日毎に敵と懶惰に戦う

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噴火が造りだしたダイナミックな光景が拡がる三宅島を自転車で巡る

二等船室で目覚めると4時。三宅島到着は5時なので、そろそろ起きだして、ぼんやり眠い頭を食堂で覚ましはじめる。4時30分くらいになると船内が活気づいてきて、定刻に三宅島に到着

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8年前に八丈島に行く際、途中の三宅島に降りたのは気合の入った釣り人ばかりで、ほのかに硫黄の香りがしていたけれど、今回はごく普通に生活する人、観光客が降りて行く。朝焼けの橘丸を振り返り

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今回、船が着いたのは三池港。三宅島はほぼ円形の島で、西側と東側にそれぞれ東海汽船の着く港があり、気象条件によって西側の錆ケ浜港か、東側の三池港に着くようになっている。場合によっては伊ヶ谷港もあるのかな。

今回到着した三池港は目の前に2000年の噴火以前の村役場がある場所なんだけれど、潮の条件が良ければ普通は錆ケ浜港のほうであり、観光協会とかお土産売り場も基本的に錆ケ浜のほうなので、三池はちと寂しい

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自転車を組み立てていたら、船を降りた人たちはみな、バスや車でどこかに向かい、港は静かになっていた。なにしろ東京からの到着が朝5時だから、どこの宿も早朝休憩・朝飯サービスを行っており、早々に宿の車でそちらに向かうのが通常なのですね。

自分はそういうサービスは利用しておらず…かと言ってこの時間から走り出してもな…なので、6時半くらいまで、コンクリート造のターミナルの建物で仮眠…おはようございます。さて、走りだそう。港から少し坂道を登り、島を一周する道路にでると最初に目に飛び込んでくるのはこの建物

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三宅村役場とあるけれど、2000年までの話。2000年の噴火で全島避難し、戻って来てからは、島の東側の坪田地区などは濃度が高く何かと不自由であったため、阿古地区の学校を臨時庁舎とした。ガスの濃度が問題なくなった現在も、こちらは村役場の機能は無くなっている。

ここから、時計回りで島内一周道路、都道212号線をはしりはじめるややあって目につくこの看板

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北川にある東京都三宅支庁を起点として、時計回りでキロ票が設置されている。ところで、島内一周は距離が34.7kmと聞いていたんだけれど、この看板を追っていたら、30kmくらいで起点に戻ってしまったような気がしたんだけれど….。島自体の外周は38kmくらいらしいし、34.7kmとは何を指す距離なのだろう

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道端の街路樹もまだ植えたばかりで、ようやくこのあたりに手を付けだしたんだろうか。のどかな感じの住宅街を走っていると、猫発見

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三宅高校がある坪田地区はガス濃度が長らく高かった場所ですね

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島内一周道路は島の中の集落を結ぶ道でもあり、その集落は生活ができる浦や台地に非連続的に形成されているので、それを結ぶ道も比較的アップダウンがある。久しぶりの自転車でひいこら言いながら走っていると、たどり着く大路池

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矢印の従って遊歩道のほうに降りて行ったんだけれど、自転車を抱えたまま…というのは失敗だった。というか、ほんとうは駄目だったのかも…。同じ場所に戻るとは思わず、自転車を抱えて階段を降りて行くと、大路池に出る。南側桟橋

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ああ…とても静かな湖畔。ここは日本一のさえずりの小径、らしい。実際、この時期の早朝は一年でいちばんの鳥の季節で、数えきれないくらいの鳥のさえずりが聞こえてくる。7時頃だから人もぜんぜん来ない。鳥の声だけ聴きながら、しばらくここで昼寝していたい…そんな素敵なところ。

遊歩道は島を一周しているので反時計回りに歩いたけれど、ははは、これは自転車を持ってくるようなところではないね…

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しばらく進むと

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こちらは北側桟橋。案内板や東やが充実していた。鳥の声はあちこちから無数に聞こえるけれど、姿は優雅に飛んでいるサギくらいしか見えず。落ち着いて双眼鏡か何かで見ないとだめかな。

湖の淵の道路にあがり

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この湖畔にはアカコッコ館というところがあるんだけれど、まだ早朝だから、明日にでもしましょう。また周回道路に戻って時計回り。しばらく走ると噴火の溶岩流の痕跡があるけれど

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これは2000年の、ではない。1983年の噴火だと。しかし、皆さんのよくご存知の全島避難の噴火は2000年なのです。1983年のときもいろいろな被害があったようで、さらにさかのぼると1962年と1940年にも噴火しており、20年周期だと、そろそろじゃないですか…マグマの活動とか観察してるだろうから、いきなり今日の明日の噴火はないだろうけど

そして見晴らしの良い場所に出て

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2000年の噴火は山頂からの大規模なもので、島一周の都道もあちこちで分断された。ここにあるのは2004年に開通した立根橋で、これの開通でついに島一周道路の復旧が終わる。

