日毎に敵と懶惰に戦う

はてなダイアリーから引っ越しました。酒と食い物と美術と旅と横浜と建築と演芸と…

高円寺円盤『モノガタリ宇宙の会』で江州音頭のレコードを聴く

大学で落語研究会に所属し、その大先輩に小沢昭一さんがいたという経緯もあってか無くてか、昔から民謡や音頭、節談説教などなど…

また又「日本の放浪芸」

また又「日本の放浪芸」

語り芸全般には並々ならぬ興味を抱いていた。特にその目を開かせてくれたのは、今は無き『上野文庫』店主の中川道弘さんであった。
複雑な経歴を経て、池袋リブロの店長を経た中川さんが御徒町で開店した伝説の古書店『上野文庫』…明治期から昭和にかけての諸芸全般や花街犯罪エログロなどなど、神保町のお堅い古書店は扱わぬ珍しい本を大量に扱い、その作成した通販図録はそれだけでひとつの貴重な書物になるような不思議な店でアルバイトをする機会に恵まれた私は、作業の合間、各地の民謡や浪花節河内音頭などなどを聴かされ、節の語りの魅力にどんどん引き込まれていった。
そんな自分にとっていちばん好きなミュージアムは、もう文句なしに大阪の国立民族学博物館であり、特に最近リニューアルされた音楽のコーナーは、心躍りすぎてどうなってしまうかと思った
『みんぱく』を中心に、ある日の大阪日記 - 日毎に敵と懶惰に戦う
しかし、悲しいかな関東の人間、まったく知らなかったものがあり、それが江州音頭であった。いやさ、聞いたことはあったのかもしれないが、意識したことが無かっただけかもしれない。最初に耳についたのは、京都の『遊亀』であった
酒鈴の会、長寿金亀を愉しむ会で、大好きなお酒に溺れる - 日毎に敵と懶惰に戦う
その魅力的な節回しに、最初は酒の仕込みの唄かなにかなのかと思っていたのだが、それが江州音頭なのだという。『遊亀』を経営する蔵元『岡村本家』が所在する近江は豊郷がその源流なのだという。その豊郷へも訪れる機会を得た
聖地豊郷…江州音頭と『岡村本家』の豊郷を訪ねて - 日毎に敵と懶惰に戦う
その中で出会った衝撃が初代桜川唯丸師であった。その人は大阪の花博で怪しげで魅力的な節を披露していた。なんやこのおっさん…

そして、その一門の音頭でグルーブする若者。なにがおこってるんや…

大阪や周辺の盆踊りは、河内音頭江州音頭でみなが踊るという。なんという魅力的な世界。なぜわたしは、これまで知らなかったのか。そしてこのキレのいい踊りを披露するおばちゃんたちはどうしたことか。ほんとうに今のことなのか

心躍る、これが日本のほんもののソウルミュージックなのではないか。そう思った時から、江州音頭への思いは募るばかり。復刻された桜川唯丸のCDも入手した
Beats21 - 江州音頭・桜川唯丸の名作『ウランバン』が復刻
しかし、革命児、初代桜川唯丸師は1995年に一身上の都合から引退しているのだという…と聞いていたのだが、なんと近年活動を再開し、通信講座をはじめた!という情報を手にした
初代桜川唯丸江州音頭通信講座「モノガタリ宇宙の会」 OFF NOTE CD NET SHOP
そして、その師を招いて、江州音頭の戦前のレコードを聴く会があるという。これは万難を排しても行かなければなるまい。
公開講座@高円寺円盤 OFF NOTE CD NET SHOP
残念ながら当日、桜川唯丸師は体調不良で不参となったが、御年77、早い回復を祈りつつ、しかしとても魅力的な会だったのだ

巷間芸能研究家岡田則夫さんの解説を聴きながら、大正〜昭和初期のSP音源で、江州音頭河内音頭、さらに万歳の中の音頭、阿呆陀羅経にヤンレ節…貴重なレコードの数々、20枚以上を聴くという機会。まさに関西の芸能の源流を丁寧になぞるような、素晴らしい体験だった。

これまで、江州音頭はそれこそyoutubeで、初代桜川唯丸師のそれや、最近のヤグラ(盆踊り)しか聴いたことがなかったので、ギターとかキーボードとか入るのがスタンダードだと思ってた。しかし源流においてはもちろんそんなことはなく、大正から昭和初期の錫杖と太鼓だけが伴奏。その力強い声と節の数々が素晴らしいし、いちいち声が渋くてよい。また、それぞれのバリエーションもまた、面白い。河内音頭を名乗っていても、そのまんま江州音頭だったりもする。河内でやっていれば河内音頭らしい。
江州音頭には途中でデロレン祭文が入るのだが、やはり江州音頭もルーツは祭文であり、語り芸と宗教は切っても切り離せない。
そして話はひろがる。明治期には音頭だけの寄席があったのだけれど、そこに尾張万歳などに学んだ万歳が取り入れられ、徐々に万歳のほうが主流になっていく。その初期に活躍した砂川捨丸や桜川惣丸や玉子家円辰ら…音頭と音曲としゃべくりの境目の数々の音源には、芸能が変遷していく軌跡を辿るような魅力がたくさんつまっていた。吉本で戦後も活躍した女性万歳の走り、桜川末子花子の全盛期の見事な音源も聴くことができた。中に『虎造節入り』というのがあり、虎造はもう、それで芸能の一ジャンルなのだな…
近江の八日市、豊郷を発祥に、大阪奈良京都に広まり、さらに河内音頭などへと変容融合し、そして大阪の芸能の主流となる万歳などへと変容していく。勿論、江州音頭としても発展していく。そのグラデーションの部分を、岡田さんのコレクションから厳選したレコードで辿っていく実に濃密な2時間半。最後には、初代桜川唯丸師の音源、50年以上前の26才の時のものと、1985年の櫓のもの、ギターや三味線やドラムセットが入った賑やかなものを聴き、改めて江州音頭の多様性に想いを馳せてお開きになった。正調あってなきがごとし、江州音頭の魅力。
レコードの合間に聴く、岡田さんの話も面白い。昭和40年代の新世界の新花月の雰囲気、客は釜ヶ崎の男ばかりで、焼きもしないスルメを齧りながら酒を飲み、出てくる漫才師噺家、みなバレ話ばかりやり、途中には太鼓が出てきて普通に河内音頭が混じる…角座とはまったく違う雰囲気…そんな貴重な経験談など、また興味深いものだった。
この日は大阪から、現役で音頭のギターを弾いていて、しかもレコードの収集をしている方もいらっしゃっていて、そのお話がまた、理解の助けになってとても良かった。各地で音源採取もされていて、YouTubeにも上がっている。これもまた聴こう
ishidumaru - YouTube
そして今年こそは錦糸町河内音頭、行かねばなるまい…
イヤコラセ東京
民謡のDJをやっている、という方ともお会いし、なにやらまた、いろいろと視界を広げさせていただいたような濃い一日であったのです。そうそう、河内音頭江州音頭から派生した珍品を集めたこれは、なかなかに面白いので、ご紹介しておきます
世界最強河内系歌謡曲集 カワチモンド

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世界最強河内系SONGS/続、続々カワチモンド

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