日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

図書館に行った−シアトル公共図書館でのホームレス支援の例

横浜市立中央図書館に行ってみた。ものすごく近所なのに、この野毛に引っ越して以来、ほとんどマトモに行ってなかったんだよね…。平日8時30分まで開館している、一部では『がんばりすぎ!』とも言われている横浜市立中央図書館ですが(これも参照)
京阪神は図書館の休館日が若干多い - 日毎に敵と懶惰に戦う
書架、閲覧室とも明るく広く、蔵書は豊富で、4階にはパソコンを持ち込んで作業ができるスペースも沢山あり、地下にはビデオの閲覧コーナーもちゃんとあるし、これはもっと利用しないと損だわ…と改めて思った次第。
で、最近話題の図書館とホームレスの件。ちょっと見ただけなのでなんともいえないけれど、この野毛は横浜のドヤ街『寿町』とも比較的近いわけで、ホームレスの人の利用が結構あっても不思議ではない。今日見た限りではホームレスらしき人はほとんど見かけなかったけれど、連続して観察しているわけではないので、はっきりしたことはいえません。だけれども、入り口に『飲酒している人はお断り』のポスターがデカデカと貼られており、警備員も配置されているので、酒気帯びの人はおそらく入場することができないんだろうなあ、と思われます。
さて、ここで、今日はこの本を借りました。

図書館はだれのものか―豊かなアメリカの図書館を訪ねて (中部大学ブックシリーズ)

図書館はだれのものか―豊かなアメリカの図書館を訪ねて (中部大学ブックシリーズ)

図書館がホームレス排除に苦心しているとかいう件についての私からの提案 - planet カラダン
あたりを発端にして盛り上がっている、図書館とホームレス問題についてちょこっと調べていたとき。アメリカの図書館の現状についてのこの本に、『究極のビジネス支援としてのホームレス対策』というのがあったからなのであり。興味を惹かれたからなのでありまして。で、その一節を引用してみます。

日本のホームレスも、公共図書館では利用者と図書館員からの評判は芳しくない。彼らも基本的人権で守られた人間であり、図書館員は利用者への差別は許されない。だが理不尽な行動(洗面所での洗顔から洗濯、炊飯や閲覧席での大いびき)は、公共性を維持するマナーの問題である。この現象はほぼ日米ともに同じであり、いずこも不愉快な行動に対しては、お引取り願っている。
だがシアトル公共図書館のホームレスへのサービスは、ニューヨーク公共図書館科学技術ビジネス館(以下NYPL/SIBL)のビジネス支援サービスを超えて、彼らに職業支援を具体的に実施していて、仰天した。シアトルはすべての人間に開かれた図書館を目指している。多言語サービスももちろん展開しているが、この「すべての人」には、ホームレスの人たちも当然含まれている。
なかでも特に感心したのはホームレスの人たちに対する配慮である。ホームレスの人々の図書館利用については、世界のどこでも図書館員の頭痛の種でありつづけている。アメリカでは一応1980年代に連邦最高裁の判決が出て、ホームレスの人々もサービスを受ける権利が確認されている(クライマー事件)。だが最近でもテキサス州でホームレスの図書館利用が問題になっている。この難問を積極的に解決しようと取り組んでいるシアトルの姿勢は大きく評価されてよかろう。
シアトルでは図書館内での飲食について2箇所に限定している。最上階の閲覧室と3階のコーヒー・カートのまわりである。コーヒー・カートでは、ジュース、コーヒー、サンドウィッチなどを購入して軽食を摂ることができる。コーヒー・カートの運営を担当しているのは、実はホームレスの人々なのである。NYPL/SIBLに通ってホームレスから企業家に転進した人々、アメリカン・ドリームともいえる成功例を菅谷明子は紹介しているし、NYPL/SIBL自体ホームページでさまざまな起業講座を開催していることを広報している。しかしながらホームレスの人々を雇用し、コーヒーのたて方から収益の管理まで実践しているのが図書館とはなんという名案であろう!この説明を聞いたときは、快哉なるかな!と爽快な気分になった。もちろんコーヒー・カートのスタッフがホームレス出身とは誰も気づいている様子もない。小ざっぱりした服装である。学歴に関係なく最低限の仕事を身につけさせ、その延長で起業のノウハウを実践させる。スキルを身につけさせて、一人前になった段階で、就職先を紹介するのだという。青少年フロア(アメリカ図書館協会ではYAサービスと呼んでいる)のカウンターは、シアトルに本社をおく今や世界の「スターバックス」の寄付による。この「スターバックス」をはじめとして、市内のサンドウィッチ店やキャフェテリアが雇用先である。こうした人間的な温かさはシアトル独特の地域性だと思われる。

『ホームレス百科事典』(Encyclopedia of Homelessness)が2004年に刊行されたが、このなかには図書館利用問題もきちんと取り扱われている。日本では2005年春先に雑誌『ビッグ・イシュー』で、図書館の利用を懇切に紹介している。これは小さいが、日本では大きな一歩かもしれない。

なお、クライマー事件については、こちらで詳しく取り上げています
クライマー事件の概要(1) - 火薬と鋼
この本、シアトル公共図書館の話題を中心に、アメリカの図書館の最新情報がわかりやすく読めるので、オススメです。中に掲載されている写真は、ここでも見ることができるとのこと
10+1 web site|テンプラスワン・ウェブサイト|Photo Archives|54 図書館
建築としても興味深い…一度行ってみたいなあ