日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

アートフェアを中心に、春の東京アート三昧

昨年に引き続き
http://d.hatena.ne.jp/zaikabou/20080403
今年も、森美術館の会員になっていたら、東京アートフェアの『VIPカード』なるものを貰えた

これを持っていると、アートフェアに一番最初に入場できたり、東京都現代美術館サントリー美術館森美術館に無料入場できたりするらしい。というわけで、アートフェア東京の内覧会があるこの日、お休みを取って、アートめぐりをしてきた。
足は東京メトロで。一日乗車券は通常710円なのだけれど、“都内66の美術館・博物館や動物園・水族園などの入場券または割引券がつづられた、便利でお得なチケットブック”『ぐるっとパス』2000円と、東京メトロの一日乗車券が2枚セットになって、2800円で買えるのですね。
http://www.tokyometro.jp/news/2009/2009-15.html
これはお得。どっちにしてもぐるっとパスは購入するつもりだったので、このお得なセットを渋谷駅で購入。さっそく、でかけましょう。

東京都現代美術館

最初は渋谷から清澄白河まで半蔵門線で。歩いて10分、東京都現代美術館

先日リニューアルオープンしたんだけれど、物凄く変わった、というわけではない。売店の位置が、これまであまり有効活用されてなかったと思われるギャラリーに移動して広くなっているのと、トイレに作品が…というくらいか

ほいで、今日からはじまった企画展が『池田亮司』の展覧会
+/- [ the infinite between 0 and 1 ] Ryoji Ikeda 池田亮司
実験音楽の第一人者…ということなんだけれども。今回の展示は、企画展示室の1階の大スペースをぶち抜いた映像作品と、地下2階の大スペースをぶち抜いた、スピーカーの組み合わせによる音の海がメイン。2階や、地下2階の天井の高い空間は使われておらず、ボリューム的にはちょっと見劣り、そして1階の映像作品も、どうにも懐かしい『うわあ、電子やあ〜』的なもので、イマイチ。
しかしながら、地下2階だ。靴も脱いで、2001年宇宙の旅のラストシーンを髣髴とさせる、床から天井から壁から白い空間に投げ出される。その浮遊感のある空間に5つの巨大なスピーカーが並べられ、互いに干渉しあう音の海の中に身をたゆたわせる、その体験は唯一無二だった。
それから収蔵品展示のほうも。リニューアル前と、それほどラインナップは変わっていないのかな。上の階は入り口入ったところの内海聖史が圧巻で、その奥は大竹伸朗大岩オスカール小林孝亘奈良美智名和晃平加藤泉加藤美佳とか。最近買いました、ってものが、どかどか並べられていた。『新収蔵品を中心に』という展示だそうなので。
最後の部屋は、宮島達男の作品は隠されていて、田中功起の映像作品…バラバラに置かれた7つのモニタが『なにげないこと』を延々と写し続ける作品が。まだ設置中です、と装ったかのような展示会場にはメモ書きが落ちていて、大竹伸朗の作品『ゴミ男』にまつわる重大な秘密がっ!確かにあれ、いつか擦り切れるんじゃないかと心配していたんだよな。その心配はなさそうです。

101TOKYO Contemporary Art Fair 2009

清澄白河に戻って、半蔵門線三越前、乗り換えて末広町。次に訪れたのは、アキバUDXで開催されているこれ
http://www.101tokyo.com/jp/
昨年は、旧練成中学校で開催されており。アートフェアに収まらないギャラリー、作家の作品をメインに…というコンセプトで、まるで学園祭のような雑然さでありながら、作品のクオリティは高いなあ、という印象だったのだけれど、今年はどうだろう。

