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「白隠展」ブロガーナイト ─白隠の魅力に開眼せよ!!─

渋谷の坂の上、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている白隠
白隠展 公式サイト

この白隠展にて、展覧の監修者で美術史家の山下裕二先生、主催者の広瀬麻美さん、そして美術ブログでみなさんご存知、青い日記帳のTakさんによるトークに参加することができた
「白隠展」ブロガーナイト ─白隠の魅力に開眼せよ!!─ | 弐代目・青い日記帳
しかも、会場は味気ない講義室ではなく、白隠の達磨に囲まれたとても贅沢な空間!

周囲を白隠の達磨に囲まれて、なんだか正月から運気の上がりでありますよ…そんな空間に50名ほどが集まり、トークのスタート

白隠慧鶴は、日本における臨済宗の中興の祖、精神的支柱、現在の臨済宗系譜はすべて白隠につながるというえらいひとなんですけれども
白隠慧鶴 - Wikipedia
そして、かの有名な禅の公案『隻手の声』、すなわち、両手を叩くと音がするが片手の音とは?という、アレですね、あれも白隠が創案したものなんですけれども

やはり、美術ファンとしては、数多くの魅力的な禅画、そして墨蹟を残した人。心に迫る、そして笑いも誘う、本当に、理屈でなく、見ているだけで力がわいてくるような数多くの禅画を残した人なんですね。


生涯に残っているもので一万、全部で数万ともいわれるような絵を残している。しかしながら、その活動はいままであまり研究対象になってこなかった。それは
・多作過ぎること。作品が多すぎて俯瞰しにくい。
・作品が散在していること。白隠は自分の描いたものを売ったことはなく、教えをひろめるために描いてすべて弟子や人に渡しているため、コレクターによる収集などが進んでいない。
・またそのために、各地の寺の寺宝となっているため(そりゃ、自分のところの中興の祖の絵ですものね)借りにくいし、研究が進まない。
・孤高過ぎること。その画業はまったく独立峰であり、池大雅や京都画壇などに影響は及ぼしていると考えられるものの、他の画家との関連で語りにくいこと。
・賛が読めない、研究しにくいこと。
などの理由があったから、であると。そのため、研究が行われているのはほんとうに最近のこと。『国華』で特集されたのも、つい2〜3年前のこと。
本展の構想は12年前越しのものであり、長年の研究活動の集大成であり、ギッターのコレクションの里帰り展として行われた『ZENGA展』などが契機になっているとか。アメリカの眼科医であるカート・ギッターは、日本滞在中に多くの禅画を購入しており(1950年ごろから、欧米において禅のブームがあったのですね)、その里帰り展として行われた展覧会。一昨年もギッター展は行われていますが
「ギッター・コレクション展」 | 弐代目・青い日記帳
これではなく、さらにさかのぼること10年ほど前のこと。この展覧会において、白隠に限っては国内の作品を二十数点集めてギッターのコレクションとともに展示したのが、白隠のまとまった展覧会としてははじめてのことであったとか。しかしこのとき、大分・万寿寺所蔵の『朱達磨』…この作品ですね

白隠の最高傑作といわれるこの作品は出品することができず。白隠の展覧会をするなら、この作品が出なければ!という決意のもと、実現したのが今回の展覧会であったとか。
2009年に、白隠研究の第一人者にして花園大学臨済宗の大学)教授、そして今回の展覧会の監修者でもある、芳澤勝弘先生に画期的な研究書が出版された

白隠禅画墨蹟―禅画篇・墨蹟篇・解説篇 全三冊

白隠禅画墨蹟―禅画篇・墨蹟篇・解説篇 全三冊

これは、全国各地をまわり、何千点もの作品を調査し、そこから厳選した1050点もの作品を収録した大画集。この著書も契機となり、また、文化村から和ものの展覧会を、というざっくりした要請もあり。吉澤先生との共同企画で長年の夢が実現された展覧会だとのこと。臨済宗花園大学の教授であり、国際禅学研究所教授・副所長も務める吉澤先生の力がなければ実現しえなかった(こんなにたくさんの作品を貸して貰えなかった)展覧会であると…。
今回の展覧会、とにかく白隠の作品は全国のお寺に散在しているので、全国45箇所から借りている。この規模の白隠展はもうできないのでは、というような規模。だけど、巡回はしなくて、文化村だけの展覧会。巡回してほしい、という申し出はたくさんあり、つい先日も海外の美術館からオファーがあったそうだけれど、無理です、とのこと。それは日本画の性質上長い期間の展示に適していない…ということもあるけれど、なにしろ、各地のお寺が大事にしている寺宝ばかり。なかなか、貸し出しには檀家の理解が得られない。そもそも美術展を信用してない、文化村と言っても『渋谷にも村があるんですか』、山下裕二と言っても『それはだれ?』。とにかく何百年も貸していないものもあり、貸し出しの交渉に行っても檀家集めて大会議まるで尋問のようであったとか。
それでもこれだけのものを借りられたのはやはり吉澤先生の尽力もあり、そしてなんといっても、『あの万寿寺の朱達磨が出ますよ』と言うと、じゃあうちも貸そうか、という話になるんだとか。おかげで、とても魅力的な展覧会を文化村で見ることができる。そしてもう一つ、実は白隠の作品には、国宝・重要文化財が一点も無い。だから、国宝重文が並べられない箱であるBunkamuraザ・ミュージアムでも、最高の白隠展が開催することができたんですね。



