる文を寄せている。これは是非、展覧会を見た後で読んだほうがいいと思う。
ヴォルフガング・ティルマンス』『他人の時間』が同じ会場で行われていて、一緒に見ることができるというのは、とても面白いことだと思う。セットにすると割引になるので、両方、見て欲しいと思う。展覧会は、いずれも9月23日まで