日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

Twitterの癖は強いが店はフレンドリーで素晴らしい大衆酒場『かどや向島』

ことしの6月、豚の内臓の生食が禁止された時、Twitterで大変話題に…というか炎上していたお店がありまして

それに対するはてなブックマークの対応
はてなブックマーク - かどや向島(本店)さんはTwitterを使っています: "今日をもって下級労働者の「食文化」豚レバ刺を含むすべての豚肉の生食が国家統制により禁止されます。個人経営の小さなもつ焼き屋や
豚の内臓が危険か安全かと言われれば、厚労省が禁止が妥当と判断する程度には明らかに危険である。そして、生で食べる文化が昔から日本にあったかと言えば、普通に言えば無い。…そう、普通に言えば無いが、東京の下町の一部において、文化…というよりも習慣があったかなかったかと言われれば、それはそれであったのである。このあたりは、エンテツさんのブログも読んでいただきたいのだが…
豚レバ刺し問題。: ザ大衆食つまみぐい
豚レバ刺し問題、もう一度。: ザ大衆食つまみぐい
「モツ煮狂い」と「川の東京学」。: ザ大衆食つまみぐい
例えば、例えばであるけれど。牛レバーがチェーンの焼肉店で普通に提供されるようなことはなく、子供や高齢者も食べるようなことはなく、そして北陸でのあの事件が起きることがなく、牛レバーが禁止されることがなく、代替品として相対的に考えてさらに危険な豚のレバーがあちこちで供されることがなく、豚のレバーに起因する様々な問題が起きることがなかったとすれば…豚の内臓の生食はあえて規制されていただろうか?
そのような事件に関係なく、時代の変化と衛生意識の変化に伴って禁止されていたかもしれない。内臓の生食のほうから販売される場所を広げなくても、消費者のほうから近づく…つまり普通はその地域の人々以外は近寄らなかったような下町の大衆酒場、何か起きても食べたほうが自己責任とある程度納得していたような場所に若者や女性が訪れるようになり、その結果事件となって、内臓の生食は禁止されていたかもしれない。
それにしたってともかく、提供範囲が昔のままであったなら、敢えて豚肉の内臓の生食は禁止されていたのだろうか?そういうことを夢想しないではないし、『かどや向島』という、まさに下町ど真ん中で以前からやっている店にとっては忸怩たるものがあろうと。そこが時代の狭間であげる断末魔の悲鳴を無下に切って捨てるのは忍びない…とは、思うのであります。
さて、その後、このかどや向島Twitterをフォローしていたのだけれど、何事にも一家言を持ったその姿勢、日本酒に対する見解、獺祭のやり口に対する批判、その他その他、大変面白く読ませてもらっていて、時々アップされる食べ物や日本酒のメニューもきわめて魅惑的なのである。これは行ってみなければなるまい…と、訪れたのは土曜日の夕方6時

もっと雑然としているお店かと思ったら、存外きれいで、そしてギュウギュウ詰め、みたいな有様ではなく、結構余裕のある店内だった。最寄りの曳舟からも徒歩10分以上かかる場所で、立地はまったく便利とは言えない向島の元遊郭街。カウンターに座る。ちょっと怖いお店なのかと思ったけれど、店の人はおおむねフレンドリーで客あたりも良い。これは良さそう。
そして、目の前に広がるメニューの海である。カウンターの奥のメニューにしても

カウンターの上に張られたメニューにしても

どれもこれも安くて魅力的で、何を頼んだらいいか、目移りする。まずは生ビールの小(300円)を頼んでのどの渇きをいやして、お通しのマカロニサラダをつついて、すぐに日本酒に移行したい。だって、さっきから日本酒の魅力的なメニューが目の端をちらついているのだから…。
刺身の三点盛り500円に、お酒は新政グリーンラベル300円。お酒の盛りは6〜7勺くらいかな?

これ、新政グリーンラベルというのが肝でありまして。昨今、新政は意識の高い銘柄を都会向けにばんばん出しているわけでありますが
はてなブックマーク - 【東大卒エリート記者が指折りの日本酒蔵元に】「米も酵母も秋田産」「添加物一切ナシ」の酒造りに込めた美学~新政酒造・佐藤祐輔氏~ - リクナビNEXTジャーナル
根っからの酒好きの人たちの間では、ちょっと評価が違う人も多く、つまり、そんな意識の高い酒じゃなく、地元で買える酒のほうが美味い…相対的に美味いとは言わないけれど、お値段的にもそれで十分なんじゃないか、と、そういう意見も多い。このグリーンラベルはまさにそういうお酒で、昔ながらの三点張りのパッケージの良い日本酒なのである。三点張りについてはこのあたりもご参照ください
新潟の素敵なお店『ささ泉』 - 日毎に敵と懶惰に戦う
お刺身はどれも旨いし、蒸したウニのねっとりした旨さにうっとりである…そして岩ガキ300円、超巨大

日本酒のメニューをじっくり見て行きましょう

獺祭を350円で出しているのに強い意思を感じたり、いろいろと日本酒好きな人が見るとニヤニヤと楽しくなってくるメニュー。そして注目すべきが下段、由利正宗とか鷹一正宗とかでありまして、雪の茅舎とか、而今とか、本でも度々取り上げらような…日本酒バーで好んで出すようなお酒の蔵が、地元で出している普通酒を置いている。こういうのは普通は無いです。面白い。というわけで、鷹一正宗をいただきます

こういうのが、飲み飽きない、なんにでも合うお酒…。ピリ辛ホルモン和え250円が、いろんな部位がてんこ盛りでとても美味い。お店はだんだん賑わってきて、隣の人の頼んだ山盛りのハムカツ300円とか大変旨そうだけど、腹がいっぱいになりそう…。こちらは、タンの味噌漬け250円に、シャムロック400円といきましょう

このタンがいい具合に味噌に浸かっていて美味いし、そしてシャムロック!いろいろ攻めの姿勢が目立つ、秋田岩手の喜久盛酒造が出している、どくろマークのお酒。これは酸味のバランスが素晴らしく、うめえ…。同じ蔵の有名な『タクシードライバー』も450円でありました。今日は飲まなかったけどね。あと、本マグロの大トロ400円も頼んだけれど、高貴な脂身であった…うっとり

さらにさらに、スペック非公開の町田酒造350円と、やたらいい香りのする、鳥ハラミ塩焼き300円。これまた大変に結構でありました。とにかく何を頼んでも値段以上のレベルのお店であった。店の奥にモニタがあり、何を映しているのかな…と思ったらメニューのスライドショーで、不思議なところがハイテクな店だ。

とにかく、Twitterから受けた印象で怖い店かと思ったら、フレンドリーで入りやすい、そして美味い、しかしアチコチにビシバシと意志を感じる、面白い店だったのでありました。
かどや向島