日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

対照的な二つの湯治場

テレビ東京の湯治場特集、後生掛温泉が出るらしいので、録画して飛ばし飛ばし見る。数年前のゴールデンウィーク、東北の温泉めぐりと題して、一人で尋ねた秋田の後生掛温泉、岩手の鉛温泉はいずれも衝撃的だった。
後生掛温泉は山の中の一軒家で、オンドル式の大部屋で自炊しながら湯治する客がたくさんいるのだが、この大部屋が言うなればフェリーの2等、タコ部屋みたいな雰囲気。そこに死にそうな年寄りが一日中枕を並べている凄い光景を目の当たりにし、さすがに大部屋は…と選んだオンドルの小部屋も振るっていた。まんず、3畳あるかないかの質素…いや、質素は褒め言葉だ、板張りの、俺は屯田兵か、みたいな部屋に通される(通されはせず、一人で通ったのだが)。
到着したのが昼過ぎ。とりあえず風呂に入って戻ってみたものの、娯楽施設など何も無く、山の中の一軒宿なので歩いてもどこにもたどり着かないような場所。一通り宿を観察した後は、部屋で寝ているしかない。しかし、狭い部屋にオンドルの熱気が充満していて、熱い。とても暑い。拷問のようだ。こんなところまで遊びにきて、私は何をしているのだ。
で、寝ているのがあけれに飽きれば風呂へ、風呂に飽きれば部屋で寝る、という怠惰な一泊を過ごしたのであった。しかしとにかく、お湯はわが人生で最良の質であったし、あんな湯治場らしい雰囲気はまったく得がたいものであった。素晴らしい、また行きたいところだ。
なお、三井理峯先生がおっしゃるような「凄い暴力団」はいなかったことは、念のため申し添えておきたい…と言っても誰もわからんネタですが。
そんな後生掛温泉が紹介されるというので、録画してテレビで見た。そこには、農閑期を気の置けない仲間と楽しむ、元気な東北のお年寄り達が写されていた。自炊して、お風呂に入って、大部屋でおしゃべりやら音楽やら思いのままに過ごす。「小原庄助さんみたいだね」とニコニコと過ごすお年寄り、しかもみんな色艶が物凄くいいのだが…そんなお年寄りを見て、改めて後生掛、素晴らしい所と再認識したのでした。
そして、次に出てきたのが、山一つ挟んだ玉川温泉。ここは娯楽の湯治場ではなかった。治療の場所、修行の場所だ。日本一の効能と霊験あらたかな玉川温泉に、東京から藁をもすがるような思いでやってくる湯治客たち。その多くが癌患者。ここが発祥の岩盤浴を行うためには、雪深い既設、宿から大変な思いをして、源泉にたどり着かないといけない。雪の中に張られたテントの中、順番待ちまでして、修行のように岩盤浴にいそしむ女性。「肺がんだからガスが充満しているのはよくなくて…」と、雪が降る中、わざわざ表で岩盤浴する男性。もはや「信仰」とでも言ったほうが良いようなストイックな光景が繰り広げられている。まさに修行だ。
すぐそばの、泉質効能は異なるものの、いずれも効果抜群の湯治場。その二つのあまりに対照的な性格、実に興味深かった。