今年は一時開催が危ぶまれていたらしいけれど(理由はシラナイ)、会場は昨年の倍の面積のアキバUDX。で、天井は高いし、昨年のような雑然さはなく、わりと整然としている。でねー、その整然とした空間にドローイングが多くて、イマイチ、去年のような勢いが無いような気がする…。小奇麗にまとまっている、というか。
それでも面白いものはいろいろあって、例えば沖縄のギャラリーが出展しており、藤本英明の色あせたような絵が、記憶の中の風景を描き出したような、不思議なドローイングで良かった。相川勝という人の作品。既成作品の、CDのジャケット、ライナーノーツ、そしてCD自体のデザイン、すべて模写した作品。そしてそのCDに実際に納められている音楽は、すべて本人肉声による、アルバム丸ごとの模写。楽器からなにからすべて模写。といっても、これがとっても下手糞。酷い。オリジナリティとは何かと考えるのも可であるし、単純にアホ音楽として笑うのも可かと。この会場では白眉だった。
CASHIのサガキケイタの作品とか、あと山崎龍一とか、良かったです。天野喜孝の作品展示しているギャラリーがあったな…。あと、これはギャラリー横断企画のスペース?にあった、武藤麻衣の『FAT』という映像作品、映像も音もひたすら生理的不快感を喚起して止まず、ちょっと中毒気味に見てしまいまいたよ。いやーん。
うーん、どうでしょう、去年はアートフェア東京のついでにこっちも是非、だったんだけれど、今年はそれほどでもないですね…。
この後、昼ご飯。ちょっと小川町方面まで歩き、久しぶりにまつやで蕎麦。混雑していても、オペレーションが相変わらず素晴らしい店。蕎麦も相変わらず美味い…んん、ん?香りが足りないような…。昼ご飯にもう一軒。さらに神保町方面まで歩いて、カロリーでカロリー焼き。おっちゃんの声が相変わらず素晴らしく、安心した。あれはバリトンかな?

サントリー美術館

御茶ノ水から乃木坂へ。
gallery ART UNLIMITED
へちょっと寄り、齋藤芽生の作品。国立新美術館のアーティストファイルにも出展していたけれど、ここでは、そこに展示されていない作品を15点ほど。この人のケレンは文学的素養が下敷きになっているんだけれど、あんまり解題されてもしらけちゃうかな、と思った。
そして東京ミッドタウン

桜はまだ3分〜5分咲き、なんだかんだと、寒さが戻って、今年は遅いね。サントリー美術館へ。ここも、件のVIPカードで入場可能だったので

開催中なのは、薩摩切子の展覧会。サントリー美術館が良いコレクションを持っており、今回はそれと合わせて、海外の美術館の所蔵品もかなり来ていた。
サントリー美術館
薩摩切子は、幕末頃、薩摩藩の財政を立て直すために、薬瓶からはじまった工芸品。美しい赤と繊細なカットが優美なのだけれど、とにかくこれは大名道具だなあ。一般人には到底手の届かないものだったんだろうな。赤も綺麗だけれど、透き通った薄緑もとても美しい。うっとり。
篤姫の嫁入り道具も薩摩切子でできており、雛道具の細かさにびっくり。小さな衝立を模した文鎮などの文具一式なんてものもあり、日本人て、昔っからこの手のミニチュア大好きだよね。実は海外製品なのに以前は薩摩で作られたものとされていました…とか、わりといい加減だった分類に苦笑したりしつつ、相変わらず空間構成がピカ一なサントリー美術館で薩摩切子を堪能したのでした。
さて、このカードで、『メンバーズ・サロン』も使えますよ、って書いてあったので、6階のサロンに行ってみました。

おお…、なんとも、居心地の良い空間。ミッドタウンの庭を見下ろして、座り心地の良さそうなソファが沢山置いてありますのことよ。そして、ドリンクはセルフサービスです、ってわけで、水とかウーロン茶とかオレンジジュースとか、あるいは紅茶などと一緒に、なんとネスプレッソマシンが!というわけで、いただきまいた

サントリーさん、優雅ですなあ。東京ミッドタウンは、全体的に六本木ヒルズみたいなガツガツギラギラが無いよね…。金持ち喧嘩せず、って感じで。ちょっと休憩して、ミッドタウンをあとにするのでした

