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山種美術館『花*Flower*華-琳派から現代へー』

山種美術館で開催中の展覧会、『花*Flower*華-琳派から現代へー』を見てきた。

【企画展】花 * Flower * 華 ―琳派から現代へ― - 山種美術館

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写真はすべて、内覧会で許可を得て撮影したものです。

山種美術館といえば日本画専門の美術館であり、特に近代の日本画が中心であり、着物のお客さんが多そうなイメージであり。昨今、特に人気の高いブームの若冲琳派や浮世絵を中心とした近世日本画には興味はあるけど、このあたりはそれほど…という人も多いかもしれない。

しかし、ここの美術館、別に近代の日本画ばかりじゃないのである。例えば今回展示されている屏風。 『竹垣紅白梅椿図』(作者不詳・山種美術館)【重要美術品】

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作者は不肖だが、かなり腕のある手による近世のもので、活きた竹をそのまま活用した竹垣に、咲き誇る梅や椿。正面から捉えた右隻と、湾曲した左隻で、川の流れのような別のリズムを生み出しているのが面白い。一見、光琳風だが、光琳に先行するものか。近づくと鳥がいっぱいである

『竹垣紅白梅椿図』(作者不詳・山種美術館)【重要美術品】(部分)

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 あるいはこれは、鈴木其一『四季花鳥図』(山種美術館) の部分。鈴木其一特有の、硬質なのに活き活きとした草花と鳥の表現がとても良い。あとひよこかわいい…。近世絵画のひよこは、なぜみんな、こんなかわいいのか

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展示は季節ごとにわかれており、酒井抱一『菊小禽図』『秋草図』(いずれも山種美術館が並んでるのも好き。右は木村武山『秋色』(山種美術館

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田能村直入は幕末から明治にかけて活躍した人。今回のメインビジュアルにもなっている田能村直入『百花』(山種美術館)(部分)は、清朝絵画を意識したような色とりどりの花が美しい

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田能村直入『百花』(山種美術館)(部分)

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もちろん、近代の作家にも良いものはたくさんある。あまり日本の画壇的なものに好感を持っていなかった時期から、奥村土牛は好きだったんでけれど、山種美術館奥村土牛作品の宝庫。代表作のひとつ、奥村土牛『醍醐』(山種美術館

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淡い色の中に生命力が溢れていて、好きなのです。この桜、素描ではもう少し引いた視点で捉えていた物から、左右をバッサリ落として、画面いっぱいの作品に仕上げたそうな。今回は奥村土牛作品、これを含めて6つ展示されていて、季節ごとや、土牛自身の年齢による表現の違いを見ると楽しい。こういう、淡いイメージが強かったんだけど、若い頃はもっとパキッとした絵を描いてたんですね。

速水御舟も昔から好きな画家で、山種美術館はあの『炎舞』をはじめ多くを所蔵しているわけですが、今回は水墨の中に色を挿している『桔梗』も良いし、『写生帖』も良かったし…

そうそう、写生といえば、小茂田青樹『四季草花絵巻』(山種美術館丁寧に写生された草花の横のメモ書きがなんかかわいくて良い

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そして加山又造。写真は無いんですが、今回、加山又造『華扇屏風』は素晴らしい。加山又造琳派を意識した画とデザイン性は、祖父が四条丸山派の絵師、父が西陣で着物の図案家をしていたという家からも影響を受けているだろう。やはりわたし、日本画は京都系列のほうが好きなんですよね…

で、そういう観点からすると、横山大観については正直、あまり好きではなく。敗戦直後も富士山描いてるあっけらかんとした心象とかどうなっているだろう…と常々不思議だし、京都系の日本画好きにとっては、大観め…的な思いも無くはないんですが。この、横山大観『寒椿』(山種美術館

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あんまり肩に力をいれず、こういう感じで脱力した作品はわりと好きです。順に見ていくと、四季それぞれの花の、いろいろな作家の表現の違いがあって、面白いのだった。

あまり多くは作品紹介しないけど、今回、作品数は60点あるので、お気に入りは各自いろいろみつかろうかと思う。千住博というと、あの滝の人…と思うでしょうが、今回展示されている40代の作品『夜桜』は、ほお、と思った。

山種美術館は展示室が2つあり、小部屋のほうは牡丹特集。部屋に入っていきなり正面に鈴木其一の『牡丹図』と渡辺省亭の『牡丹に蝶図』がならんでして、近年、株が特に上がっている2人の作品を並べて鑑賞できるのだった

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左:鈴木其一『牡丹図』(山種美術館) 右:渡辺省亭『牡丹に蝶図』(個人蔵)

写真はすべて許可を得て撮影したものだけれど、今回、いつでも、酒井抱一『月梅図』は撮影可能とのこと。

美術館での写真撮影も、許可したらしたで落ち着いた鑑賞そっちのけで写真撮影大会になってしまったり、狭い空間だと鑑賞者と撮影者でお互い邪魔になったり、なかなか難しいところではあるけれど、最近は一部でも撮影可能な展覧会増えてますね。記念や思い出にも、1つだけですがどうぞ、というのはわりと良い発想と思う。

そうそう、ここの美術館、毎度、展示した作品をイメージした和菓子がカフェで提供されているんだけど、今回もよくできている。特に紫陽花の再限度が素晴らしい。

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で、地階のショップを見ていたら、やはり和菓子がありまして

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これ自体はレプリカの和菓子なんだけど、それより何より、懐紙と菓子切りである。この猫、山種美術館所蔵の速水御舟『翠苔緑芝』からとられているもの。

翠苔緑芝 文化遺産オンライン

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菓子切りも紫檀製で、 なかなか良い猫グッズ…と思ったのだった。というわけで、最後は企画と関係ないけど!山種美術館『花*Flower*華-琳派から現代へー』は6月18日まで開催中です。

あと、山種美術館の次回展覧会は川端龍子なんだけど。この方、生前に自分で設計した自分の美術館建ててしまっているんだよね。大田区立龍子記念館。ちょっとアトリエを改装したくらいの展示室があるのかな、と思ったら、天井高くて広くてメチャクチャ立派。特大の作品がどどどーん、と並ぶ様はかなりの圧巻。1日3回、向かいの自宅とアトリエも案内してくれるらしいので、行くとよろしいかと思います。