日毎に敵と懶惰に戦う

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森美術館『六本木クロッシング2016 僕の身体、あなたの声』

森美術館の『六本木クロッシング2016展 僕の身体、あなたの声』を見に行ってきた

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この展覧会、森美術館の開館以来、3年に1度、日本のアートシーンを総覧する…と題して開かれている。今回は特に好きなアーティストが多く楽しみにしていたわけですね。そして今回でこの展覧会、5回目になる。そうか、森美術館、もう12年だか13年だか、そんなになるんだね…。

で、ですね、この展覧会、毎年、わりと好みの作品は並んでいるんだけれど、本当に脈略が無い感じで、全体とっ散らかっていて、感想に困る

第2回の感想をまともに書いてなかったので、代わりにこれを…

 今回の展覧会も、総体としてどうか、と言われると、なかなか感想に困る。個々の作品はとても良いものが多い。そして、さっと見て通り過ぎれるものではなくて、ひとつひとつ、じっくり見ていたい作品が多い。じっくり見ないとよくわかんないんものが多いんですよ。

そして、これは六本木で見てどうなのか、という違和感がある。いやこれは今回に限らずなのだけれど、これまでと比べても、これは黄金町のギャラリーとか、BankART Studio NYKあたりで見たほうがしっくりくるのではないか、という内容であって。もちろんこれが多くの人の目に触れる場所で展示されていることの良さもあるのだが、パッと見でなんらかのインパクトのある作品でないと、森美術館でやっていてもなんの印象も残さないのでは…という。

六本木クロッシング展については、以前、永瀬恭一氏が、第一回の全作品レビューと、第二回における決別宣言的なことを書いており、非常に興味深かった(読んでいて、そういえば、回転扉に子供が挟まれて亡くなった事故があったな…と思いだした)

というわけで、私も、展覧会総体としての感想に困るので、全点レビューを書こうと思う。思った。…のだけれど、あまり感想が無い作品もいろいろあるので、かいつまんで進みます。ご容赦。

なお、この展覧会については写真撮影が可能ですが、写真を掲載する場合は作者名と作品名を明記して『この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。』と宣言することになっていますので、よろしくお願いいたします。

お知らせ | 六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声 | 森美術館

 あと毎度のことですが、森美術館、作者と作品名が入ってる展示作品一覧くらい出してほしいよね…。なんで作らんのだろう。今回は、全アーティストと全作品の一覧がWebサイトには載ってるので、わかりやすいです…が、作品名は過去のものも多いので、ちょっとわからないので敢えて作品名は載せてません

出展アーティスト・作品紹介 | 六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声 | 森美術館

事前に、私のスタンスについてちょっと書いておきます。現代美術のグループ展は“私にとって”8割はつまらないものであって、それ以外のものの中に、どこか心に引っかかるものや、面白いものがある。時に、つよくつよく心震わされるものがある。

もちろん、作品個々の強度、質というものは、相当程度の客観性のあるものであろうし、であるからこそ、世間の評価や、ターナー賞をはじめとした各種の賞もある。ですが、個々人の鑑賞者にとって、その“何か感じる”ものは人それぞれであるのだと思います。そしてだからこそ、現代美術の展覧会で、すべての作品に対して、じっくり見て、なんらかの感想を持たなければいけないとは思わない。

響くものが無ければサッと通り過ぎれば良い。作品を鑑賞するリテラシーは必要と思いますよ、とりあえず作品を作品として受容するための最低限のリテラシー。しかしそれを持って臨んだ上で、なんだかよくわからない、響かないものは、あっさり通り過ぎて忘れてしまって構わない。そいうものも、無理に理解しようとしたり、楽しんだり、アーティストの意図を汲む必要は無い。

映画や演劇などのエンターテイメントと比べて、現代美術の展覧会は極めて打率が引くい。しかしその低い打率の中に、時として、既存のエンターテイメントでは味わえない、なにか想定外の心乱れるものが、あるときも、ある。だから展覧会に行くのがやめられないのだと思います。

(だからこそ、出来損ないのエンターテイメントのような現代美術展を見せられたときは腹が立ちます)

前フリが長くなりました。だから、美術評論家を稼業としているわけでもない私が、全点の感想を書きますというのは誠に不誠実不毛な試みでありまして、やる気がない記述は自分に響かなかった、というだけで、人によってはとても面白いかもしれない、ということなんであります。結局言い訳か

 

1.毛利悠子

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 日産アートアワード大賞など、最近絶好調の毛利悠子。今回の作品も、一連のモレモレなどと同じような大規模なピタゴラ・スイッチ的な作品なんですが、動きがあまりなくて、あんまり印象に残らない感じが…。かなり動きの連鎖が繊細なので、展示の意図としてこれでいいのか、会期末まで意図が保たれるのかどうか(途中で調整も入るのかな)も気になるところ。浅草のアサヒアートスクエアでの展示は、まさにこの、インスタレーションの再現性をテーマにしていましたね。

 