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写真の橋は応急で通した仮橋で、復興記念に保存されてるそうな。噴火後はガス濃度が高いため、土木作業を行うにも、毎日、御蔵島から1時間半かけて通っていたらしい。大変ですね…

さて、もうしばらく走ると阿古の集落に出る。島は一周しても30kmちょっとなので、ただ単に走っていたら2周とか3周とかしようかな、という風になってしまう。で、考えまして

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島は沿岸部の集落を結ぶ一周道路のほかに、雄山の中腹、400mくらいのところを一周する道路もあり、そこに上がるための道路が、何本か整備されている。その一つをあがって、眺めが良い七島展望台にあがってみよう

と言ってもお腹がすいた…さらに1kmくらい進んで、7時から営業してる阿古の郵便局近くの商店に入ってごはんを調達

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おお、これは…なかなか、男子のハートをくすぐる弁当だな…

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道端で食べて、富賀神社のあたりから、さて、上り始めたものの…なにしろ自転車は久しぶりなもので、体力の露骨な衰えが。ほとんどの区間、自転車を押して歩きます…。汗だくになりながら歩いていくと、次第に景色が開けてきて、噴火の影響で立ち枯れてしまった木がよく見える

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道路はしっかり舗装されている走りやすい道

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そして広々とした道に出て、しろっぽい山も良く見えて

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島の中腹を走る道路になんとか到着

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ここには昔、村営の牧場があった

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けれど、2000年の噴火の後は何もない、廃墟みたいになってしまっている

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さきほどの地点から七島展望台に向かう道は、途中、まるで天空に消える道のような素敵な雰囲気になり

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展望台にあがると、これは

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ああ、すごい、360°パノラマ。

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この場所、雄山から独立してポコっと飛び出た峰になっているので、山側に対しても羨望がとても良い

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なんだか写真では良さがあまり表現できていないけれど、本当に良かったんですよ…

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暫くのんびりしていると、映画の撮影?の人たちが、ロケハンでやってきていた

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たいへんだったけれどここは来てよかった。そして晴れていて良かった。あとは阿古の集落に向かって別の道を下ろう。この中腹の道もとても良い

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下りは自転車だとあっとゆうま。島のトレッキング・サイクリングマップを見ると、七島展望台に至るコースは徒歩で、とあるけれど、下りの快適さを考えると自転車を押してあがり、自転車で下るのが良さそう

阿古の集落に降りて、村役場の臨時庁舎の隣にある郷土資料館へ

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2000年の噴火で全島避難したけれど、5年も避難していたので、特に生徒児童はそのまま本島に残った人が多く、小学校中学校も3つから1つに統廃合された。ここはそのうちのひとつで、廃校になったので現在は図書館と郷土資料館に使われている

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三宅島の噴火史と流人史が興味深いんだけど、島出身の大英雄、人間機関車、演説百姓ヌマさん、浅沼稲次郎先生の顕彰コーナーがあるのは良いんですが

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流人コーナーの一画にあり、その場所はちょっと…と思った。さて、そろそろお昼ご飯にしましょう

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村の観光施設的な食堂に入ったら

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日本酒が謎の品揃え…ラインナップを見ると、なんとなく、なるほど感はあるが

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で、こちらで島の魚の漬丼をいただきました。オシャレに盛り付けてあるけれど底のほうにごはんが大量であった

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さらに目の前の温泉にも

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「ふるさとの湯」という三宅島唯一の温泉施設。黒茶のお湯がたっぷりで、露天風呂は浅めの湯船にながく入りながら海を眺められて、なかなか良い。そして空いている

 この温泉でかなり長い時間、2時近くまでのんびりして、そろそろ宿のほうに向かいましょう。メガネの片方が伊勢湾台風で落ちてしまったメガネ岩や

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しかし、それにしても

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この、なんとも言えない荒涼とした風景

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噴火が作りだしたダイナミックな風景がこんなにじっくり楽しめる島とは知らずに来たけれど、これはすごいな

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なんだかこの風景など、ここはアイラ島です、丘の上にあるのはアイラモルトの蒸留所です、と言われたら信じてしまいそうだ。そしてこの建物

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噴火の被害にあったまま放置された建物は、後から調べたら、1983年の噴火でこうなってしまった、阿古小学校・中学校であるらしい。

この島、頻繁に起こる噴火のたびにどこかは被害を受け、役場をあっちに移す、学校をこっちに移す…を繰り返している。島の外の人間からしたら、それでもよく住み続けるものだな、と思うけれど、島の人にとってはもちろん、そんなものではないのだろう

このような荒涼たる風景を過ぎると、伊ヶ谷の集落に向かって上りになる。

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三宅島一周の道路、アップダウンが多く、最高地点は150mくらい。自転車ノリには程よい刺激でしょうか、わたしは不要です…。そのピーク付近で黒猫を見かけた

