日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

神奈川県民ホールギャラリー『さわひらき Whiri』

2007年の塩田千春展以来、毎年、大変興味深い大型インスタレーション展を秋に開催してきた神奈川県民ホールギャラリーですが、今年はさわひらき。2009年の『日常/場違い』、2010年の『泉太郎 こねる』、2011年の『日常/ワケあり』と、これまで見てきたものすべて面白く(塩田千春展を見ていないのが痛恨事)
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しかも、今回は大好きなさわきらき。不思議で幻想的な映像作品を作るさわひらき。家の中の家具や日用品の間を縫って小さな飛行機が飛んでいる映像がよく知られていると思いますがそのほか、まるでささやきのような映像作品をつくるひとで、特に自分は、2008年の、国立新美術館のアーティストファイルでの大型インスタレーションが忘れられない。
国立新美術館『ARTIST FILE 2008』現代の作家たち - 日毎に敵と懶惰に戦う
オオタファインアーツでの個展なども必ず追いかけてきたので、今回の展覧会はとても楽しみだったのだ。このギャラリー、広さが1300m2あり、ちょっとした美術館よりも展示スペースが広い。その全館を贅沢に使った展覧会になっている。
さわひらき Whirl | 神奈川県民ホールギャラリー
パラパラ漫画のように(実際には違うのだが)飛行機が飛んでいく映像《airliner》は、がらんとした部屋に小さな映像作品。大きな部屋なので大きく投影する、というようなことを、さわひらきはあえてしない。小さな映像作品のささやきを、近くによってそっと聞くような、そんな空間を作り出す。だいぶん進んだ先にある《for saya》も、休憩室のようなところに、ぽつん、の置かれている

ぽつん、と

地下に降りたところにある《Souvenir studt 1》も、バラバラに置かれた古い箱に収められた小さな映像、それは森であったり、光の中を馬が走っていたり、息をひそめて、近寄って

一方で、大きな映像作品も。《Souvenir study 2》は、星の動きと…あとの2面はなんだろうか?自然の動きの中にそっと身をおくような

Out of the Blue》は、奥行きにある展示室に大きな2つのスクリーン、そこに投影される静かな映像の空間

《Going Places Sitting Down》は、大画面3面に映し出されるのは、家の中の日用品の間を、洗面器の湖を、毛布の森に雪が降り積もる中を、ピアノの鍵盤の水際を、本の間を、木馬たちが静かに動き回る。椅子に座って、木馬たちを見続ける

そして最後の部屋、700m2の第5展示室には、2008年のアーティストファイルでも展示されていた、大インスタレーション《Hako》。6面の大スクリーンが、広い部屋の中にばらばらに置かれている。浜辺の花火、時計、見知らぬ街、森の中の社の神域、古い家の中、海と飛んでいく鳥…言葉にしてしまうと陳腐になってしまうのだが、圧倒的に美しく幻をみるかのようなそれぞれのモチーフが、それぞれのスクリーンで映し出されていて。しかしバラバラに配置された映像の、すべてを一目に見ることができない

広い部屋の中を歩き回り、あるいは吹き抜けの部屋の2階から、壁際のベンチに座って、映像の前に座り込んで、いろいろな角度から、組み合わせによって違う印象を受ける映像の中を回遊する。ずっとここにいたい、映像の中に身をゆだねていたい、そういう気持ちになるような空間。あんまり心地が良くて、ずいぶん長い時間、この部屋にいてしまった。作品の長さとしては12分なのだが、何度も繰り返し、自分だけの場所をみつけながら、見ていたくなる。
とにかく、素晴らしい展覧会でした。写真撮影も自由で…と言っても暗くてなかなか難しいのだけれど…どんどん撮影してblogなどで紹介してください、と書かれておりました。300部限定のカタログも、なかなかよいつくりで買ってしまいましたよ(すでに残り100部とか)。


静かな音楽もとても良くて…とにかくほんとうに静かなので、寝不足で行くと椅子に座っている間に寝てしまうかもしれないけれど、ふっと目が覚めると映像の中に自分が身を置いている、それもまた心地よい、そんな展覧会なのでした。11月24日までなので、お早めに。(25日の日曜日はもう終わってます)公式の紹介映像もあがってます