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東京国立博物館『北京故宮博物院200選』

新年早々、210分待ち!などとディズニーランドかっ!みたいな行列で話題になっている『北京故宮博物院200選』。まず、それだけ行列しているのはある一つの作品であって、それ以外を見るためであればそれほど行列しないし、それ以外でも十分すぎるほどに見ごたえがある展覧会です、ということをお断りした上で、話をすすめます。
北京故宮博物院に行こう!
さて、そのとんでも無い行列。また日本人はミーハーで…みたいに受け取られる方も多いと思うんですが、これはそればかりにもあらず。出品されている『清明上河図』が秘蔵中の秘蔵の逸品であるため、なんと、わざわざ中国からも人が見に来ているため…なんだそうで。
清明上河図』は北宋の首都、開封の賑わいを描いた(と、される)24cm×5mの絵巻物で、作者は張択端。絹の繊維1本に筆の線1本、というくらいの超絶な細密画で、中国でもっとも人気のある美術品。中国人ならだれでも知っている、というくらいなんですが、収蔵している北京故宮博物院でも滅多には公開されず。それ以外で展示されたのは中国国内で、上海博物館(2002〜2003年)、遼寧省博物館(2004年)、香港芸術館(2007年)の3回のみ。香港返還10周年の2007年に香港で展示された際には、香港芸術館の最多参観者数を記録し、4時間待ちとか6時間待ちの行列が出来たんだとか。
上海万博の中国館においては、幅120メートル、高さ6メートル超の巨大スクリーン上で『清明上河図』の図中の人々や船が動き出し、声や音も再現される展示があり、万博の目玉となっていたことからも、いかに中国で人気があるかわかろうというもの。それが今回、はじめて中国国外に持ち出されるということで、中国の人に『清明上河図が日本で展示されるんだよ〜』と言っても『ははは、面白い冗談だね!そんなことあるはずがない!』と返されるような椿事であると。担当した研究員の塚本麿充さんが興奮を隠しきれない!という感じで語っておられました。
で、この作品。それだけの行列が出来てしまうのは、人気があるから…ばかりの理由でも無く。24cm×5mのサイズで、それはそれは、超細密に描かれているので、よっぽど顔を近づけてよーく見ないと、味わえないのですね。ガラスケース越しに顔をくっつけるようにして見ましたが、後から後から行列しているので、立ち止まってゆっくりは見られない。少しづつ進みながら見るしかありません。みんな牛歩でじっくり見ようとするので、かなりな行列になってしまうのね…。1日あたりの入場者数そのものは、実は、これまでの大規模展に比べてもそう多いわけじゃないようです。
しかしそれでも、楽しそうに生活する人々、写実的に描かれた家や街や船などに圧倒されることと思います。展示コーナーの前にスクリーンなどで作品が詳しく解説されているので、待っている間はそれを見て、作品の見どころをよく予習しておきましょう。公式ページにある“『清明上河図』であそぼう!”が非常によく出来たコンテンツで、これでも予習していくことをお勧めします。
http://www.kokyu200.jp/midokoro_03/
その人気ゆえに模写も沢山あり、大倉集古館でも、明時代の模写が現在展示中となってます。
【大倉集古館】展覧会・イベント
さて、2月19日までの展示期間中、この神品『清明上河図』が展示されるのは、1月24日まで。日曜美術館で8日に放送されるとさらに混雑も予想されますが、『清明上河図』が無かったとしても、この展覧会は相当凄い。北京故宮博物院の180万点あまりの収蔵品から、一級文物がぞろぞろ。
まず見ていただきたいのが元の趙孟頫による『水村図巻』であり、実は専門家に聞けば、10人に8〜9人は『清明上河図』よりもこっちを選ぶ、というような逸品。穏やかな山水風景を淡い筆使いの水墨画で描いたこの作品は、写実では無く心象風景を描いたような素晴らしいもので、いや正直、『清明上河図』は確かに素晴らしいのだけれど、『中国の人って、こういう、超絶技巧みたいなの好きなんだねえ…』という感想を抱くのもまた事実であり。日本人の感性的に言えば、こちらの作品を気に入る人が多いのではないか、水墨画の精髄とはこのことでないか、と思います。
この図巻、延々と、いろんな人による賛辞が続いており、この書がまた見物。というかですね、わたしこれまで、あまり書には興味が無かったんですが、この展覧会で書に目覚めてしまいそうになりましたよ。中国美術って、水墨画や陶磁器も当然長い歴史があるわけですが、やはりその長さと奥深さで言えば、書が断トツ。今回の展覧会では、宋の四大家をはじめ、書の名品がこれでもか!とずらり。黄庭堅の『草書諸上座帖巻』狂草なんかえらいことになってますし、こりゃうめえ、すげえ、という書の数々に酔いしれます。
さきほどの『水村図巻』もそうなんですが、これ以外にも『楊竹西小像巻』なども、画そのものよりも、その後ろにぞろぞろ続く賛辞のほうがはるかに長い。わざわざ升目まで書いてきっちり篆書で書かれているものもあり、君ら絵なんかどうでも良くて、自分の書を競い合いたいだけと違うか…という多様性。見ていてとても面白い。
孔雀の羽を織り込んだ緑の地を基調とし、真珠や細かく砕いた珊瑚などを細かく織り込んだ刺繍袍は、くらくらしちゃうようなこれまた超絶技巧。あんぐり口をあけて、ぽかーん、と眺めてしまいました。
康熙帝南巡図巻は、清の康熙帝の民情視察の旅を描いた絵巻物で、今回は幅67cm、長さ23mで悠々たる風景を描いた第十一巻と、紫禁城の入場する様子を長さ26mで描いた第十二巻、いずれも巨大なものをしっかり全部見ることができまして、じっくり見ているとえらいこと時間がかかる。しかしこれもまた見物であります。
青銅器、陶磁器、彫物の名品もたくさん。特に、『花鳥螺鈿舟形容器』の柔らかい輝きが素敵すぎる。全体、派手好みなものが多い中で、まあこれも派手なんですが、色合いにしっとりしたところがある。
展示は後半に行くにしたがい、清朝の宮廷の調度品、チベット美術など、なかなか楽しいものがならんでおりまして。うーん、最後になるとちょっと大味ではありますが…。全体的に、書にしてもなんにしても大物が多く、まあ、なんでこんなに大物ばっかり?ということを考えますと、小さくて超一流の持ち出しやすいものは相当数、台北に持って行ってしまったから…ということなんですけれども…(笑)そして、全体を眺めて行くと、中国の人の美術品に対する考え方がうっすらと見えてくる、そんな展覧会なのでした。
とにかくにも、『清明上河図』を見るにしろ、見ないにしろ、見どころ満載の展覧会であることは間違いありません。展覧会は2月19日まで、『清明上河図』が展示されるのは、1月24日まで。金曜日の夜間開館は今回ありませんので、ご注意ください。あんまり混雑しているので夜間開館もするのでは…とは期待しているのですが、本来の開館時間でさばききれない人のために、入館を締め切って時間延長するだけで精いっぱいな感じでした。それでも、もうちょっとは伸ばしてほしいよなあ…
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