日毎に敵と懶惰に戦う

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日本科学未来館で『科学で味わう日本酒』

日本科学未来館で行われた、『科学で味わう日本酒』というイベントに行ってきた。昨年、ワインで同じようなイベントを行ったらしい。今回、60人の募集に対して、234人の応募があったとのこと。運良く当選したので、行って来ました。
日本科学未来館は17時閉館で、イベントは19時から。通用口から続々入場して、夜の科学未来館の5Fカフェでのイベントです


座席に座ると、さっそく、日本酒が8種類、プラスチックカップに入れて運ばれてきます…実は、『W』は白ワインだったんだけどね

それにしても、なんだかいろいろごちゃごちゃと並んで、机の上が忙しないです…

今回の先生は、酒類の香味成分研究などを専門にしている、独立行政法人酒類総合研究所主任研究員の宇都宮仁さんと、 日本酒スタイリストの木村克己さん。木村さんは元はソムリエで、その後、日本酒の利酒師の資格を創設した人。
最初に、日本酒の香りについて。科学的にはガスクロマトグラフ質量分析計を使い、香味成分の分析を行うんだけれど、香りによって実際の強さと人間の感じ方には差がある。ほいで、日本酒の香りとしては200種類とか300種類とかあるのだけれど、評価するために、統一した官能評価軸が必要…というわけで、日本酒の香り評価には、以下の7つの香りを軸にします、というわけ。
それが、 バナナ・メロン/りんご・洋なし/アルコール・スパイス/木・草・緑/米・麹/カラメル・醤油/ヨーグルト・チーズ の7種類。今回、その香り成分の見本が配られており

さっそく、それぞれの嗅ぎ分け。ん、たしかに、はっきりとそれとわかる香り。で、これを元に、日本酒の香りを実際に利いてみましょう、というわけで。勿論、日本酒の香りはいろいろな香りが複雑に混ざっているんだけれど、今回は香りがわかりやすい日本酒ということで、イロハニの4種類が用意されていました。実際に香ってみると、イ・ロは所謂吟醸香で、イはバナナ、ロはりんご。ハは樽の香りがして、二は熟成させたあまーい香り、これはカラメル系か。うん、まだ香りはわかりやすいぞ。こういう香りが日本酒の瓶に表示されることはあんでしょうか?という進行役の人の質問に対して、木村さん『無理でしょうねえ…ソムリエ出身の私が日本酒の利き酒をするとなると、日本酒をワインみたいに変な表現で評価して!みたいな反発がありましたから』などと。
次に『甘口・辛口』について。まずは『ロ・ハのどちらが辛口でしょうか?』ということで、評価。ん、『ハ』と答えたけれど…。みんな評価が分かれているな。日本酒の『甘口・辛口』というと、所謂日本酒度が一般的な評価軸になって、とりあえず、日本酒度は表示されていることが多い。ほいで、この日本酒度、溶け込んでいる成分が重いほどマイナスとなり、溶けているのはほとんど糖類だから、マイナスになると甘口、と評価されるわけです一般的には。
ところが、今回の日本酒、ロは日本酒度+6で、ハは日本酒度+3。なのに、ハのほうが辛口に感じられるのはなぜなのか?
人間の味覚として、甘口辛口の基準になるのは、ほぼ、その日本酒の酸度と、含まれるぶどう糖の量であるとのこと。実は『ハ』のほうが酸度が高い。そして、比重は『ハ』のほうが重いのだけれど、ぶどう糖の量は『ハ』のほうが少ない。それで、『ハ』のほうが辛口に感じるのです、ということ

だから、日本酒度だけだと甘口・辛口はなんとも言えないのだね。こういう、酸度やぶどう糖が表示されているともっとわかりやすい、と。
さてはて、休憩時間となり、食べ物と評価シートが配られます


ん、ここからは本格的にテイスティング、食べ合わせの確認。なんだか『科学で』ってのとちょっと離れてきたような…。まあいいや。豆腐、コハダの昆布〆、チャーシュー、チーズと、日本酒3種類、白ワイン1種類の食べ合わせ。日本酒は1が香りが強めの吟醸酒、2が主張の強くない辛口の酒、3が個性の強い…山廃かな、というお酒。日本酒の銘柄は、先入観を持たないように…ということで、最後まで教えてくれないのです。
で、テイスティングするんだけれど、んん、豆腐が結構美味しい。いや、そういうことじゃなくて。食べ合わせてみると、ワインは合わせるものを選ぶけれど、日本酒は概ねなんでも合うなあ、というわけで。ほいで、何と何が合う、とわかりやすい話でもなくて。この豆腐、非常に大豆の味が強いなあ。チャーシューもタレが変わるとぜんぜん変わってくるし。
◎から××で評価して、参加者にアンケートをとる…という、非常に地道な作業を繰り返して。水溶性の日本料理が世界的に見ても特殊、みたいな話もあったけれど、概ね、日本酒っていろんなものに合いやすいですね、みたいな話にとりあえず落ち着いたわけではあります。
科学的に『食べ合わせ』ってどう評価されるんでしょう、という話になったけれど。白ワインの亜硝酸と魚のDHAが合わさると生ぐささが際立つ、とか、鉄が多いと魚と合わない…みたいな『合わない』話はわかりやすいけれど、相性が良い、ってのを評価するのは難しいですね、という話。

相性の傾向の違いに関するグラフが出てきたんだけど、ぶれぶれになてしまった…
そして、『美味しさ』の科学、という話になり

『おいしさ』を決定付けるのは、生理的欲求、幼児期の嗜好形成、情報による嗜好、やみつきになる薬理的嗜好。日本酒の場合、薬理的…という話になればアルコールはアルコールだし、幼児期の嗜好形成はあるはずない。情報による嗜好は当然あるでしょうね、ということになると、生理的欲求はどうなのか?というわけで

ラットに日本酒を飲み比べさせて、明確な差が出るか実験したようだ。そしてその結果、明確な差が出るようなのですね。ちなみに、ラットはともかく、蝿に飲み比べをさせたりするのは、お酒に関わる人がみんな一度はやってみるらしいですね。

あと、お酒の初心者群と経験者群の嗜好の違いを実験したものがあって、それによると、飲み始めてからある程度時間の経った初心者はラットと同じ嗜好を示す、とか、経験者はファーストインプレッションからのブレがない、などと、いろいろ面白い話がきけた。
で、お酒に酔わないようにするには…という話になったのだけれど、お酒は適量に、ちゃんぽんは止めましょう、冷酒が後から酔う…ってのは、温度が上がるまでアルコールが吸収されにくいため、酔う前に沢山のんじゃうからじゃないですかね、とか。当たり前と言えば当たり前なんだけど、そりゃそうだよね、って話。
あ、そうそう、お酒の銘柄は、最後に教えてもらいました。イ『黒龍 純米吟醸』、ロ『澤乃井 大吟醸』、ハ『菊正宗 本醸造樽酒』、二『華鳩 貴醸酒』、1『雨後の月 吟醸』、2『菊水 純米』、3『菊姫 山廃純米』、W『ロバートモンダヴビ ウッドブリッジ シャルドネ』。みんな、720mlで1200円くらいまでのお酒、ということで。大変面白いイベントでしたが、もうちょっと、『科学で味わう』の部分を強く押し出してもよかったかな、って気はします。