日毎に敵と懶惰に戦う

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実例から見る『展覧会の公式サイトが終了後すぐ消えてしまう問題』

皆さんよくご存知のように、日本で開催される大型美術展は、開催する美術館博物館だけが主催者なのではない。予算や広報やマンパワーやさまざまな理由から、新聞社や放送局が複数主催に名を連ねることが多い。それ自体の是非は今回の主題ではなく…

そして、1つの美術館博物館だけで開催されるのではなく、いくつかの美術館博物館を巡回して開催されることも多くなります。

その結果、いろんなことが起きてくるわけですが、例えば、展覧会の公式サイトが独自ドメインを取得する傾向にあります。展覧会が各地に巡回したり、主催が複数にわたったりすると、特定の施設や主催者のドメイン内にページを設置しにくいという事情もあるでしょうし、もちろん上記の事情関係なく、SEO効果の面からも独自ドメインが効果的、ということもあるでしょう。

例えば今年の秋、京都に日本の国宝の1/4が集まって開催される『国宝展』も、「kyoto-kokuhou2017」という独自ドメインを取得しています。(この展覧会の主催は、京都国立博物館毎日新聞社NHK京都放送局、NHKプラネット近畿、となっている)

その結果、何が起きるか。多くの場合、この独自ドメインを利用したサイトは、展覧会終了後、しばらくすると消えてしまうのです。

理由はいくつもある。まず、ドメインを維持すること自体タダではない。期間に応じて費用がかかる。そして著作権の問題。展覧会のサイトには作品貸出元から許可を得てさまざまな画像が掲載されているわけですが、それは多くの場合、展覧会会期中に展覧会を宣伝する目的で使用することが許可されているのであって、展覧会終了後も掲載する許可が得られているわけではない。

そして、たとえ著作権の問題も費用の問題もクリアできていたとしても、ただそのまま残しておけば良いわけではない。さまざまなウィルスやマルウェアの問題を考えれば、放置しておけばいいわけではなく、きちんとメンテナンスしていく必要がある。個人のウェブサイトではないので、何か起きれば主催者の責任問題になりかねない。その維持管理費用もかかる。

もろもろの事情を勘案すると、展覧会の独自ドメインサイトは、しばらくすると消滅する傾向にあるわけです。ここでは一例として、2016年の展覧会入場者数ベスト20の展覧会公式サイトがどうなっているか見てみましょう。(入場者数ランキングはhttp://www.art-annual.jp/news-exhibition/news/64771/によります) 

 【2016年入場者数上位の展覧会サイトの現状】

1 ルノワール 国立新美術館 http://renoir.exhn.jp/ (※)
2 恐竜博2016 国立科学博物館 http://www.dino2016.jp/ 独自 ×
3 ジブリの大博覧会~ナウシカから最新作『レッドタートル』まで~ 六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー http://www.roppongihills.com/tcv/jp/ghibli-expo/ 施設内 ×
4 始皇帝と大兵馬俑 東京国立博物館 http://heibayou.jp/ 独自 ×
5 生誕300年記念 若冲 東京都美術館 http://jakuchu2016.jp/ 独自 別目的
6 カラヴァッジョ展 国立西洋美術館 http://caravaggio.jp/ 独自 別目的
7 ゴッホゴーギャン 東京都美術館 http://www.g-g2016.com/ 独自
8 ダリ展 国立新美術館 http://salvador-dali.jp/ 独自 別目的
9 海のハンター展 国立科学博物館 http://umi.exhn.jp/ (※)
10 村上隆の五百羅漢図展 森美術館 http://www.mori.art.museum/contents/tm500/ 施設内
11 ボッティチェリ 東京都美術館 http://botticelli.jp/ 独自 別目的
12 マルモッタン・モネ美術館所蔵モネ展 京都市美術館 http://www.ntv.co.jp/monet/ 主催者サイト内
13 ジブリの立体建造物展 豊田市美術館 http://www.ctv.co.jp/event/ghibli2016/ 主催者サイト内
14 宇宙と芸術展:かぐや姫ダ・ヴィンチ、チームラボ 森美術館 http://www.mori.art.museum/contents/universe_art/ 施設内
15 レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の挑戦 東京都江戸東京博物館 http://www.davinci2016.jp/ 独自 別目的
16 デトロイト美術館展 上野の森美術館    http://www.detroit2016.com/ 独自 ×
17 あなたが選ぶ“この1点”頂上決戦 足立美術館 https://www.adachi-museum.or.jp/archives/exhibition/autumn2016 施設内
18 デトロイト美術館展 大阪市立美術館 http://www.detroit2016.com/ 独自 ×
19 始皇帝と大兵馬俑 国立国際美術館 http://heibayou.jp/ 独自 ×
20

