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大阪市立美術館『壺中之展』を見逃すな

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以前から、企画展を見るために大阪市立美術館に行くたびに、2階でひっそり行なわれているコレクション展に度肝を抜かれていた。ほんとうに、ひっそり行なわれているのだ。ほとんど誰も見ていない。見ていないのに、とんでもないものが沢山並んでいる。例えば北魏の石仏、例えば中国の書画、あるいは鍋島に、印籠に根付に、どれも一級品である。

しかし、大阪市立美術館はとにかく宣伝が下手なのです。それだけのコレクションを持ちながら、あまり宣伝もしないので、いつも展示室は閑古鳥が鳴いている。あの美術館の素晴らしさを知る人は、いつもそのことを悔しがっていた。

その美術館が本気を出した。なんとTwitterのアカウントまで作った。これまで無かったのに!それが今回の展覧会、開館80周年記念展覧会の『壺中之展』なのです。

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今回の展覧会、一階二階の展示スペースに加えて、二階の回廊まで使い、自館のコレクションと周辺寺社からの寄託品だけで全230点を並べている大展覧会である。そのうち国宝が2、重文50以上。この美術館の誇る、底知れぬコレクションの実力を、余すところなく示しているのです。正直、2時間あっても時間不足だった。

ひとつひとつの展示品に言及しているとキリが無いのだけれど、特に中国の書画や石仏の世界でも一級のコレクションは眼を見張るし、寄託された仏教美術も素晴らしいものばかり。尾形光琳の画稿は食い入るように見てしまう。若冲の『蔬菜図屏風』なんて、京都に出さずにこっちにあるんだな!見られてよかった!って感じで。

カザールコレクションの印籠やら根付やら、小物の数々も、どれもほれぼれするような美術品。間近に絹目まで見える橋本関雪の唐犬と上村松園の晩秋、修復後初展示の葛飾北斎の潮干狩図、使い込まれた色合いに惚れ惚れする根来、気の弱そうな小早川秀秋像、かわいい猫に猿、見事な明るさの藤袴図屏風…とにかく見所だらけなのでありますよ。

今回、特に茶道具の数々が新鮮。「文人趣味と中国への憧れ」のコーナーで、煎茶法の書物や書、煎茶の炉と急須(急尾焼)、景徳鎮の水柱や茶碗などが展示されており、大阪市立美術館はこんなものも持っているのかと驚く。この、中国への憧れというのも、コレクションを貫く大きなテーマなのだろうな。

大阪市立美術館のすごさというのは、ただ、これだけの物があるから凄いのでは無い。まず、この美術館が建てられている場所が、住友家が茶臼山に建てた贅の限りを尽くした本邸の土地を、わずか数年で大阪市に寄贈した場所。

住友春翠は、何十年の歳月をかけてここに大豪邸を作り上げたのに、わずか数年で手放してしまった。周辺が騒がしくなり、労働集会が頻繁に起こり、など理由はあるようで、本人は茶臼山に屋敷を建てたのが人生唯一の悔いである…と言っていたみたいだけれど、とにかく、大阪市に美術館用地として寄贈している。

このあたりの話は、以前、京都の泉屋博古館を訪れた時に詳しく知りました。 

その美術館に、数多くの大阪財界人と篤志家が、それぞれのテーマと審美眼を持って蒐めた一級品のコレクションをどんどん寄贈していく。そのコレクションの厚みが積み重なり、また、寺社は、美術館の姿勢に信頼を寄せて、多くのものを寄託している。

そして、寄贈や寄託は過去の歴史ばかりでは無い。今世紀に入ってからも、数多くの善意によって、コレクションは作り上げられている。鍋島が揃う田原コレクションも2011年に寄贈を受けたもの。主なコレクション一覧はこちら。

とにかく、現在進行形の、大阪人の矜持の結晶、それが大阪市立美術館なのです。大阪市立東洋陶磁美術館の世界的コレクションと併せて、まさに、大阪の誇りなのだ。今回の展覧会はそこへのリスペクトも多大に示されていて、まさに、そこを、あらためて知らしめる展覧会なのです。

以前、大阪市立東洋陶磁美術館にはじめて行った日に、大阪市立美術館にも行き、さらに大阪の近代建築についての展覧会も見て、その豊かさに圧倒された日はいまでも思い出します。 

去年、心斎橋の大丸に閉店前に行った時にちょっと書いたのだけれど

これはもちろん、個人の好みなのだけれど。

関東大震災後の一時期、大阪は東京を凌ぐ大商都であったし、私鉄経営は常に先駆的であったし、見事な近代建築を大量に抱える街であったし、とにかく品の良さがあったし。

私の好きな大阪は、お笑いや粉もん押しで妙な敵愾心を東京に対して持っている大阪ではなく、そういう意気を持った大阪なのです。そういう大阪の気概を存分に感じ取れるのが、今回の展覧会なのです。

とにかく、この展覧会、12月4日(日)まで。入場料もたった800円です。えらく空いてます。是非、是非、足を運んでください。Webページには100円割引券も用意されています。