日毎に敵と懶惰に戦う

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『ひとり旅を実際にしたことのある人は6%』は母集団の問題以前に嘘くさい

ここで話題になっている

ひとり旅をしてみたい70% 実際にしたことあるのは6%

http://news4vip.livedoor.biz/archives/51234805.html

ですが、自分の印象では『6%』しかしたことないのか?っての正直な感想。ブクマコメでもそういう反応が多いですね。
はてなブックマーク - 【2ch】ニュー速クオリティ:ひとり旅をしてみたい70% 実際にしたことあるのは6%
ほいで、元になっている西日本新聞のコラムを読むと

「ひとり旅をしてみたい」と考えている人は7割を超える…

「ひとり旅をしてみたい」と考えている人は7割を超える−。大手旅行会社・JTBが今年5月にアンケート結果を発表していた。10−80代の男女計約3200人に尋ねたという
▼ひとり旅を実際にしたことのある人は6%しかいなかった。したくてもなかなかできないのがひとり旅だ。そんなときは想像の世界を旅するのも一興。当方は「旅に出たくなる日本語」(福田章著、実業之日本社)によくお世話になっている
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/54316

ということで、JTBのwebアンケートの結果だ、ということで、ブクマコメントでも

blackseptember そんなに少ないの?????/ 考えて見りゃ一人旅だとJTB使わんからな。 ユースなんてシーズンオフならその日に電話入れれば取れるし。
baji 社会, んなこたぁない >6% ひとり旅する連中がJTBなんか使わないだけ。HISがやったら60%ぐらいになるんじゃない?

という指摘が多かった。ワタシも、母集団のせいでそういう調査結果になっているんだろうなあ、と咄嗟に思った。というわけで、念の為、元のソースをあたってみることにした。JTBのサイトには、PDFの調査結果がありましたが
http://www.jtbcorp.jp/scripts_hd/image_view.asp?menu=news&id=00001&news_no=875
実際にアンケートを行っているサイトにも結果が載っていました

76.2%の人が「ひとり旅をしてみたい」と思っている。

76.2%の人が「ひとり旅をしてみたい」と回答。しかしながら財団法人日本交通公社が調べた「観光レクリエーション旅行でのひとり旅」の調査によると、実際にひとり旅に出かけた人の割合は6.2%にとどまっています。今回の調査とあわせて考えると、実に70%の人が「ひとり旅」に行きたいが実際には出かけていない人と言えそうです。潜在的な「ひとり旅」への需要がありそうです。
http://www.jtb.co.jp/myjtb/questionnaire/pr/0805_result.asp

………???
どういうこと?このアンケートのテーマは『ひとり旅』で、他にも『ひとり旅をするなら、どのタイプの場所に行きたいですか?』『ひとり旅に行く理由は何ですか?』『どれくらいの期間ひとり旅をしたいですか?』『ひとり旅ができない理由は何ですか?』という設問がある。でも、『実際にひとり旅に言ったことはありますか?』って設問は無いんですね。その部分は、

財団法人日本交通公社が調べた「観光レクリエーション旅行でのひとり旅」の調査

を見るしかないらしい。そもそも調査の母集団も違うのだ。というわけで、そっちの調査の結果があるか、確認してみます。しかしながら、web上には、その調査結果に該当するデータはありませんでした。しかし、どうやら、年一回で発行している『旅行者動向』という本には、その調査結果が載ってそうな雰囲気です。amazonでは2005年版しか入手できないっぽいですが、今年度版も出ているようです

財団法人日本交通公社のサイトには、各年度版の概要紹介が載っており、たしかにひとり旅に関する調査結果もあるようでした
http://www.jtb.or.jp/modules/report/index.php?content_id=30 2004年
http://www.jtb.or.jp/modules/report/index.php?content_id=21 2005年
http://www.jtb.or.jp/modules/report/index.php?content_id=11 2006年
http://www.jtb.or.jp/modules/report/index.php?content_id=8 2007年
提言・研究レポート | 公益財団法人日本交通公社 2008年
ただし、このダイジェストを見る限りでは、どうも『実際にひとり旅に出かけた人の割合は6.2%』が嘘くさいんですよ。一部、関係ありそうな項目を引用すると…

