日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

越後妻有アートトリエンナーレ2006

http://www.echigo-tsumari.jp/
というわけで、ご報告。この『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2006』は、十日町市津南町を舞台に、760㎡の里山全体にアート作品を展示する、という実にもう壮大なもの。今回は2000年、2003年に続いて3回目の開催で、きちんと3年に一度やっている、大変に偉いイベントなのである。
今年の開催は7月23日〜9月10日であり、勿論開催期間中に行くのが面白いのだけれど、終了後も残る作品が沢山あるので、それ以外の期間に遊びに行っても楽しめる。私も2004年の夏に遊び行き、「夢の家」に泊まったりして、2泊3日でのんびり楽しんだのであった。
今回の訪問は、日帰りということであまり欲張らない。とにかく、ボルタンスキーの作品と、前回未見だった「光の館」を見たいなあ、という目的。まずはまつだいの駅でまずは自転車を借りる。パスポート(3500円)を持っていると300円で貸してくれる。今年買ったばかりの、新しくて綺麗なママチャリだった。
なお、旅のお供に、必ずガイドマップ(100円)、できれば美術手帖の増刊号(1200円)を持たれたし。現地でも買えますし、東京だと代官山の事務所、横浜だとBankART1929で買えたりします。
松之山に向けて、松代城の東側を回りこんで裏道を進む。道々の途中にもアート作品が沢山あって、その目的地に行くための標識が立っている。

こんな感じ。なにしろ里山に作品が点在しているので、こんな感じなのである。矢印の方向に作品番号が書いてあっても油断してはいけない。そこまでの距離は100mかもしれないし、10kmかもしれないので!

自転車で上り坂はなかなか辛いが、道路の舗装はしっかりしているので走りやすいし、なにより、周囲に広がる棚田の風景は美しい。そして下り坂の爽快感と言ったら!嗚呼素晴らしき哉。ジャン=ミッシェル・アルベローラの『リトル・ユートピアン・ハウス』(280)は峠にぽつんと佇む。中に入ると森閑としていていろいろな事が考えられそうな感じ。
坂を下り、集落を過ぎて、「キョロロ」はひとまずスルーして津南方面へ。ひとつ峠を上りきって下ったところにクリスチャン・ボルタンスキー+ジャン・カルマンの『最後の教室』(329)はある。

廃校になった学校を利用した展示。人口、特に子供が減少している地域なので、廃校は多い。以前からこのように、廃校や廃屋を利用した展示が沢山ある。この作品も以前の開催からの展開であるようだが、今回は特に、福武総一郎の支援もあってのことなのだろうか、空き家を利用したプロジェクトが多い。特に2004年の地震、この冬の豪雪を受けて、空き家はどんどん増えているのである。散人先生に「なんであんなところに人が住む?」と言われる地域だから…
さて、ボルタンスキーの作品。廃校の体育館、廊下、校舎の1階から3階まで、全部を使った非常に大規模なインスタレーション。暗闇の中で、藁の香り、踏みしめる藁の感触、ゆらめく光、扇風機の風、遺影のような黒いパネル、鼓動、白い光の棺、ゆらめく雪の映像。ゆらめく、ゆらめく。暗い中で感覚が研ぎ澄まされ、鋭敏になった五感のすべてに訴えてくる、人の記憶、死者の追憶、不思議な感覚。

うむうむ、これは本当に素晴らしい。遠い道のりをやってきた甲斐があった。おばちゃんの集団が騒がしいのはちょっと興ざめだったけれど。とにかく、現地で体感してもらいたい作品。そんでもって、お子様方には極めて上質かつ凶悪なお化け屋敷。トラウマになるかもしれない。クーラーの設置位置とかかなり意図的じゃないかしらん。
ここから、遠い道のりを、また坂を上り、下る。しかし疲れた体を素敵な風景が癒してくれる。大地の芸術祭は、勿論作品も興味深いのだが、その作品と作品の間を行き来するときの風景が素晴らしい。そして、その風景の中に忽然と現れるアート作品。その不思議な体験こそが大地の芸術祭の価値であるな。地元の人も積極的に協力していて、手作りの看板があったり。

