日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

北仲スクール『横浜「ラ系」宣言 ランドスケープデザインの未来を語る』

石川初さんが出席して横浜について対談…ということで、こういう講座に行ってきた。
http://event.telescoweb.com/node/10769
開催される横浜の北仲地区は、みなとみらい線馬車道駅北側にある地域。
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海岸通団地、旧帝蚕倉庫など味わいのある建物が残っていた地区なんだけれど、森ビルや都市公団などによって再開発の方針が決まり、建物は順次取り壊される予定になっていた
馬車道駅に隣接した「北仲地区」の再開発案がまとまる - ヨコハマ経済新聞
取り壊し前に、森ビルの肝いりで建築事務地所やアーティストが入居したり
北仲BRICK&北仲WHITE - 日毎に敵と懶惰に戦う
海岸通団地も、内部を見物する機会があったり
海岸通団地を見に行った - 日毎に敵と懶惰に戦う
海岸通団地再訪 - 日毎に敵と懶惰に戦う
取り壊し中の帝蚕倉庫もちょくちょく見ていたなあ
帝蚕倉庫 - 日毎に敵と懶惰に戦う
建物については、全て取り壊しではなく、一部は文化財指定されたりして残る予定になっていたのだけれど
横浜市文化財に5件が指定-「北仲BRICK」など - ヨコハマ経済新聞
横浜・北仲地区歴史的建造物一部を保存へ-旧帝蚕倉庫など - ヨコハマ経済新聞
その後の景気後退で、そもそもの再開発計画事態が頓挫、見直しを余儀なくされている状態。パークハイアット横浜を作る、みたいな景気の良い話はすっかり聞こえなくなってる。建物の取り壊しは、既に相当進んでしまったのだけれど…
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/0912080013/
さてこの北仲地区の、一時期『北仲BRICK』として利用されていた歴史的建造物にて、『北仲スクール』が行われることになった
7大学連携「北仲スクール」が横浜市と覚書締結-サブカル公開講座も - ヨコハマ経済新聞
この建物は、1926年に「横浜生糸検査所附属倉庫事務所」として建てられたもの。今回のスクールは、

カリキュラムは「都市文化創成」と「都市デザイン」の2部門を柱に、街づくり、美術、映像、演劇、音楽、マンガ、出版などのイベントの企画・運営を教育課程に組み込んだワークショップ型の実践教育を展開。「文化芸術創造都市の担い手」育成に取り組み、一般市民向け公開講座も開催することで、地域の「知の拠点」としての大学の役割発揮をめざす。

という内容のもの。隣接する、ヨコハマ・クリエイティブシティ・センターとの2会場にて行われる。すでに「都市文化生成」の部門として、11月25日に、gotanda6さんの講座『ケータイ小説的郊外』が行われた
明日の告知 - 【B面】犬にかぶらせろ!
【A面】犬にかぶらせろ!: 11月25日北仲スクール「ケータイ小説的郊外」告知
09/11/25「ケータイ小説的郊外」速水健朗 - Togetterまとめ
ほいでもって、この日、12月9日の講座は、「都市デザイン」部門の1回目。ラウンドスケープデザインについて、三谷徹さんと石川初さん、司会が中津秀之さんで対談を行う、という内容なのだった。前フリが長くなりました(笑)この地区についていろいろ思い入れもあるので、つい…(笑)

素敵な煉瓦の建物で、講座の開始は18時。会社を定時に飛び出して10分遅れで3階に辿り着いたら、すでに会場は満員!びっちり並べられた椅子にはもう空きが無くて、立ち見の人が5人くらい居る状態だった。主に学生さんが多く、出席すると単位になる人もいたみたい。
時間が経つにつれてさらに人は増えて、最後のほうには立ち見でも一杯、という大変な盛況ぶりだった。はじめに三谷先生によるお話、続いて石川さんのお話、その後、対談しつつ、いろんな人にマイクが廻ってやりとりをする…という内容で、20時終了の予定が20時45分くらいになっていたけれど、非常に充実して楽しい内容だった。内容を非常に詳しくまとめて下さった方がいるので、そちらにリンク
kuro-nicle
そして、iPhoneを使ってtsudaっていた方もいらっしゃいました。その方によるまとめ。後日の追加情報もあって素敵
横浜「ラ系」宣言 ランドスケープデザインの未来を語る - Togetterまとめ
tsudaっていた方によるエントリも
横浜「ラ系」宣言 〜ランドスケープデザインの未来を語る〜 - iccw blog // はてな避難所
それにしても、こういう会場行くと、会場内のはてなー率、ついったらー率が高いよね(笑)
イベントで、あとで「あ、同じ場所に居たのか!会いたかったのに」を回避する、その場でtwitterに接続しているユーザーを検... on Twitpic
内容については、kuro-nicleさんのまとめを読んでいただくとして、個人的な感想など。
三谷さんのお話では、品川インターシティーの中庭について、が非常に印象的だった。のっぺりした広場を作るのではなく、プライベートな庭を作ってしまうという発想。確かにあの場所は、歩いていて印象に残る場所なのだ。陰影があって、段差があって、木陰がある。
あらかじめ用法用途によるゾーニングを行って“使い方”を強制するのではなく、全体を一体的に整備しながら、空間の中に引っかかりを沢山作ることによって、公共空間でありながら私的空間として意識して使えるようにする、個人個人が場の使い方を考えられるようにする『庭』作りということに、とても感銘を受けた。
どうも最近、公共空間から『何もせずに滞留できる場所』『座れる場所』が減っている印象を受けている。ホームレス対策もあるんだろうけれど。一方で、近代の公園って、思想的にはデモ・集会の場所って考えかたもある。そういう立場からすると、プライベート化された庭空間化ってどうなんだ、みたいな発想もあるかもしれない(いや、わからんけど)。そのへんはもうちょっと考えてみたい。
みんなの宮下公園をナイキ公園化計画から守る会
いずれにしても、日ごろから考えていることのヒントになる話が一杯あって、非常に面白かった。
石川さんのお話は、横浜の地形についての解説が詳細で、これまた凄く面白かった。武蔵野丘陵の突端である野毛山台地と山手の台地、それに挟まれた入り江。埋め立てと台地の整形で発展してきた横浜の中心部は、まさに地形との戦いである、という話。
かつての横浜は寒村であり、港が出来て発展しはじめたのはわずかに150年前。それからの歴史だから、決して歴史が長いとはいえない。江戸時代的な『地形に制御される・地形を生かした開発』と、近代の論理による『ドボク的に強引な』開発が入り混じりつつ、地形の影響を色濃く残した開発になっている。
自分は野毛山台地の先端、野毛の切通しに面したところに住んでおり、野毛山台地、山手の台地、そして関内関外を常日頃から歩き回り・走り回っているので、詳細な地形図などを用いた説明が凄く興味深くて、新しい補助線を与えてもらえました。野毛とか山手は、地形が入り組んでいて、散歩がとても楽しいですよ
再び、根岸から本牧を散策して - 日毎に敵と懶惰に戦う
桜木町から桜散策 - 日毎に敵と懶惰に戦う
野毛戸部ぶらぶら - 日毎に敵と懶惰に戦う
横浜駅の近くの崖の上に建つお寺(三實寺)の話題も結構出たのだけれど、それについては、errieさんのtwitterまとめに詳しいです。ちゃんと歴史的経緯があったのね
横浜「ラ系」宣言 ランドスケープデザインの未来を語る - Togetterまとめ
さて、その後の対談の最中に、こんなつぶやきがあって…

