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神奈川県立近代美術館葉山『プライマリー・フィールド2』と葉山の海


今日で最終日の、神奈川県立近代美術館、葉山の『プライマリー・フィールド?』に行ってきた。7人の画家による個展の集合体、と言ったらいいのか
プライマリー・フィールド2 絵画の現在―七つの〈場〉との対話 Primary Field 2:神奈川県立近代美術館<葉山館>
会場に置かれていた図録を見たら、『個別性の強いのが敢えて言えば一貫性』というような、高校生が試験の小論文で苦し紛れで書いたような文章で展覧会趣旨が説明されていて…あ、いや、すみません、『高校生が』じゃなくて『自分が高校生のころに』ですね、うん、とにかく、一貫した展覧会と言うよりも、個展の集合として見たほうがいいのかもしれない。個別に面白い作家がいろいろいる。
敢えて自分なりに言葉を紡ぐとすれば、つまり、画家がその目で見たものを、具象として、いかにキャンバスに落とし込むか、画家と言うフィルターを通してどのように世界の見え方が提示されるのか。わりとそのあたりのところをプリミティブに見せてくれる展覧会なのかもしれない。
まず、入場してすぐにある高橋信行の作品が象徴的で、写真から絵を描いているのだけれど、風景などの注目したい部分だけをクローズアップしてシンプルにペインティングに仕立ててあって、余計な要素、情報を削ぎ落している。注目する部分はどこなのか、色遣いは実際の色ではないのに、その色で提示されることで極めて納得性が高くなるような色で塗られていて、色の塗り方にも揺らぎが無い。画家の目を通して風景をどう見るのか、逆にその絵画から、その絵を見る人な何を思い浮かべるのか、写真が発達した今日において、具象絵画というものの存在意義について、改めて考えさせるような、いや褒めすぎか、とにかく、展覧会全体を象徴するような作品が沢山並んでいると思う。
次の小西真奈の絵画、これは情報量が多くて比較的写実的なんだけれど、塗り方が面白い。平たい筆でザッザッと塗っていくような、即興性が高い絵。岩肌、水面、雪渓などの表現がとても特徴的で、面白い。絵を描くスピードが凄く早い人らしい。なんか、この岩肌が塗りたい、みたいな欲望が伝わってくる絵なんですね。
次の部屋は保坂毅…そう、この展覧会、完全に1人1室で、ほんとに個展の集合なのよね。『不定形の半立体状の支持体の各面に、響き合う色彩を塗り込めて構成するというチャレンジ精神あふれる抽象絵画』とパンフレットには書かれている。その構成する立体の形はきっちりしていて、幾何学的な構成になっているんだけれど、色の塗り方が、端的に言うと汚い(笑)画家が目指しているところの揺らぎなんだろうけれど、揺らぎですまんだろ、みたいな汚さ。こういう、半立体のカッチリした構成の作品って、色もカッチリしていることが多いので、この不思議な雑塗りが面白い、ような気がする。ちょっと見ていて不安を感じる。…いや、とても考えられた上の繊細な塗りなんだろうけれど、なんかぱっと見、そう見えるのよ…
三輪美津子の作品、ソファー…ですね。うん、ソファーだ。対象に対する距離感が不思議。今回の中では一番写実。作家自体の欲望とかが見えない。自我がどこにあるのか、そういう不思議な絵。それにしても、パンフレットに『終わりのない意義深い問いをわたしたちに突きつけてくるかのようです』こういうのはプロの美術批評の言説として市民権を得ていていいのか、みたいなことはたまに思います。いや、駄目と言っているのではなくて、どうなんだろう、みたいな純粋な疑問。
次の空間には自然光が少し差し込んでいて、東島毅の作品は巨大な抽象、なんだけれど、見れば見るほどこれは抽象では無いですね、具象だ。伊藤存の作品の部屋は開放的に明るい光が入っていて、冬の葉山の海が良く見える。自然光に照らされて、まるでふわふわそよめいているような、布の上に踊る刺繍で、浮遊感がある。最後の小さな部屋に並べられた児玉靖枝の、森や花、淡い色のそれらが、絵を並べることでグラデーションを描いており、とても綺麗だった。ちょっと、この会場にしては小さな部屋なので、窮屈な感じがしてしまいましたが。
というわけで、個々の作家の色が見えることは面白い。ところが、心に響く“この一枚”が無い。じゃあ構成で見せる展覧会かと言うと、全体の構成は、作家の選定も含めてかなり疑問。なんかいろいろ相反してるような気がする。解説しようとすれば解説する言葉はいくらもあるんだろうけれど、なんか茫洋とした展覧会ではありました。決して嫌いじゃないんだけどね
会場を出て、ちょっと海に降りる。葉山の御用邸がすぐそばで、静かな海。小さな漁船が沢山あるので、豊かな海なんだろうな。


家族連れ、サーフィンをする人、写真を撮る人などが、ぽつぽつ



芝生の上にポリスボックスがあって常に神奈川県警が詰めているんだけれど、ともかく、落ち着いていて静かな海で、好きです