図3は、過去3年間に実施された国内宿泊旅行※1における「ひとり旅」の年代別シェアを示しています。
http://www.jtb.or.jp/modules/report/index.php?content_id=30

とあって、年代別性別の傾向しかないので詳細わかりませんが、この前年代性別の合計が『6.2%』だったとしても(明らかにそれより高そうですが)、『実際にひとり旅に出かけた人の割合は6.2%』とは到底いえないでしょう。また、

団塊ジュニア世代』が好む旅行は“ごく親しい人との気軽な旅行”
http://www.jtb.or.jp/modules/report/index.php?content_id=11

とあって、“団塊ジュニアの旅行同行者”という調査項目があり、これのうち、『ひとり旅』の割合が4.8%とはなっている。しかしこの項目の質問の仕方がわからないのでなんともいえないけれど、おそらく『どのような形態の旅行が多いですか?』みたいな聞き方をしたと思われます。そして回答項目は『子供連れ家族旅行』『夫婦旅行』『友人旅行』『親子旅行』『3世代の家族旅行』『ひとり旅』となっている。
このような形式だったら、『実際にひとり旅に出かけたことがある』人が『ひとり旅』と答えるわけじゃありませんよね。他の形式で回答している人でも、ひとり旅の経験者は沢山いるでしょう。



いろいろ見ていくと、どうやらこれは『ひとり旅を実際にしたことのある人は6%』ではぜんぜんなくて、『最近の主な旅行形態はひとり旅である』ひとの割合が6%なんじゃないかなあ、という気がしてきます。念の為、後で図書館でこの『旅行者動向』を見てみようとは思いますが…(横浜市立中央図書館にあるようです)
というわけで、旅行会社の調査としては、『ひとり旅をしたいけれどなかなか出来ていないひとが沢山いるから、その人向けの企画商品を出していこう!』って資料にするのは間違っていないんだけど、どうにもニュアンスが間違って伝わっているなあ、と思うわけでした

[追記]調べてきました

図書館で調べてきました。その結果、以下のことがわかりました

・2006年10月に、全国18歳以上の個人(調査会社のパネルより抽出)に郵送調査
・4000人に発送し、2151人から回収
・このうち、2005年10月から2006年9月までに国内へ観光レクリエーション旅行をした人は1306人、延べ旅行回数は2977回
・この2977回のうち、ひとり旅の割合は6.3%
・同様に、2005年10月から2006年9月までに海外へ観光レクリエーション旅行をした人は210人、延べ旅行回数は272回
・前年調査で、2004年10月から2005年9月までに海外へ観光レクリエーション旅行をした人は186人、延べ旅行回数は231回
・前々年調査で、2003年10月から2004年9月までに海外へ観光レクリエーション旅行をした人は211人、延べ旅行回数は272回
・3ヵ年の合計旅行回数775回のうち、ひとり旅の割合は6.2%

ということで、『6.2%』の意味するとことは、概ね『過去1年間に行われた旅行の延べ回数に占めるひとり旅の割合は6.2%』*1ということが判明しました。『ひとり旅を実際にしたことのある人は6%』とは、かなりニュアンスが違うと思います。まあそれにしても、思ったより少ないなあ、という感想は変わらないですけどね…
財団法人の調査からJTBのWEBアンケート結果へ、また、JTBのアンケート結果から西日本新聞の記事へ、それぞれ飛躍があるように思いますが、どっちかというとJTBのWEBアンケートの中の人のほうがより迂闊であるような気がするなあ

*1:さらに言えば、グループ旅行は参加人数分カウントされている可能性…とかありますが、標本抽出の問題とか面倒なのでそれはもう考えないです。この財団法人の調査自体は、資料を読む限りは、ちゃんとした人がやってるみたいでした