会場は、壁の無い広い空間に一から図面を引き、全体が六角のハニカム構造を基調として、作品通しの反射を防いで、隣の人が邪魔にならずに鑑賞できるように工夫されている。特注の大判のアクリルを使い、作品とアクリルとの距離もわずかに15cm、反射しないぎりぎりの距離。そしてその中でも、これは作ろう!とはじめから決まっていたのが達磨部屋。今回のトークの会場ですね

若いころ(白隠の場合、60でも若描きと言われ、80過ぎても猛烈に描き続けたのだけれど…)から最晩年までのダルマに一度に囲まれる空間は、まさに渋谷のパワースポット。いや、そんな流行の通俗的な言葉で表現したくないような、すごい空間に仕上がっているんです、本当に。まさに達磨に囲まれる。力があふれてくるような空間。画風の変遷も見ることができる。
トークの中では、美術品搬送のプロ集団、梱包から展示まですべてをこなすヤマトロジスティクスの話とか(かわいいクロネコグッズは海外でも大人気!)、絵の裏に張って湿度を調整する紙の話とか(今回はすべて60%に調整しているとか)

作品を借りに行った先のお寺でも新たな発見があるお話とか(箱に入っている書付から制作年を改めて特定できたり)、白隠が憑依する吉澤先生とか

展覧会に関する楽しいお話を、スライド交えながらたくさん聞くことができた。
また、白隠の作品について。白隠は仙?と並び称されることも多いが、その作品のあり様はぜんぜん違う。仙?はある意味癒し系であるけれど、白隠は作品を売ったことがなく、すべては仏の教えを伝えるため、命懸けて描いた。その活動は孤高であり、とにかく説明を聞く前に作品を見て欲しい、と。確かに、白隠の作品はどれも、笑いの中にも力強さ、迫ってくるものがあり、仏の教えがある。
また、白隠の絵には自画像的な要素もあり、当時としては珍しく自画像もあり、これは『頂相(ちんそう)』として、弟子に与えられたものであるとか。普通は絵師に発注して描いてもらうんだけれど、白隠は自分で描いちゃうんですね。白隠の自画像は、残っているだけで十数点ある。
頂相 - Wikipedia
また一方、白隠の観音だけは自画像的な要素が無く、みな同じような、決まりきった表情で、丁寧に描かれており、白隠は基本的に紙に描くのだが、観音についてはは絹に描いたのもかなりある。これは母の面影ではないか、など

白隠の墨蹟も多く展示されており、これなんか、たくさん書いているはずなのにバランス考えてないのかな…ってところが面白かったり。綺麗に書こうとか、もう、そういう境地ではないのだね

そうそう、ジョン・レノン白隠が好き、という話も。『イマジン』の映画の中で、部屋に白隠のダルマが飾られている場面も確認されていますね。ジョン・レノンオノ・ヨーコをつなぐ媒介には、間違いなく禅、白隠があったのでしょう
レノンと達磨の掛け軸 - 超人日記 - Yahoo!ブログ
写真はあんまり撮らなかったけれど、ちょっとブリューゲルも想起させる『地獄極楽変相図』(この作品も檀家の大会議を経て数百年ではじめてお寺を出た!)とか、とにかく魅力的な作品満載で、幸せな気持ちで会場をぐるぐるしちゃいたくなるような展覧会であったのでした。

とにかく、空前絶後であることは間違いないのでしたよ。皆さんの感想などは、こちらでも
“白隠の魅力に開眼”しました?! | 弐代目・青い日記帳
「白隠展」ブロガーナイト ─白隠の魅力に開眼せよ!!─ - Togetterまとめ
2月24日まで、巡回は無しです