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近付いたら逃げそうになったので、慌てて、危害を加えるつもりは毛頭…写真だけ…と示したら、うむ、と立ち止まってくれたから、賢い猫なのでしょう

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そして一気に下って…ちょっと一周道路を離れて、伊豆岬に向かってみましょう。サイクリングガイドにも、サイクリングロードとしてぴか一推奨されていた場所

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一周道路から外れて下っていくと…ああ、これはよい

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灯台を目の前にした東屋で休憩

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ここの東屋、波の音と風の音と、いろんな鳥の鳴き声しか聴こえなくて、よい風が吹いていて、最高なのだ

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そしてこのあたり、あちこちで噴火の歴史がむき出しになっており、積層した地形の教科書みたいなものがゴロゴロしているのだった

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ここのサイクリングロードはとてもよい

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で、ふと、突然現れた電柱を不思議に思ったら

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NTTの三宅島暴露試験場だそうで。耐久性のテストをしているのかな

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そろそろ夕方が近くなって海がキラキラしてきた

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ヘリコプターが飛んでいた。愛らんどシャトルかな

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もうしばらく走ると、宿もある神着の集落へ。ここには三宅島支庁があり

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その他にも警察署があったり、出先官公庁的にはこのあたりが拠点になっている。村役場や観光協会は阿古にあるから、それぞれで拠点化されているんですね。噴火に備えて、敢えて分けてあるのかもしれない

で、ここの集落でもまた猫発見

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みゃーみゃーと声に惹かれて行ってみれば

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どうやら、浅沼稲次郎先生の銅像と生花を見て行け、ということだったらしい。はい、もちろん、見させてもらいます

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この神着の集落、特に猫が多いね

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16時近く、そろそろお宿に入りましょう。宿の前に来たら韓国料理店から大柄な男性が出てきて、宿に案内してくれる。なるほど、レストランを経営している、言葉の感じからして韓国出身の人かな、がホテルもやっているのかな

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とはいえ、しばらく夕飯まで時間もあるので、荷物だけ置いてもう少し進んでみよう。立派なこいのぼりを横目に

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3kmほど進んだ先の椎取神社

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三宅島には延喜式内社が十二座もあり、ここもそのひとつ。度重なる溶岩流や泥流で流されている場所で、質素な造りながら雄山を後背にして風情が良いな、と思ったら、なんと奥があると

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ずんずん進むと空気が良くなってくる

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そしてたどり着いた本殿は、あぁ、これは、なんかすごいな。背筋が伸びる感じ。

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押し迫る溶岩を背にして。鳥の声が聴こえ、良い風が吹き

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心あらたまる場所なのでした。で、ここはさらに見ものがある

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この椎取神社、2000年の噴火の時に発生した泥流ですべて埋まってしまったのだ

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これを噴火の遺構として、そのまま残してあるというわけ。このようなところ「ジオスポット」にはとても詳しいカンバンがそれぞれ立っており、わかりやすい

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宿に戻る途中、また商店に寄る

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三宅島にはコンビニは無いけれど、品ぞろえの中々よい商店が各集落にあり、それぞれで、今朝食べたような味わい深いオリジナル弁当を作っているのですね

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宿に戻り、お風呂に入り、晩御飯前に少しお散歩。浜辺に降りて行くと、三宅村交通公園から、こんな素敵な夕陽を見ることが出来た

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ちなみにこの交通公園、車の運転の練習をする場所のようだ

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宿の晩飯、宿の人が今日釣ったメジナの煮付け、メアジの刺身、アシタバ天ぷら、アシタバと里芋の揚げたの、畑で採れたフキにキュウリに新じゃが、豪華で美味しい

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ビールをお願いしたら、なぜかサービスで、三宅島のクラフトビールが出てきた。え、いいの?あしたばエールとパッションフルーツエール、美味しくいただきます

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三宅島オリジナルエール、試行販売中で、正式発売はまだらしい。いわて蔵ビールの世嬉の一酒造が造ってるのね。パッションフルーツをこれだけ香るまで使うのは贅沢に使っているんだろうと思うが、常識的に売れる値段からは乖離しそうだな

さらに面白いのは、いまこれを食べてるのが韓国料理屋であり、となりで韓国人観光客は焼肉しており、宿のオーナーは韓国人で、店内に韓国のアイドルの歌がガンガンかかっていることである。韓国の田舎町に一人で泊まったら親切で日本語達者なアジュマに歓待されているかのようで、妙に楽しい
働き者のオーナー、モモさんは、この『プチホテルあいらんど』と『民宿みなと』の、二軒経営してると。非常に親切なんだけど、グイグイくる感じで、細かいことはあまり気にしない親切さが、日本の田舎でも最近あまり無い、韓国とか中国っぽいそれで、それがまた楽しいお宿なのだった。

お腹いっぱいになって、星空を見上げて(夏になると屋上から天の川を眺めるのが素晴らしいらしい)、今日は早めに、おやすみなさい…

在華坊(@zaikabou)/2018年05月01日 - Twilog