えー、崖を固めてる擁壁を「楽しめない」のは土木の問題じゃなくて想像力の問題じゃないのか?ぼく、擁壁を庭として遊んでたぜ。
http://twitter.com/sohsai/status/6493205278

山の斜面をモザイク状に平面化して、住宅などに活用していっても、どうしても活用しきれない急斜面が残り、コンクリートの擁壁になる。また、その周辺に緑が残る。いわば、活用のあての無い部分に緑やコンクリートの擁壁が現れることになる。だから台地の途切れるところに緑地が沢山現れるわけだ。それは決して緑地に適した場所ではなく、不可抗力として緑が残ってしまった場所。
それであるならば、例えばコンクリートに固められた斜面をドボク技術を生かして宅地にしてしまって、平面の環境のいいところが緑地にすればいいんじゃない?なんて話をしていたんですね。
それに対して、いやいや、擁壁をネガティブに捉えるのは違うだろー、って立場から、大山さんが異議を唱えたわけです。そして、対談の最後に大山さんにもマイクも廻って、一頻りその話になった。
若い人たちにとっては擁壁は『すでにあった風景』であり、そこは遊び場であり、決してネガティブな場所ではない、むしろ積極的に楽しむ場所であった、という大山さん。
一方で、それは開発の“結果”として現れた現象をどう楽しむか、受け入れるか、という話である。これから計画し作り上げていくプランナー、開発者としてそのまま同調するわけにもいかない、という立場がある。
意図せずして表れた場所・建物・構造物をどう楽しむかという、都市生活者としての視点。用途用法をきっちり作り上げたいプランナー、都市計画家の立場…いや、プランナー側が『用途用法をきっちりと』というのも違うのだな。まさに今回の三谷さんの話にあったように、『公共空間をプライベートな庭化する』という意思により、個人個人が場の使い方を規定していく。そのような、視野の広いプランニングの可能性。
もっともこれも、ごく小さな単位の開発の中では難しいわけで、行政側のグランドデザインに入り込んだり、大旦那のようなデベロッパーが居たり、あるいは近接する開発をうまくマネージメントする長い時間と大変な手腕が必要な話であるんだけれど…
代官山の大旦那『旧朝倉家住宅』は嫉妬するほど広い - 日毎に敵と懶惰に戦う
最後の三谷さんのまとめ…というか学生のメッセージも、日本で流行っているようなミニマムな視点、細かいデザインと、海外に出て学ぶような視野の広い都市開発の視点、両方を取り入れられるようにしてください、というものだった。
とにかく、都市開発とか街歩きのなどの話題で、面白い視点か沢山得られる、すごく面白い講座であることは間違いないのだった。こういうものが無料で楽しめる、とりあえず横浜市にも感謝したいです。
次回以降も興味深い講座が沢山あって、例えば「サブカルニッポンのアーキテクチャ」という講座では


・12月16日 杉浦由美子『イケメンは好き?それとも怖い? 腐女子VSリア充 コンテンツと歴史における男性観の変容』
・1月20日 荘開津広『グラフィティ〜ストリート・アート』
・2月1日 五十嵐太郎『ヤンキー文化、ヤンキー建築』
・2月17日 倉科典仁×杉浦由美子『モテとホストと地方都市』


いずれも19時から21時まで。勿論無料。予約も必要ないです。いずれも、はてなーの大好物そうな話題です(笑)。今回の講座のシリーズも、次回以降、いろいろ企画してるみたい。興味のある方は、是非是非。