六本木クロッシング2016展

森美術館 http://www.mori.art.museum/contents/roppongix2016/ 施設内

 

巡回の都合上、同じ展覧会が2つ入っていることはご了承ください。まず見てわかるとおり、20のうち独自ドメインが13、開催施設内が5、主催者サイト内が2となっています。そして13の独自ドメインのうち、展覧会の情報が残っているのはわずかに3つ。2016年ですよ?去年開催されたばかりの展覧会のサイトなのに、多くが、すでに情報が消えている。

調査は2016年5月25日現在の状況なので、今後さらに変化する可能性もあります。

消えているだけならまだ良い。一旦放棄されたドメインは誰でも再利用することが可能です。そして注目を集めた展覧会のURLは多くの信頼できるサイトからのリンクが張られているわけですから、はじめからある程度のSEO効果が狙えるようになっている。その結果、レオナルド・ダ・ヴィンチ展のサイトは、すでにクレジットカードアフィリエイトサイトに変身しています。

お名前.comで取得済のドメインや、現状は謎のポータルサイトになっているところも、今後、同じような使われ方をされる可能性があります。

 続いて、2013年の展覧会入場者数ベスト20の展覧会公式サイトがどうなっているか見てみましょう。(入場者数ランキングはhttp://www.art-annual.jp/news-exhibition/news/32481/によります) 

 【2013年入場者数上位の展覧会サイトの現状】 

1 深海-挑戦の歩みと脅威の生きものたち 国立科学博物館 http://deep-sea.jp/ 独自 別目的
2 ラファエロ 国立西洋美術館 http://raffaello2013.com/ 独自 別目的
3 プーシキン美術館 フランス絵画300年 横浜美術館 http://pushkin2013.com/ 独自 別目的
4 ルーブル美術館展-地中海四千年のものがたり 東京都美術館 http://louvre2013.jp/ 独自
5 ターナー 東京都美術館 http://www.turner2013-14.jp/ 独自 別目的
6 エル・グレコ展 東京都美術館 https://www.el-greco.jp/ 独自
7 スヌーピー展 しあわせはきみをもっと知ること 森アーツセンターギャラリー http://www.snoopy-exhibition.jp/ 独自 別目的
8 ミュシャ財団秘蔵 ミュシャ展 パリの夢 モラヴィアの祈り 森アーツセンターギャラリー http://www.ntv.co.jp/mucha/ 主催者サイト内
9 京都-洛中洛外図と障壁画の美 東京国立博物館 http://www.ntv.co.jp/kyoto2013/ 主催者サイト内
10 システィーナ礼拝堂500年記念 ミケランジェロ展-天才の軌跡 国立西洋美術館 http://www.tbs.co.jp/michelangelo2013/ 主催者サイト内
11 奇跡のクラーク・コレクション-ルノワールとフランス絵画の傑作- 三菱一号館美術館 http://mimt.jp/clark 施設内
12 フランス国立クリュニュー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣 国立新美術館 http://www.lady-unicorn.jp/ 独自 別目的
13 あいちトリエンナーレ2013 愛知県芸術文化センター https://aichitriennale.jp/2013/ 継続イベント
14 国宝 大神社展 東京国立博物館 http://www.daijinja.jp/ 独自
15 飛騨の円空-千光寺とその周辺の足跡- 東京国立博物館 http://enku2013.jp/ 独自
16 アメリカン・ポップ・アート展 国立新美術館 http://www.tbs.co.jp/american-pop-art2013/ 主催者サイト内
17 奇跡のクラーク・コレクション-ルノワールとフランス絵画の傑作- 兵庫県立美術館 http://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/t_1306/ 施設内
18 印象派を超えて-点描の作家たち 国立新美術館 http://km2013.jp/ 独自
19 国宝 興福寺仏頭展 東京藝術大学美術館 http://butto.exhn.jp/ (※) ×
20 若冲が来てくれました-プライスコレクション 江戸絵画の美と生命 福島県立美術館 http://jakuchu.exhn.jp/ (※)

 

 こちらも重複はありますが、20のうち独自ドメインが13、開催施設内が2、主催者サイト内が4、および「あいちトリエンナーレ」となっています。そして13の独自ドメインのうち、展覧会の情報が残っているのは2つ。2016年ですでに3つしかないのを見ていると、まだ残っている『大神社展』と『若冲が来てくれました』が非常に偉く見えてきますね。