シンワアートオークションなど

六本木から日比谷線に乗り、銀座へ。銀座の桜もこれから満開ですね

まず最初に、M.M.Poloさんが紹介していたギャラリーへ
ペッパーズギャラリーの彫刻展 - mmpoloの日記
以前もこのギャラリーは訪れているのだけれど、皮膚感覚をかく乱するような展示をよくしているな、と思う。アートフェアの時期しか来たことがないけれど、ちょくちょく訪れてみよう
そして、シンワアートの下見会。4月4日に、コンテンポラリー・アートのオークションがあり、その下見会が行われていたのだった
日本の近代美術をリードする シンワアートオークション
展示されていた作品の一覧は、上記から『オンラインカタログ』で見ることができる。李禹煥とか篠原有司男とかから、内海聖史とか三瀬夏ノ介とか鴻池朋子とか…去年見たときに比べるとやや寂しいラインナップながら、それなりの作品は出てきているのだけれど。ちょっと値段を見てびっくりした。例えば内海聖史の『三千世界』、5cm×5cmの48ピースからなる作品で、10万からとか(上記のカタログだと、LOT40)。小林孝亘も5万からとか…。
たしかに、その作家にしては小品と言うか、まあイマイチ…みたいなものの出品は多いのだけれど、それにしても安め。オークション会社の人に聞いてみたら、確かに落札率は落ちているとのこと。そして、オークションでこの値段よりも高くなることを前提で値付けしているけど、それにしてもお買い得ですよね、って言っていた。出品者もかなり弱気になっているんだろうな…。わざわざ、値段の付かないようなこの時期に、作品を出品せざるを得ない状況だと考えると。
思わず、オークションに参加するための登録をしてしまいまいた。いやまあ、落札はしないだろうけれど、俄然、どんなオークションになるのか興味が出てきまして。ちょっと、あ、この値段なら…みたいなものもあったりしたし。
そんなこんなで会場を出て、その後、ギャラリー小柳の内藤礼
Gallery Koyanagi
淡いピンクのドローイング中心だった。これまでの内藤礼のイメージとはちょっと違うかな。

アートフェア東京

さて、だいぶんよい時間になったので、国際フォーラムに向かいましょう。アートフェア東京です。


アートフェア東京 ART FAIR TOKYO
通常会期は明日からなんだけど、今日は内覧会的なもの。でも今日のうちに、主なものはみんな売れちゃうらしいんだけど…。あと、この日だとアーティスト本人がいることが多くて、楽しい。今回は会場が2つにわかれていて、TOKIAのほうにも会場があった。TOKIAのほうはモダンアートばっかりで、国際フォーラムとTOKIAに、モダンアートのギャラリーが分かれた感じ。
前回、メインのスポンサーはモリモトだったのですよね。あーいうことになっちゃったから、今回はどうなるんだろうと思っていたけれど。伊藤忠が目立っていたほか、北海道三祐株式会社というところがスポンサードしていた。壁面緑化とかをやっている会社らしく、それを転化した壁掛け山水オブジェみたいなものを作っていて、ちょっと面白かった。
モダンアートの部分についての感想を。会場の雰囲気は去年と特に変わりないけれど、去年に比べて、思い切って一人の作家を特集したり、大きい作品を展示したりするギャラリーが多いように感じた。景気も極度に悪いので、とりあえず売れそうなものを…というよりも、いっそ種まきと割り切っている雰囲気があったなあ。見る分にははるかに面白いです。
あと、モダンアート以外のギャラリーも、モダンアート方面に手を出したがっているのかなあ、という感じも。ただ、主にこういうところで感じたこと、そしてモダンアート系のギャラリーでも結構多いんだけれど。特に日本の作家だ。日常のちょっとした風景とか、食べ物とか、雑貨とか、ちょっと異化して描いてみました、オサレなインテリアでしょ?みたいな傾向の作品が多すぎやしないか。それから、画面全体に空があって、その下に街がある、みたいな構図の作家が3人いたぞ。そりゃ、それなりに売れるでしょうが、アーティストとしての将来についてどう考えているのか。その路線で大成するとは思えない。いやまあ、生活も大事でしょうけれど…。題材はそういうものを選んでもすげえ、ってのはあるんだけれど、そうじゃないのもたくさん…
国際フォーラムのほうの会場では、今津景という人のドローイングが、すごく伸びやかで良かったです。雁皮紙にあほな感じの絵が描かれている“いのとみか”というひとの作品、ちょっと良かった。ケンジタキギャラリーは塩田千春とか出してて、目を惹きます。福永大介さんのモップの絵があったなあ、あれ好き。
ロッカクアヤコさんがライブペインティングしていた。小柄だけどバネのありそうな…ってスポーツ選手を評してんじゃないんだから、と思うけれど、実際、そういう感じの人でした。小松原緑という人の写真作品、なんだこれ、やおいなりきりコスプレ?みたいな。
なぜか週間金曜日がブースを出していて、そこだけ異世界になっていた。落合恵子とおぼしき人がいたけれど、本人だろうか知らん?それから、秋山祐徳太子が会場を徘徊していて、そのあまりの好々爺ぶりにびっくりしました。あと、渡部昇一渡辺淳一を足しっぱなしにしたような精子の濃そうな着物のおじさんがのしのしと歩いていて、一緒に歩いているのは、銀座ママ風の、見るからに高そうな着物着た美人で、変態性欲という言葉が真っ先に浮かんだけれど、まあそれはどうでもいいです。すみません。
かなりの時間滞在して、国際フォーラムをあとに