2.片山真理

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9歳の時に両肢を切断した片山真理。自信の身体を素材として、内面をドロリと見せるような刺繍の作品や、それらに囲まれた写真などが並ぶ。国立国際美術館『エッケ・ホモ展』での展示は、彼女の身体を機械とした小谷元彦の作品だった。いずれにしても自身の身体とどのように向かい合うか、常に向かい合う力強さを感じる作品。

 

3.石川竜一

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 沖縄で活躍する写真家。見る機会はなんどもあったはずなんですが、実は未見でした。たくさんのポートレートはともかく、テレビを積み上げたこのインスタレーションは、なんか、いかにも現代美術のインスタレーションです、風で、ちょっと、ありきたりで、どうなんでしょ

 

4.さわひらき

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さわひらき、大好きなアーティスト。BankARTで9年前に、幻想的な遊園地のような作品を見て以来、国立新美術館でのアーティストファイルでの大きな作品がすばらしかったし、大規模な個展も神奈川県民ホールギャラリー、オペラシティで開催されましたね。ある程度、さわひらきのイメージを形作ってきたような作品をやりつくして、近年の作品はより静かな、内省的なものになってきている。これが好きかと言われるとなんとも言いかねるけど、石田尚志もそうですが、リアルタイムで好きな作家の、こういう作品の変遷を見られることが幸せ。

 

5.山城大督

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万博とか行くと、企業のパビリオンで、よくわからない、イメージを詰め込んだインスタレーション的な何かを見せられることがよくありますが、ああいう感じでした。うーん。なんだろ、子供の声を使った演出が、自分が嫌いなだけかな…。好きな人は好きだと思います、こういうの

 

6.高山明

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2020年の東京オリンピックに向けて、東京の建築現場で働く外国人労働者に、ふるさとの神話や民話を語ってもらう表側と、1964年の東京オリンピック建築に関わった鳶の人などに話を聞く裏側。東京の現場で出身地のビルドに関わる神話を語っている、という違和感も興味深いんですが、伝説の鳶の人のキャラクターが立っていて、根本敬的文脈のイイ顔のおっさんで、そればかり見入ってしまいました…

 

7.野村和弘

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みんな、黙々とボタンを投げて、なんなんだろう、みたいな曖昧な顔をして去っていく作品。入り口には非常にご大層な能書きが書かれているんですが、やっていることは的をめがけてボタンを投げて、とくに何が起きるというわけでもなく、外の夜景がきれいだねー、みたいな感じで、去っていく。そういう、無意味さのようなものを表現している作品なのかもしれない。

 

8.ミヤギフトシ

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昨年、国立国際美術館『他人の時間』と、日産アートアワードで見ました。自分的に評価赤○急上昇なアーティスト。いろいろ展覧会を見ているようでも、知らない作家さん、たくさんいます。そういう出会いを求めるなら、もっとギャラリーも頻繁に行かないといけないとおもうんだけど、なかなかね…。この方の作品は、自身や友人の思い出と歴史の流れを丁寧に絡めて描くストーリーと、映像の作りこみが絶妙で、ほんとうに引き込まれる。今回は、同性愛をひとつのテーマにしている

 

9.後藤靖香

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祖父が特攻隊員であった経験から描かれた作品。森美術館の今の館長は南條さんですが、初代の館長、デヴィッド・エリオットが最初に東京ワンダーウォールで見て激賞したそうな。まず、大きいのが良い。タッチは漫画調なんだけど、ちまちまやらずに、とにかく大きいのは良いことだと思います。歴史画的なインパクトと力強さがあるんだけど、それがパーソナルな経験(祖父の思い出)を元にしてこのタッチで描かれているということに、面白さがあるんだと思う。ところであんまり関係ないんですが、後藤靖香さん、はてなダイアラーなんですね。

 

10.藤井光

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東京国立近代美術館の『東北を思う』で見た福島沿岸部の映像、そして、東京都現代美術館でのMOTアニュアル『キセイノセイキ』でみた、東京大空襲を巡る“無名のものたちの記憶”で空洞として作られた、ミュージアムという制度への疑問の投げかけ。今回の藤井光の作品は、日本の戦前の教育を海外からの目で撮影した映像と、何かしら、日本軍の行為が描かれたフィルムを見た韓国の学生によるパフォーマンス。いずれも、直接の当事者ではない、間接的で、もどかしい観察の様子を、さらに全体像がわからないままに見ている鑑賞者である私、という立場において、世代や視点差や記憶の問題に自覚的にならざるを得ない作品

 

11.佐々瞬

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東京都現代美術館でのMOTアニュアル『風が吹けば桶屋が儲かる』展における、作品世界と現実世界の境界の揺らぎ。そして昨年のギャラリーでの展示ではいちばん面白かった『とある発掘とリポート、その準備』の、歴史と虚実の重層的作品、自省しながら迷い込む一筋縄ではいかない作品の構造が印象的だった佐々瞬。今回は、花森安治の言葉から、われわれ、ではなく、わたしの、旗を掲げよと、ストレートな作品になっている。旗を集めた女性たちの言葉を丁寧に拾っているのが良い。旗を振っている場所に、野毛とか桜木町駅前とか、知ってる場所が沢山出てくるはご愛嬌

 

