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横浜美術館『ファッションとアート 麗しき東西交流』

横浜美術館で開催中の『ファッションとアート 麗しき東西交流』展を見てきた

最初、『ファッションとアート』なんて、わりと大雑把なタイトルだなー、と思ったのだが、今回の展覧会、ファッションを通じて日本と西欧、相互の文化移入とハイブリッドを概観する、なかなか興味深い内容だったのです。

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以下、会場内で撮影した写真は、美術館で特別に許可をいただいたものです。

明治初期において、日本の工芸品が海外の万博などに出品され、外貨獲得手段のひとつの手段になっていた…ことは、最近、関連する展覧会が多く開かれて、アート好きな人にはよく知られるようになったこと。たとえば昨年まで各地を巡回していた『明治有田超絶の美』とか、もう少し以前の『明治・大正時代の日本陶磁』とか

超絶技巧、という言葉も、最近、よく聞きますね。しかしながら、そのような工芸品陶磁器のブームもそうは続かず、1900年のパリ万博を境に別の道を模索していく。

さて一方、小学生の頃から皆さん学校で習ったとおり、日本の主要外貨獲得手段がシルクである時代が長く続いた。これはシルクそのものだけでなく、シルク製品も…でありまして、ゆったりした室内着需要としての着物や、テキスタイルも輸出品となって行く。

そしてその、シルク輸出の窓口が横浜であった。横浜線はもともと、シルクを運ぶためにあったわけであり。横浜には海外輸出向けの衣服を扱う商会がたくさん存在していた…という繋がりから、今回の展覧会になるわけですね。

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例えば、展示冒頭の輸出用ティー・ガウン、真ん中の鮮やかな衣装は、リバティ商会が扱って海外に輸出されたと推定される。リバティ商会は今でもある会社ですよね

リバティ社について | リバティジャパン[Liberty Japan] | 生地・ファブリック・テキスタイル

ロンドンで、東洋の装飾品などを扱うために設立された会社は、その後、横浜にも支店を出して商売を広げて、今もロンドンにリバティ百貨店として存続している。

あるいは、この室内着は椎野正兵衛商店によるもの。

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椎野庄兵衛商店も、シルク製品を扱う会社として、今でも続いているんですよ

S.SHOBEY SILK STORE

輸出用は衣服に限らず、バッグなんかもあるんだけれど、これのデザインが日本イメージのわりとケッタイなものになっているので、見てのお楽しみで…

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一方で、和魂洋才、明治天皇が範を示して肉を食い洋装する、鹿鳴館的なショーウィンドウで日本が西洋に伍する国と誇示する。この細川護成像などは、渡欧した際に描かれたものだとか

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昭憲皇太后が着用した大礼服も展示されいて、これ、裾の長さだけで3.3mもあるそうで…。こんなものがガラスケースの中じゃなくて、露出して展示されているのすごい。ビロードとシルクの刺繍が美しいです

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西洋に伍して…という意味では、ファッションからは少し離れますが、豪華客船を作って外洋航路に乗りだし、外国人にも、日本もこんな船でこんなサービスができるんだぞ!と示していくのも、また大きな要素。横浜美術館からも近い、日本郵船歴史博物館に行くと、そのような客船の歴史が学べます。

岩崎弥太郎による創業から三井との争い、外国航路の開拓と豪華客船時代、戦争による膨大な犠牲、戦後の復興と貨物へのシフト。日本郵船の歴史というより、日本の近代史を「船」という視点から見せられているような実に立派な資料館。こちらもお勧めの施設です

すぐ近所にはシルク博物館もあって、横浜とシルクについていろいろ学べる

シルク博物館 – 一般財団法人シルクセンター国際貿易観光会館

さてしかし…。庶民には豪華客船で渡欧なんて夢のまた夢だし、着るものだって、そんな簡単には、洋服は手に入らない。ワンポイントで洋を取り入れたり、着物の柄に洋風をまとったり。その様子が当時の絵画や浮世絵から語られていく。三越呉服店のポスターからも、和装しつつも傘などの洋物を取り入れるさまがうかがいます

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銘仙と呼ばれる庶民の着物と帯、そこにも様々な洋風のデザイン。一足飛びに洋風にはなれないけれど、少しずつ取り入れていく様子。

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以前、泉屋博古館『きものモダニズム』で見た、大正時代の優れてモダン、先進的なデザインの銘仙の数々を思い出す。

このようなモダンな着物は大正のころにだけ見られるもので、最近は無い。今、洋風のおしゃれをしようとしたら普通に洋服を着ればよいだけで、着物に洋風のデザインを取り入れようとはしないですからね。着物を着たい、かつ、モダンなデザインを取り入れたい、という需要はあまりないのでしょう。

まさに、洋風の着物デザインは、文化受容の過程のハイブリッドでこそ、うまれた、ということになる。

さらにこれが戦中になっていくと、時勢を反映した着物の柄になったり、そもそも衣服の自由そのものが失われていくわけだけれど

さて、一方で西欧でも、ジャポニスムの文脈で受容されていた室内着としての着物から発展して、日本風のテキスタイルの洋服なども様々うみだされます。西洋での受容の様を語るこの第3章、とにかく衣裳がたくさん展示されていて、どれもこれも実に美しい

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ランヴァンやポール・ポワレ、あるいはシャネルやモリヌーのコート、ドレスなどが次々並んでいます

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また、その影響は意匠だけにとどまらない。例えば、コルセットで締め付けられる服ではない、キモノ的な直線をゆったりまとうスタイルは、女性の解放という側面からも語られ得るもの。キモノがそこに一部の役割を担ったのですね

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と、こんなことを考えながら見る展覧会、とにかく、京都服飾博物館の全面協力で多くは露出展示されている衣装が、マネキンへの着付け、ライティング、美麗でうっとり。純粋にデザインとして楽しめるのであります。

併せて、横浜と文化のハイブリッドを考えたい展覧会なのでした。もちろん、横浜委美術館はコレクション展も充実しているので、あわせて見て行ってください

横浜美術館コレクション展 2017年3月25日(土)-6月25日(日)「自然を映す」 | 開催中の展覧会・予告 | 展覧会 | 横浜美術館

コレクション展が良いという話は、以前、別のところに書かせてもらったんだよー

そんなわけで、横浜美術館『ファッションとアート 麗しき東西交流』は6月25日まで。横浜美術館は一般的な美術館と違い木曜日が休館日で、月曜日が開館している珍しい美術館なので、月曜日にどこにいこうか…とまとった時にもお勧めですよ