次にTOKIAのほうへ。こっちはモダンアートばっかりだけれど、風がどこかから吹き込んできて、寒い…。アラタニウラノに加藤泉のでっかい作品。まだ木の香りが濃厚にしていた。ご本人もいました。
無人島プロダクションの風間サチコの木版画(版画なのに一点もの)がいい。素材の選び方が良い。観光地のお土産用絵葉書に、ほぼ必ず一枚は、山の中のスカイラインが入っているものがある…ということころから、その絵葉書をそのままの構図で再現した木版画とか、ホームレスの四季とか。絡め手な社会批評で面白い。それから、MISAKO&ROSENの、MAYA HEWITTって人のドローイングが、すごく良かったです。

19時を廻ったので、ちょっと腹ごしらえ、と思って、『VIPパーティ』なるものに潜入したけれど…。会場がP.C.M.って、あそこあんまり広くないでしょう。そこに、私みたいな有象無象にまでばら撒かれているVIPカード、持ってる人、全部収容したらどうなるかわかりますわな。会場大混雑で立錐の余地無し、あっとゆーまに消える食べ物。飲み物に長蛇の列。とりあえずシンハービールを貰い、豆のスープとかかぼちゃのスープとか、野菜とかグリッシーニに生ハム巻いたものとか、それらしいものをいくらか腹に詰めて、こりゃかなわん、とすぐに撤退、再び国際フォーラムへ。

今度はモダンアート以外を中心に。19時を廻って、一般招待客が入りだして、会場の熱気はさらに上がっていた。えらいこんでおります。
森美術館の館長さん、今日もニコヤカに会場を廻っていた。いつも朗らかな感じの人ですね。浮世絵、写楽が3000万円、歌麿が1800万円ってのがあったなあ。ああいうのは目の保養ね。デヴィ婦人がいたけれど、なんというか、照明が当たってるわけでもないのに当たっているように見えるというか、やっぱり華のある人ではあるな。
加藤照という人の作品があって、最初、私はびっくりしたんですよ。平山郁夫シルクロードの絵の劣化コピーだ!と。そして、これは凄い、凄い批評美術だなあ、と面白くなったんですよ。ところが、どうもそうではないらしい。大真面目らしい。これは大変失礼しました。しかしもうこうなると、素朴画の一種ですよね。
またまた長時間滞在して、ちょっとは空いているかしらん?とパーティー会場に戻ったら、さらに酷い混雑になっていた。店の人、出しても出してもすぐに無くなる食べ物に、頭にきたのだろうか、おまえらはこれでも食ってればじゅうぶんだー、という感じで、じゃがいもが出ておりました…

父上様、母上様、じゃがいも美味しゆうございました。というわけで、逃げるように退散して、結局10時過ぎに帰宅したのでした。