放棄された独自ドメインについては、カードのアフィリエイトになったり、SEO対策サイトになっていたり、ケータリングパーティーの情報ページになっていたり。

一方で、2013年にしても2016年にしても、開催する美術館や博物館のサイト内に公式ページを置いたところはきちんと情報が残っていますし、また、メインの主催者サイト内に設置している場合も、きちんと残っている。ちゃんと情報を残している日本テレビとTBS、偉い。

【追記】「*.exhn.jp」も日経新聞ドメインでした。失礼しました。whoisすると、展覧会サイト用ドメインって感じですね(仏頭展は情報残ってないけど…)

一方、ちょっと不思議なのが「△」をつけたサイト。2013年のルーブル展、エル・グレコ展、円空展、点描展については、展覧会開催当時のサイトではないのに、概ね、開催した展覧会や、取り上げた作家に関連した情報が掲載されています。これが主催者によるものなのか、関係無い篤志家によるものなのかは、さらに調査が必要そうです。

ところでさきほど『開催する美術館や博物館のサイト内に公式ページを置いたところはきちんと情報が残っている』と書きましたが、これも万全ではない。やはり著作権の関係で終了すると消してしまうところもあるし、開催時と終了後の情報ではURLが変わっているページも多い。URLが変わるときに、ばっさりと内容が簡略化されてしまう場合も多い。

美術展はもちろん、主催者が商売としてやっているものではありますが、文化的側面を多く持ったものです。展覧会が終了した途端、Web上から情報を消してしまうのではなく、アーカイブ性をもっと確保できないものか。現状、過去(ここ5~15年ほど)に開催された展覧会の情報をweb上で調べようと思うと、熱心な個人の美術ブログやサイトが頼りになってしまう場合が多い。

過去には展覧会のサイトをしばらくは残しておいたものの、ウィルス感染などの問題が発生し、以後、展覧会終了後はすぐに閉じてしまうようになった、という話も漏れ聞きました。しかし、著作権の問題、費用の問題、維持管理の問題、さまざまな課題はあるとは思いますが、もう少し、展覧会公式サイトのアーカイブ性について思いを致していただけないものか、どこかで一括してアーカイブを残すなどの方法はとれないものか、いつも考えています。

 

【追記】ご指摘を受けました、分類で「独自ドメイン」としていましたが、(※)をつけたもの、「*.exhn.jp」については日経新聞サブドメインです。展覧会サイト用に取得しているドメインと思われます。失礼しました。

 

【5.26追記】

はてなブックマークでもいろいろな意見が出ているので、合わせてお読みください。展覧会に限らず、映画や各種イベントでも同じ問題を感じている人が多い。インターネットのアーカイブ性に限界を感じる事案。

はてなブックマーク - 実例から見る『展覧会の公式サイトが終了後すぐ消えてしまう問題』 - 日毎に敵と懶惰に戦う

開催館が各自過去ログ充実させるべき』はまったくそのように思います。少なくとも概要、展示リストくらいはちゃんと残るようにしてほしい。

独自ドメインや主催者サブドメインでページを作成する場合でも、開催館側にもちゃんとページがある場合も多いんですよね。例えば国宝展の場合、京都国立博物館側にも当該のページはある。自分もブログでリンクを張る場合、独自ドメインの展覧会サイトには張りたくないので、開催館側の情報ページに張るようにしています。

開館120周年記念 特別展覧会 国宝 | 京都国立博物館 | Kyoto National Museum

こういうのをちゃんと残してほしい。これは館によって温度差が激しくて、まったく情報がなくて困る館も多いのです。チラシのPDFだけとか、やめてほしい…。

また、開催館に情報がある場合でも別の問題があって、別のご指摘で『公立系の博物館・文学館のドメイン/nowexhibitionみたいなのも本当にやめて欲しい。ブログでリンクを張れない』とあるんですが、これも同意。すごく多い。はじめから展覧会終了後にも変わらないアドレスにしてほしい。上記の中だと、三菱一号館美術館は展覧会終了後に変えてしまっている。

個人ブログの場合、展覧会が終わったからリンクをメンテナンスしておこうなんて発想は、よっぽど熱心にSEO対策考えてる人でもない限り、普通はしてません…。記事執筆時点で死なないリンクが張れるようにしてほしいのです。

何百年も経っている作品の場合、著作権の問題ではなく作品貸出元との契約の問題なのでは、というご指摘もありました。確かにそういうのもあると思います。明示された契約でなくても、主催者や開催館として、作品所有者との末永い友好関係を維持するためにいろいろ配慮する部分もあるでしょうね…。