しばらく進むと、『「森の学校」キョロロ』(298)に着く。超高細密で馬鹿でかい昆虫の写真を楽しんだり、展望台からの眺めを堪能したり。思いのほか時間は早く過ぎ、ここで昼飯。棚田をかたどった漆塗りの弁当箱でいただける『棚田弁当』(303)は先着4名様で売り切れだったが、同じ内容の「棚田定食」が、これも同じ人の作品の、田んぼをかたどった陶器のお皿で食べられる。700円なり。苦味のある山菜が美味しかった。
この近くに「美人林」というブナの林があり、その美しさに心あらわれる。老人の団体さんが弁当を食べており、楽しそうであった。

ここから国道に出て、松代方面に下る。途中、点在する作品を鑑賞しながら。ところで、各作品にはスタンプが置いてあり、パスポートはスタンプ帳になっている。で、鑑賞そっちのけでスタンプ収集に没頭している人が散見された。しかしこれ、相当難儀なスタンプラリーである。横浜市の倍の面積に作品は点在し、案内どおりにたどっても見つけ辛い作品も時々あり、ようやくたどり着いても、スタンプが無くなっていたりするのだから!これだけの数の管理は大変だろうけどね…
トンネルをくぐりつつ、爽快な下りを楽しみ、松代の街へ。『土壁による修景プロジェクト』(223)を眺めながら中心部をぶらり。2年前に泊まった旅館もみつかた。そうだ、「松栄館」だった。自分の田んぼで取れたという米、そのあまりの美味さに滂沱の涙を流した旅館だ。あのご飯を毎日食べているのだろうか。そう考えると、もうなんというか、殺意すら覚えるなあ!
ほいでもって、自転車を返却して農舞台へ。

農舞台の裏山は、一昨年来たときにじっくり鑑賞したので、今回は作品鑑賞もそこそこに食堂で青豆のサラダとトマトで休憩。食堂から見えるカバコフの作品が素敵。
まつだい駅から13時57分の電車に乗って十日町に出て、再び自転車を借りる。まつだい駅の自転車よりもだいぶんおんぼろ。妻有大橋を渡り、また…坂を上って…台地の上に広がる穀倉地帯を走り抜ける。もうなんというか、途中の作品を鑑賞する余裕がなくなってきている。こりゃいかん。ひたすら目的地をめざし、しかし光の館のある公園の手前に再び上り坂が…ああ…。
上りきる。どうやらなんとか上りきる。光の館である。

ジェームス・タレルの作品。陰翳礼讃にインスパイアされて作られたこの建物は、タレルお得意の天井からの自然光や、間接光が作り出す陰の美しい作品である。2階建ての建物で、宿泊者用の風呂も光ファイバーの不思議空間。そう、泊まることもできる。泊まりたいなあ、と改めて感じたのであった。

光と影が作り出す模様が美しい

だが、朝方や夕暮れ時、光が変化する時間に居合わせたら、さぞかし美しいことであろうなあ。泊まりたいなあ。
さて、時間も迫ってきたので帰ろう。

思えば今回、作品をろくろく見なかったなあ…当初の目的が2つの作品で、それは概ね満たされたとは言え、やはり無茶があったようだ。今度はゆっくりじっくり、余裕を持ってこよう、と思ったのであった。
駅で自転車を返し、『キナーレ』で温泉につかって、生ビールを1杯。駅までの歩く道すがら、レアンドロ・エルリッヒの『妻有の家』(82)、トリックアートな作品を楽しんで、17時39分の列車で(列車と言いつつ、車両は1つだけなのだが…)十日町を後にした。
なお、作品についてちゃんとレビューを読みたい方はpizzさんのレビューなど見てくださいね!
http://blog.goo.ne.jp/pizz/e/213ff9d0d17b30fe49d329f9fc3f49d6

追記:2回目、行って来ました
http://d.hatena.ne.jp/zaikabou/20060826