日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

今日の一冊

内田百輭阿房列車
言わずと知れた紀行文の名著。阿川裕之の「南蛮阿房列車」や宮脇俊三に繋がる鉄道紀行の始祖。

”甚だ旨くない。「東北本線沼宮内だよ、貴君」「はあ」”
”朝から何も食べていない私が空腹なので、朝も食べた山系君は輪を掛けて空腹なことだろう”
こういうなんだか良く分からないフレーズが真骨頂。志ん生に通じるところがある。
フレーズとか間とか、文章そのものから立ち上ってくる何ともいえない可笑しみの美学なのであるから、旧カナで読まないと意味が無いはず。しかし、旺文社文庫が無くなって以来出ている福武文庫、ちくま文庫新潮文庫、すべて新カナなのは狂気の沙汰。
旧カナで一番手に入りやすいのは旺文社文庫だが、時々出るのは全集の一部としての阿房列車。保存用としては津軽書房から出ている限定版、持ち歩き用としては六興出版から出ている小型版が良い。私は後者の二つとも持っているのだが、なんだか勿体無くて、読み直すときは結局、旺文社文庫で、ということになる。