12.志村信裕

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この方も黄金町にいたり、横浜界隈でよく見かけたアーティスト。地域のアートイベントなどで映像作品を数多く発表しており、作品が映し出される場所の意味に極めて意識的で、わりとどんなところでも見せられる、足腰の強い人だと思う。その後、山口で活動しているとは知らなかった(今は、例の『新進芸術家海外研修制度』でパリに)。萩市で飼育されてき た在来牛「見島牛」を8mmで撮影した今回の作品は、これがよもや現代のことであるのか、まるで歴史的なフィルムであるかのようなザラっとした手触りで、しかしフィルムの向こうに吹いている風が感じられるような、静かな作品

 

13.百瀬文

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ミヤギフトシからここまで、扱うテーマは重い、映像ばっかり、あんまり興味が無くて入った人だと、よくわからないままにスルーするゾーンになってしまっている。私はもう、ずっと好きなアーティストばかり続くから嬉しいんだけど、それでも疲れる。どういう構成なんだこれ。しかし、とにかく百瀬文は良い。横浜美術館のギャラリーで見た、声優へのインタビュー映像と、その様子をアニメーションにした映像が並び、実写から、ハッと気がつくとアニメーションに『本体』が移っている、その鮮やかで緻密な編集が鳥肌ものだった。インタビューの内容がメタ的にも表現される不思議な感覚もあった。今回、百瀬文の2人の祖母が、互いについての感想を述べる映像なんだけれど、どちらが話しているのか、なんだか不思議な、不安なような感覚にずっと陥る。これはきちんと、イヤホンつけて、しっかり聞いて欲しい。お願いします。

 

14.ナイル・ケティング

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電球の発明を巡る裏の歴史をモチーフにした、とても大規模で多くの構成要素からなる、緻密で完成度の高い作品。舞台装置的でもあるかな。ちらばった作品に、意味が隠されている。ナイル・ケティングさんはパフォーマンスなどもやっている人らしい。4月16日から山本現代で個展もあるようなので、それも見てみたいと思った。

 

15.松川朋奈

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取材した人の身体の一部や所持品をモチーフに描かれた絵画は、たいへん、意味深なタイトルがついてまして、とても生々しいペイントで、現代を生きる女性の心の声がポエムな感じで作品になってます。絵画のリアルと意味深なタイトルによって、それを見ながら、いろいろ物語を想像してしまう。今回は六本木で働く女性に多く取材しているとのこと。あざといっちゃ、あざとい感じですが

 

16.西原尚

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ゴムで出来た黒い塊が、ブリンブリンいいながら、グルグルまわって、転がり落ちてくるだけの作品。非常に馬鹿馬鹿しいんだけれど、装置のつくりがイマイチなのかちゃんと動かずに、係員が常に横に立って面倒を見てやら無いといけない。世話のかかる無意味な機械。とにかくほんとうにバカバカしくて、見ていると動きを応援していたくなってくる…いちばん、笑えるのはこの作品かも

 

17.小林エリカ

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実は、この作品をちゃんと見てないのです。何かがはじまるのか、と待っていたんだけれど、なんとなくそのまま出てきてしまって、そのままになってしまった。ただ、周囲でこの展覧会を見た女性の間では、この作品がいちばん評判が良い。もう一度行って、ちゃんと見てこようと思う

 

18.ジュン・ヤン

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アラン・レネヒロシマ・モナムール』へのオマージュとして、広島を舞台にした映像作品。と、解説されている。うーん、すみません、これもちゃんと見てないんですよ…。20のうち、半分が、なんらかの映像作品という構成だと、だんだん疲れてしまう。あと、どこからはじまったどこで終わるのか、美術館では以前からの疑問である映像作品をどうやって上映するのか問題、こういうあたり、なんとかならんものでしょうか。

 

19.ジェイ・チュン & キュウ・タケキ・マエダ

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ある、美術的素養がとくにあったわけではない、一人の美術ファンが、ある時代の東京のギャラリーを巡り、撮影した貴重な記録を、再プリントして並べた作品。白い部屋に小さなプリントが並んでいるだけなので作品としては、?、となるんですが、この美術ファンの方を、とにかくやたらと展覧会に行っている自分と引き比べて、追体験するような気持ちで見ていました

 

20.長谷川愛

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文化庁メディア芸術祭でも見ました。遺伝子の研究から、女性同士の間に子供が出来るとどうなるか、そのような試みに対してどのような反応が起きるか、を真面目に考察する作品。モデルになっている牧村朝子、Morigaのお二人は、実際にフランスで同性婚をしている方。『僕の身体、あなたの声』という展覧会テーマの最後にあるのがふさわしいっちゃふさわしいのですが、作品そのもののは非常に興味深いものであるものの、やはり展覧会全体としてはよくわからない、というところです。

 …

…… 

というわけで、とにかく全作品について何らかのコメントを書いてみましたが、こういうのはやはり、気軽にやっちゃいかんと思いました…。とにかく、個々には面白い作品もあるんだけれど、映像作品が多すぎるし。全体を通じの感想といわれると困るし、六本木クロッシング、もう5回目ですが、今後もこういう感じなのかなあ…と思うわけであります。